参考:メディアに見るスポーツのクリエイティビティ
私のデザインの基本的な考えは、
人々は日々、仕事や生活の活動の文脈を共同で編んでおり、状況に応じて文脈の境界を置き、新しい文脈を創り、それを繰り返す。
デザインにおいて重視したいのは、文脈の境界に新しい文脈を創造する「クリエイティビティ発揮」のチャンスが有る。ということです。
私は文脈の境界での「クリエイティビティ発揮」の例として、スポーツをよく挙げます。スポーツはルールによって制限された活動なので、通常の社会的な活動に比べるとシンプルでわかりやすいためです。
以下、テレビ番組で見ることができた「クリエイティビティ発揮」が印象深かったので引用します。
「NHKスペシャル ラグビーワールドカップ2019 第1回 世界最強の神髄に迫る」より
2019年9月22日(日) 午後9時00分~9時49分
これは、2019年ラグビーワールドカップの強豪チーム「All Blacks」の強さの背景がメインの番組。
まず、ゲームをつくるポジション「スタンドオフ」である、Beauden Barrettへのインタビューがあり Barrett は、
「我々はいつも相手チームよりクリエイティブなプレーをする必要がある。そのキーは意思疎通だ。」
と語る。
番組後半で、そのクリエイティブなプレーと意思疎通とはどのようなものか、実際の試合の流れが選手の目線を追った3D映像で辿られた。
試合:2018 3rd Bledisloe Cup
All Blacks(ニュージーランド代表)vs Wallabies(オーストラリア代表)
結果:37 - 20
2018年10月27日開催 於日産スタジアム
シーン 1 ターンオーバー
Wallabies が攻撃を繰り返し、All Blacks の陣地深くまで攻め込んでいるが、パスミスによって All Blacks にボールが渡る。
シーン 2 All Blacks が目線でスペースを共有
ターンオーバーの瞬間、Beauden Barrett は低めの位置にいてフィールドを見渡し、逆サイドのスペースに居る味方の Ryan Crotty から目線で合図を受ける。
その様子を見て Barrett のそばにいる味方もスペースを共有する。
シーン 3 Wallabies は切り替えができない
攻撃を続けていた Wallabies はチャンスを失い消耗が表に出る。
Barrett の逆サイド、Wallabies キャプテンとその近くにいるメンバーたちが下を向いて歩いている。そこに守備の空きスペースができる。
シーン 4 攻撃の意図を共有
スペースを見たAll Blacksの Crotty が、外サイドの仲間と、逆サイドの Barrett に目線で合図を送る(シーン 2 冒頭へ)。
合図を受けた Barrett はチームに攻撃の意図を共有して、ボール近く、中間、外側のメンバーの役割が決まる。
シーン 5 フェイント
All Blacksのボール出し役の TJ Perenara が Barrett へのパス動作に入る。
そのとき Perenara と Barrett との間にAll Blacksバックスの Sam Whitelock が居た。
Whitelock は Perenara の目線を受け、パスを受けるフェイントでWallabies のディフェンスを引き付ける。
シーン 6 パスで逆サイドのスペースを突く
Perenara のパスを受けた Barrett が逆サイドのバックスにボールを送り、バックスがスペースを突く。
まとめ
All Blacksは、ターンオーバー(攻守の文脈切り替えの境界)の瞬間に、素早くチームで意思疎通し、共同で有利な攻撃の文脈をつくり出した。
攻撃の文脈は、メンバーの役割やパスコース、スペースなどのリソースを組織化するが、どう組織化するかのクリエイティビティの発揮では、 Barrett がハブとなった。
「守備 - 攻撃」
ここで見ることができた主な文脈は「守備 - 攻撃」だが、ほかにも文脈を見ることができそうだ。
「蓄積 - 実践」
目線や合図の交換で瞬間に意思疎通したり、そのやり取りを見た仲間も同時に意思を共有することができるのは、長年積み重ねたコミュニケーションと練習によってチームに蓄積した知識の成果ではないか。
ターンオーバーの瞬間にBarrett と仲間たちは、蓄積から実践の文脈を創り出した。
All Blacksにとっての、長年の蓄積と瞬間の実践という文脈がありそうだ。
「会話 - パス」
実践は、瞬間の繰り返しの出来事だ。
攻撃の意図を共有しても、プレーはその状況によって形を変える。
「会話のようなパス」「パスを通じて変わるプレー」といったことの中にも文脈と境界があるかもしれない。
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