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学校の課題を解決するために、地域の人たちを巻き込んでいくプロジェクトに

僕が校長を終えた理由-山下由修さん
千代田区立麹町中学の工藤校長の著書『学校の「当たり前」をやめた』を読んだ私に、「静岡にも同じように、情熱をもって教育改革をしてきた校長先生がいる」と紹介され、山下さんとのインタビューが実現しました。先生たちがシフト制で働けるような制度を入れたり、放課後の部活を地域の事業所や高校大学生を巻き込んだサークル活動にしたり、大胆な改革を推進した方です。インタビュー少し前の2019年3月で校長としては定年退職。今後どんなカタチで教育に携わるのか、大いなる野望を直撃しました。

2019年夏、”いわみんプロジェクト”として、社長や起業家、独立して活動している方を対象に100人インタビューを実施しました。彼らがどんな想いで起業し、会社を経営しているのか? その中での葛藤や喜び、そして未来に向けて。熱い想いをたくさんの人に伝えたいと思っています。

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山下 由修(やました よしのぶ)さん

一般社団法人シズクリプロジェクト 代表
2019年3月 静岡県大里中学校校長(定年退職)
元静岡市清水江尻小学校校長

静岡のコミュニティスクール実現がミッション。
学校の当たり前を見直して変革を進めた立役者

 僕には小学生の時の原風景があります。背景はもちろん、地元静岡の山や川ですが、それよりも友だちとさまざまなチャレンジをしたり、遊んでいたときに楽しんでいた風景です。自分の原点となるこの風景に携わっていける教員になりたいと思い、進んできました。

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 僕は、今年(2019年3月)校長としては卒業しましたが、最後の8年ぐらいは、静岡で初となるコミュニティスクールを作るべく奔走してきました。コミュニティスクールというのは、学校・家庭・地域が育てたい子どもの姿を共有し、力を合わせて学校運営に取り組む"地域とともにある学校"のことです。
 まず、小学校と中学校の義務教育期間を一貫して教育できるようにし、学年を超えた交流をすることで、縦のつながりを大事にし、地域の人たちとの横のつながりを持つことで、グローカル人材の育成を考えました。いずれは、未就学児までを含めた4歳から小4年までをロースクール、5年~中1までのプレ思春期をミドルスクール、中2,3年をジュニアハイスクールとし、連続的な学びを提供していく構想です。
 僕が実際に行ったものでは、総合的な学習を探求的な学びとしてとらえ直し、地域貢献学習とするべく地域の民間企業と一緒になって子どもたちを育てていくような組織を作りました。"アフタースクール"といって、週に1回のサークル活動の時間です。民間の人たちにお願いしてさまざまなワークショップを開催してもらい、子どもたちが好みの学びを選べるしくみです。

プロジェクトタイプの学校経営にシフト

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 また、職員の働き方を抜本的に変えるべく、プロジェクトタイプの学校経営にしました。職員会議をなくし、学校内にある課題を先生たちから出してもらい、あとはそれぞれの課題解決のためのプロジェクトをいくつもつくり、それぞれのプロジェクト担当者がミッション達成のために進めていくというもので、やり方は自由です。例えば、"いじめ・不登校ゼロ"というミッションを掲げたら、そのプロジェクト担当教員は、どうやってそのミッションを達成するか考えて行動していきます。

 教員のシフト制も取り入れましたし、部活などの終了時間が夏は遅い、冬は早いという季節変動型だったものを年間統一にしました。これは、職員の負担軽減を考えてのことです。今の教員たちは4トントラックに8トンの荷物を載せて、長距離運転しているような状態で、いつ倒れてしまうかもわかりません。それほど負荷が大きくなっているんです。子どもたちにしっかりとした教育を提供するためにも、その状況を少しでも改善させる必要があるんです。
 この取り組みはスタートしたばかりです。なのでもちろん、子どもたちや親御さんから「もっと部活時間を増やしたい」という要望が出てくる可能性もあります。そういったときに、「決まったことだからダメです」とはせずに、今度は親御さんも交えてのプロジェクトを起こし"部活の練習時間"についてとことん話し合い、みんなにとっての納得解を導くようにする方法をとるカタチで学校をみんなで運営していければいいと思っています。親や地域の人たちも巻き込んで、自分事として学校の課題を解決してもらうことができるようになります。

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山下さんのお話は組織運営の最先端と言われているティール型組織に非常に近い考え方です。保守的だと言われている公務員の世界に、この考え方を導入し推進していった。考えただけでそれがどれほど大変だったかが、おしはかられます。ものすごいパワーと強い使命感を感じて、お話を聞いているこちらまで熱くなってきました。

退職後はさまざまな誘いを断り
有志と共に新しい探求型の教育を提供していく

 僕の考え方は一石二鳥だったらやる必要はなく、一石三鳥や一石数鳥になるようなことをしよう、というものです。学校では主役の子どもと教員の2者にとっていいもの、つまり一石二鳥だとすぐにやろうとなります。でも、実際には保護者の方や地域の方たちまでを考えて、みんなにとっていい施策というものが最高の宝だと思います。こういったアイデアは、今目の前のことしか見ていないとなかなか出てこないものです。未来に視点を置いて考えてほしいんです。
 子どもたちがオトナになったとき、どんな社会でどんな状態になっていたら幸せなのか? そんなふうに考えれば、今やっておくべきことがいくらでも見つかります。とはいえ、今すぐにすべてのことができるわけはありません。今の状況でみんなが納得してもらえる解を見つけて、少しずつでも実践してくことが大事なんです。

クエストエデュケーション 全国の中学校・高等学校で導入されている、新時代の探究学習プログラム   教育と探求社 EDUCA QUEST

 昨年、教育と探求社が開催している"クエストカップという探求的な学びを提供している会社の社長さんとお会いする機会がありました。実際にクエストカップも見せてもらい、これを静岡にもってきたいと強く思いました。子どもたちへの探求的な学びが提供できるだけでなく、教員たちの限界を学校の外からサポートできる仕組みになると思っています。このプログラムは人材育成であり、地域創生の意味も果たすことになります。

 そこで、僕の定年後のセカンドステージをこの事業にかけたいと思い、まずは2019年度に実際にスタートするための準備をしています。仲間を集め、協賛企業に声をかけています。熱をもった人たちが集まれば、きっと大きなイノベーションが生まれると信じています。静岡はなかなか保守的な地域で、メーカーさんが新商品を作ったときのサンプルエリアに選ばれることがあったりするんです。もしそんな保守的な静岡で成功できたら、ほかの地域にも同じモデルが派生していくと思っています。そうなれば、教育界全体が大きく変わっていけると信じています。

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▲この取り組みは、プロト版として2019年秋にスタート。企業の社員が生徒たちに、自社の事業説明をしている様子です。

山下さんほど実績がある方には、私立の学校からいくらでも校長やアドバイザーとしてのオファーが来ています。それらを蹴ってまで、この事業を推進させていこうとしているのだとお聞きしました。「静岡から教育を変える」。この想いが実現している未来、私もしっかり自分の目で見て応援していきたいと思います。

下町の2D&3D編集者。メディアと場作りのプロデューサーとして活動。ワークショップデザイナー&ファシリテーター。世界中の笑顔を増やして、ダイバーシティの実現を目指します!