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【「はじめに」公開/本文チラ見】『心理職は検査中に何を考えているのか?』|浜内彩乃・星野修一

 「はじまりから終わりまで、一連の流れをたどって読み解かなければ、ほんとうの「検査力」は身につかない――」

 クライエントとの出会うとき、テスト・バッテリーを組むとき、心理検査を実施するとき、所見を書くとき……。
 心理検査にまつわるさまざまな場面で、心理職は何を考え、何に悩み、どのように「アセスメントを構築している」のか――?
 本書は心理検査に習熟した心理職の思考プロセスを疑似的に追体験できるように構成した実践的な1冊です。各心理検査のマニュアルと解釈の専門書とを有機的につなぎ、検査データとリアルなクライエントの様子とをいきいきとつなぐことを目指しました。

 本記事では、著者である浜内先生・星野先生による「はじめに」を公開いたします。ぜひ、お立ち読みください。

※本書は9月1日~パシフィコ横浜で行われます「日本心理臨床学会 第42回大会」にて先行販売いたします。


はじめに

 心理職として働くにあたって、「心理検査に精通していること」が求められることは少なくありません。
 心理検査に精通するために、まず実施マニュアルを参考にして、検査用紙や検査道具を使って、自分で実施してみたり、同業者同士でロールプレイを行って練習し、実施方法を定着させます。さらに、実施マニュアルやさまざまな書籍を読んで、スコアリングや解釈について理解を深め、それでも不安な場合には、研修会にも参加するでしょう。

「やれる限りのことをやった!」

と、いざ心理検査を実施しようとしても、多くの悩みが生じてしまいます。

実施前では……、
・この心理検査で目的に沿った結果が出るのだろうか?
・テストバッテリーはどう組めばいいのだろうか?
・検査道具や教示はこれでいいのだろうか?

実施中には……、
・思わぬ質問が出てきたが、どのように対応したらいいのだろうか?
・クライエントが懸命に答えている最中は何をしていたらいいのだろうか?
・何を記録しておくといいのだろうか?・クライエントに聞いておいた方が良いことはあるだろうか?

実施後にも……、
・この解釈で正しいのだろうか?
・結果をどのようにまとめたらいいのだろうか?
・いつも同じような所見の内容になってしまう
・所見がマニュアルに書いてある単語や文のつぎはぎになってしまう
・クライエントの役に立てる所見になっているだろうか?

 本書を開いている皆さんであれば、こうした悩みにご自身の体験と重ねてうなずくことも多いでしょう。
 私たちは、これまで臨床心理士・公認心理師として、医療現場や私設オフィスなどの臨床現場で心理検査を数多く実施してきました。そして、現在では、若手の心理職に助言や指導をする機会が増え、心理検査にまつわる研修会を実施したり、スーパービジョン(SV)を行ったりしています。

 そんな私たちも、初学者の頃には先に挙げた悩みを持ち、苦しんできました。そして同じように悩み苦しむ若手の心理職に対して、その悩みを脱するための手立てを提供できないだろうかと思っていた矢先に、編集者の前川さんから書籍の執筆をご提案いただきました。
 心理検査を行うには、クライエントと出会う前から準備をすることが重要です。そして、各検査に精通し、実施目的に合った検査を選択し、クライエントの情報収集を行い、クライエントと出会って検査を実施して、収集したデータを解釈します。それら一つ一つの作業が丁寧に、そして十分に行われて初めて所見を書くことができ、心理検査の目的に応じたフィードバックをすることができます。
 書籍や研修会は、データを解釈するための知識やスキルに焦点を当てたものが多いようです。また、心理検査の書籍に掲載される事例には、背景の情報や検査データ以外にも多くの情報がありますが、それらの情報と検査データとがどのように結びついて所見が作成されているのか、詳細を記したものはありません。そして検査結果の解釈について多くのことが載っていても、それらをどのように組み合わせて所見にしていくのか、その過程は明示されていません。
 そこで、本書では、各検査の特色について理解することから始まり、クライエントの情報収集の必要性や、検査中の行動観察が検査データとどのように組み合わさり、所見を作りあげていくのか、そのプロセスを明示しています。
 それらをリアルに、またオープンに描き出すことで、その行動や思考過程を可視化できる形にしてみました(リアルを追求しすぎて、登場する心理職は非常勤勤務という「あるある」もあります……)。
 本書を書き進める中で、心理検査の所見を作成するには、心理検査そのものの知識だけではなく、大学院のときに学んだ基礎心理学や、臨床現場で学んださまざまな臨床の知を用いて心理アセスメントを行っていることに改めて気づかされました。
 そして、それらの知識や体験を統合し、所見を生み出すスキルには、どうしても「職人芸」のような性質があり、その体験のすべてを言語化することは困難であることにも気づきました。
 それでも、若手心理職がつまずきやすいところを検証し、私たちが日々臨床の中で何を考えながら心理検査を実施しているのかを振り返り、できる限りのことを文章にしました。心理検査を実施する際に、心理職がどのようなことを思い浮かべているのか、そのあれやこれやを書き連ねています。
 文章を読み進めてもらえれば、心理検査に習熟した心理職の思考を疑似的に体験できるような作りにしています。あくまで試みではありますが、同様の本は現在のところ他にはないと自負しています。

