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| エッセイ#17 | ラベルのないところへいきたい

最近なにもする気になれない。

今日のやることリストには
やらなければいけないことも
やりたいこともたくさんあるのに
やりたいことすらやる気になれない日々が続いている。

世の中には何がしたいのかわからない人が
たくさんいるらしい。

何がしたいのかわからないのと、
したいことがあるのにやる気が出ない人は
どっちが辛いだろうと一瞬考えてみたけれど
何がしたいのかわからない方が
辛いに決まってるか、と申し訳ない気持ちになる。

私の仕事机は一つ一つ日本の職人さんの手で作られた
L字型の木の机だ。仕事を頑張りたくて1年くらい前に16万円を分割で購入した。

子供用の勉強机として販売されていたものだったけどこんなにたいそうな勉強机で勉強する子供はどんな気分だろう。

息子の勉強机を見ると、鉛筆の跡やら何かを削ったあとやらでまるでヤンキー教室を天板の上だけで表現したような感じだ。

息子は絵を描くことを愛していて、
自分は絵の天才だと思っている。

描いている時の様は、昭和の絵描きのように
雑に頬杖をつき、顔とテーブルの距離は近く
何かに取り憑かれたように真剣だ。

ボコボコの机で絵を書いていると描きづらそうで、
本人に聞いてみると、何も気にならないらしい。

息子が学校に行っている間にセリアで壁紙を買って
望まれてもないのに勝手に綺麗に貼りなおす。

こんなことを何回も繰り返している。

貼り直した最初の方は、"もう汚すなよ"という
親からの圧を感じながら息子は絵を書いている。

だから、職人さんが一つ一つ手作りで仕上げた16万の木の勉強机なんて、子供は見えない圧力に気をとられ、きっと落ち着いて勉強どころではない。

そう思ってしまうのは、"絶対に良い子でなければならない"と、神にでも誓ったかのように母親の顔色を伺いながら生きてきた。そんな私だから。

  
ちなみに私が母親の顔色を伺っていたのは、母親が怖かったからではない。大変そうだったから。
子供なりに考えて、自分ができることは「良い子でいること」だと思ったんだろう。

気合を入れるために買った机で毎日仕事をし、本を読み、考え事をし、映画を見、お酒を飲んでいる。

壁には息子がお小遣い稼ぎのために描いた私の絵と、私がお願いして書いてもらった「思いを馳せる」という言葉と6月公開の「違国日記」のチラシが貼ってある。


その下にはペットボトルの水がいつも置いてあって、おしゃれでもなんでもないけれど、その一角が私はすごく気に入っている。

写真を撮った。

でもペットボトルの水のラベルが気にくわず剥がした。


剥がした瞬間に虚しさを感じたんだ。冷めた感覚もあった。冷めたというのは、B型特有の"熱しやすく冷めやすい"の、冷めただ。

ラベルがなければ、本当にただの透明の水。

見た目は水道水と何も変わらない。

夫のこだわりで水はいいものを毎月取り寄せている。
私は水道水でも全く平気だけど、せっかくだからとその水を飲んでいる。

ラベルがないだけでここまで人は冷静になれるのか。
この先の何か生きるヒントになりそうな予感がした。

シリカ97mg、カルシウム31mg、
マグネシウム14mg…

外したラベルの成分表示をぼーっと見ていたら

自分がダサくて嫌になってきた。

フォロワー数も非表示にできたらいいのに。

そう思うのは

自分がきっと

ラベルを気にしながら生きているからだろうね。
 

➹えりな
@erina_book
  







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