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カザルスの家に行った話

かの有名な「パウ・カザルス」。20世紀もっとも偉大なチェリスト。

現代のチェリストにとってもっとも重要なレパートリーであるバッハ作曲の無伴奏チェロ組曲だが、とくに1番のプレリュードはテレビCMやら映画やドラマのBGMでもしょっちゅう使われるので、誰もが一度ならず、なんども聞いたことがあるだろう。この無伴奏チェロ組曲が評価されるきっかけはカザルスによってもたらされた。青年カザルスはバルセロナの楽器店で埃を被っていた(ほんとに埃を被っていたかは知らないが、、)その楽譜を手に取り、いたく感銘を受けたそうだ。それまで、バッハの無伴奏チェロ組曲はエチュードかなにかだろうと、大して注目もされない存在だった。それをカザルスが再評価し、名演とともに世に知らしめたのだった。

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カザルスはスペイン出身で、戦時下やファシズム時代にはフランスでの亡命生活、晩年のプエルトリコでの生活などスペインを離れていた時代も長くあったが、スペインで住んでいた家がバルセロナから南に電車で1時間ほど移動したSan Salvadorという町にあって、今は、記念館として公開されているという。

というわけで、ぼくもアマチュアチェリストの端くれとして、バルセロナ出張のついでにSan Salvadorに行ってみることにした。

バルセロナからSan Salvadorへは、Renfeというスペインの国鉄で1時間弱、St. Vicenç de Caldersという駅で降りて、そこから記念館へは20分ほど歩く。タクシーに乗ればよかったと後で公開したくらいには遠い。

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駅の近くで市が開かれていた

San Salvadorはビーチ沿いのプチリゾートという風情で、とてもこぢんまりとした町だ。駅からビーチに向かって丘を下がっていく途中(線路をどう越えたらよいのかわからなくて、ずいぶん回り道をしたのだが、、)、公営団地や学校の広い敷地やらがあって、ビーチに近いところには少し高級に見える綺麗な住宅地が広がっている。カザルスの家はビーチに面した通りにある。白壁の内側に入ると庭園が広がっていて、庭園を挟んで反対側の白壁の向こうがすぐビーチだ。

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カザルス邸の中庭。ぐるっと白壁で追われている。

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白壁の向こうはビーチ

かつての住居は記念館となっている。受付で係の人を探して、チケットを買った。あとは自由にまわってよいということなので、30分くらいだろうかゆっくり見学させてもらった。客はぼく一人。展示自体は退屈なものだが、それでも、カザルスをとても身近に感じることができる。それだけでもアマチュアチェリストとして価値のある体験だ。

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カザルスは毎朝ピアノを弾いて、ビーチを散歩して、それから無伴奏チェロ組曲を日替わりで一曲練習したという話を読んだことがある。その舞台がこの場所なのだ。

カザルスと言えば、国連での平和を訴えた伝説的なスピーチとそこでのカタルーニャ地方の民謡「鳥の歌」の独奏が有名だが、展示の最後はその映像で締めくくられる。時代に翻弄されながら、たとえ、故郷に帰ることができなかったとしても、信念を決して曲げず、音楽を通じて平和を訴え続けた続けた天才チェリストの生き様。その波乱の人生の中にあって、平穏なひとときがこの地にはあったのだろう。白いビーチとキラキラと光る地中海をのんびり眺めながらそう確信したのであった。

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