各心理検査のマニュアルと解釈の専門書とを有機的につなぎ、検査データとリアルなクライエントの様子とをいきいきとつなぐ

 それがこの本の最大の特長です。
 「この一冊を読めば、心理検査を実施できるようになり、立派な所見が書けるようになる」。そんな素晴らしい本があれば、どれほど多くの心理職が救われることでしょう。しかし、残念ながらそのような魔法の本や研修はこれから先も登場しません。
 心理検査もカウンセリングと同様、クライエント一人一人と向き合っていく作業であり、クライエントとの関係なしに成長することはできません。人の心に触れることが容易でないことは、臨床を行う皆さんであれば十分にわかっていることでしょう。
 検査を一つ一つ丁寧に実施し、クライエントを思い浮かべながら所見を書き、フィードバックをしたときの反応を見ていく……。その中でしか、クライエントの心に触れ ていることに気づくことはできません。
 各検査のマニュアルを読み、検査の実施法を習得した後に本書を読んでもらうことで、クライエントの心に触れるヒントを見つけることができるでしょう。そしてさらに各検査の専門書を読むことで、リアルなクライエントの心について深く考えることができると考えています。
 本書が、心理検査を機械的に行うのではなく、クライエントの心と向き合う場として体験する一助になれば幸いです。

浜内彩乃(はまうち・あやの)
大阪・京都こころの発達研究所 葉 代表社員,京都光華女子大学健康科学部准教授。臨床心理士・公認心理師・社会福祉士・精神保健福祉士。
兵庫教育大学大学院修士課程修了後,教育センターや発達障害者支援センター,精神科医療機関などで勤務。2018年9月に『大阪・京都こころの発達研究所 葉』を臨床心理士3名で立ち上げ,クライエントへのカウンセリングや心理検査,企業や医療・福祉機関への研修,専門職へのスーパーヴィジョンなどを行っている。
著書に『発達障害に関わる人が知っておきたいサービスの基本と利用のしかた』『発達障害に関わる人が知っておきたい「相談援助」のコツがわかる本』『精神科の受診や特徴までがわかる発達障害・メンタル不調などに気づいたときに読む本』(2021年/2022年/2022年、すべてソシム社)がある。

星野修一(ほしの・しゅんいち)
大阪・京都こころの発達研究所 葉 代表社員。臨床心理士・公認心理師。
神戸大学大学院総合人間科学研究科博士課程前期課程修了後、教育センターや精神科病院などで勤務。その後、京都大学大学院教育学研究科臨床教育学専攻博士後期課程に進学し、単位取得後退学。代表社員を務めるオフィス以外に、精神科クリニックや学生相談室などに勤務。
共著に『精神分析臨床での失敗から学ぶ――その実践プロセスと中断ケースの検討』(2021年、金剛出版)、共訳書に『バリント入門――その理論と実践』『リーディング・クライン』(2018年/2021年、ともに金剛出版)、『精神病状態――精神分析的アプローチ』(2022年、岩崎学術出版社)がある。

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目 次

第1部 概要編
 第1章 心理アセスメントとは何か
  1 人の「心」に近づくための心理アセスメント
  2 アセスメント=「評価すること」?
  3 心理アセスメントをするうえで必要な知識とは?
  4 クライアントを「よく見る」「観察する」って?
  ◉ 第1 章前半のまとめ
  5 心理検査とは何か 
  6 何のために検査するのか
  7 心理検査の種類 
  8 どのように実施するのか
  ◉ 第1章後半のまとめ 

 第2章 クライエントに出会うための準備 
  1 心理検査の予約に至った経緯を知る
  2 クライエントの情報を集める
  ◉ 第2章まとめ 

 第3章 テスト・バッテリーのきほん
  1 テスト・バッテリーとは心理検査を組み合わせて実施すること
  2 検査目的に合わせた組み方
  ◉ 第3章まとめ

第2部 事例編
 第4章 テスト・バッテリーを組むまでの思考プロセス

  1 情報を収集する
  2 受付スタッフに様子を聴く
  3 問診票から情報を収集する
  4 院長に様子を聴く
  5 シミュレーションをする
  ◉ 第4章チェックリスト 

 第5章 心理検査実施時の思考プロセス
  1 検査道具の準備と検査の説明
  2 WAIS-Ⅳを実施する
  「積木模様」の実施/「類似」の実施/「数唱:順唱」の実施/「数
   唱:逆唱」の実施/「数唱:数整列」の実施/「行列推理」の実施/
  「単語」の実施/「算数」の実施/「記号探し」の実施/「パズル」の  
   実施/「知識」の実施/「符号」の実施/「語音整列」の実施/「バラ
   ンス」の実施/「理解」の実施/「絵の末梢」の実施/「絵の完成」
   の実施/検査後のやりとり
  3 バウムテストを実施する
   PDI 
  4 P-Fスタディを実施する
   前半部(場面1~12)/後半部(場面13~24)
  5 ロールシャッハ・テストを実施する 
   反応段階/質問段階
  ◉ 第5章チェックリスト

 第6章 解釈から所見作成・フィードバックまでの思考プロセス
  1 事前情報をまとめて、見立てる
  2 WAIS-Ⅳの結果からわかること
   プロフィール分析/プロセス分析/内容分析/行動観察/所見
  3 バウムテストの結果からわかること
   全体の印象/形式分析/内容分析/所見 
  4 P-F スタディの結果からわかること
   場面別スコア/GCR値/プロフィール・主要反応/超自我因子/反応 
   転移/所見
  5 ロールシャッハ・テストの結果からわかること
   クラスターの検索順序を決める/統制のクラスター/対人知覚のクラ
   スター/自己知覚のクラスター/感情のクラスター/情報処理過程の
   クラスター/認知的媒介のクラスター/思考のクラスター/所見
  6 総合所見について
  7 フィードバックについて
  ◉ 第6章チェックリスト
付属資料

表紙・本文チラ見

本文・装丁デザイン:西野真理子(株式会社ワード)/本文・カバーイラスト:堀江篤史

本文チラ見

情報を収集し、何を考えているのか、「思考プロセス」を明確に!

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