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恋十夜

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恋十夜 第三夜

「そろそろ飛ぶ練習を始めるか」ある日、父さんが私にそういった。
「あらぁ、この子ももうそんな年頃なのね」母さまは感慨深げだ。

 人間って飛べたっけ?と私は首を傾げたが、両親がそういうのだから飛べるのだろう。
 その日のうちに飛ぶ練習が始まった。

「走れ!走れ!!今だ!蹴り上げろ」

父さんの言う通り思い切り走り、地面を蹴り上げた。

ふぅわっ

なんなく体が浮く。地に足が付いてなくて不安定だけ

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恋十夜 第二夜

こんな夢を見た。多分夢だと思う。

雨上がりの夜。歩道の水たまりが街路灯に照らされ、鏡の様に光っている。
私は水たまりを避けながら家路を急ぐ。

(あー疲れた)

新人研修が終わり週明けからは配属先での勤務が始まる。今日は激励会だった。

(眠い、早く帰ってお風呂に入りたい…)

バシャっ!

少しのアルコールと、疲れ、おまけにボーッとしていたせいで、うっかり水たまりを踏んでしまった。

(あちゃ

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恋十夜 第一夜

恋十夜 第一夜

第一夜 

こんな夢を見た。

乳母のキヨが窗を開け「お孃様、本日は晴天にございます。空が靑く澄み渡り清々しゅうございます」などと云いながら私を起こし、次いで寢臺の背を上げた。
キヨがラヂオを点けると二胡の音が流れ出す。私は二胡の音色を聽きながらキヨに身を委ね朝の身支度をしてもらう。慣れない此の地で快適に過ごせるのは全て彼女のお陰だ。

私の身支度をすっかり終わらせたキヨは「花瓶の水を變へて參りま

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