株式会社ONE_FOR_ONE__ワンフォーワン_

保育士からIT企業の社長へ。自分が認められない引きこもりの暗黒時代も…

僕が社長になった理由-広瀬 信一さん-
保育士からIT業界にきて起業家という異色の経歴を持った広瀬さん。お会いしてみると、すごくリズミカルな話し方が印象でした。質問してみたところ、もともとラッパーだったと言います。つまり、保育士時代はラッパーでボーダーだったそう。現在は鉄人競技のトライアスロンなどもやっているといいます。なるほど、いろいろな要素が混ざった方のようです。社長になるまでの凸凹な道のりをお聞きしました。

2019年夏、”いわみんプロジェクト”として、社長や起業家、独立して活動している方を対象に100人インタビューを実施しました。彼らがどんな想いで起業し、会社を経営しているのか? その中での葛藤や喜び、そして未来に向けて。熱い想いをたくさんの人に伝えたいと思っています。

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広瀬 信一(ひろせ しんいち)さん

株式会社ONE FOR ONE 代表取締役社長
1982年生まれ / 横浜市中区出身
元保育士。鶴見大学短期大学部保育科に首席入学。
卒業後、2002年に世田谷区役所入所。入所後、保健福祉部保育科(現子ども科)配属。世田谷区立三軒茶屋保育園の保育士として勤務。
2008年、SEMコンサルティング会社の株式会社ロージー入社。メディア事業部長として広告代理事業に従事。
2015年1月28日に株式会社ONE FOR ONEを設立、代表取締役社長に就任
日本元気塾米倉誠一郎ゼミ5期生。

最短で希望だった保育士になるものの
安定した未来に疑問を感じ、2年で退職

 小学生のころから自分より年下のいとこたちと遊ぶのが大好きで、「子どもってかわいいなぁ」と思っていたんです。親や周りの人から「保育士になったらいいんじゃない」と言われて、子どもと遊ぶことで仕事になるんならいいな、と思っていました。高校1年か2年の夏に、近くの保育園のお手伝い体験に行かせてもらい、1週間くらい行ってたんですが、そこでやっぱり保育士はいいなと思い、具体的に志望を固めました。最短で働きたいって思いがあって、保育課がある短大に進みました。250人くらい女子がいる中で男子は20人程度。高校では男子校だったんで、まったくの別世界でしたね(笑)。

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 2年で保育士と幼稚園教諭の資格をとって、そこそこ難関だった世田谷区に入所しました。世田谷区の保育園で働くようになるんですが、2年目にハタと気づいたんです。うちは両親も姉、親戚も役所勤めだったり、公務員の人が多い環境だったんです。だから公務員なら福利厚生や収入など、安定した未来が描けることはよくわかっていたんですが、逆にそれがつまらないな、と。20歳なのに、もう60歳の定年までの道筋があらかた見えてしまっている状況にがまんできず、自分にはもっと可能性があるんじゃないか、って思ってしまったんです。そして、2年目途中で辞意を伝えました。もちろん、周りからの反対もありました。まだ次にやりたいものが決まっていたわけでもなかったですし。でも、若さの勢いでした

 辞めてからはしばらくニューヨークに3か月ほど行ってました。もともとヒップホップやスケボーもやっていたりして、ストリートカルチャー的なものが好きだったんです。感性が響くものを求めてギャラリー行ったり、ブロードウエーを見に行ったり、夜はクラブに行ったり。そんな自由な生活をしていました。高校時代は毎夏にアリゾナでホームステイしていたりしたので、英語なんてたいして話せなくてもなんとかなるって気分でした。
 日本に帰ってからも自分の好きなジャンル、音楽とかグラフィックアートとかの活動をしていました。ただ、これらを仕事にしようとは思っていなくて、仕事にするならインターネット関連だと考えていました。時代的にもADSLとかが出て環境が整ってきたときだったので、この箱の中には無限の可能性が広がっていると感じていたんです。また、インターネットの仕事に惹かれる理由を考えたとき、自分が自由を求めていることに気づきました。このときから、自分の会社をつくって好きに働きたいって思いが芽生えていたのだと思います。

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夢だった保育士になるものの、ほかの人だったら喜んで求めそうな“安定した決められた道”につまらないと思い、広瀬さんはそこから飛び出します。自分の好きな時間を過ごしたあとに気づいた、自分が求めているもの。ここから広瀬さんのIT業界⇒起業ストーリーが始まります。ただ、思っていたより現実は厳しかったようです。

無敵だと思っていた自分につきつけられた現実。
独立を前提とした転職活動に挫折

 1年間遊び続け、退職金もなくなったので働きだします。時給がよかった小さなIT企業で2~3年働いて、人事マネジメントを任されるようになりました。たぶん、年齢の割にいい給料をもらっていて、マネジメントもしていたので自分の能力を過大評価していたのかもしれません。その会社を辞めて、次を目指そうと決めました。広告業界にひかれたのは、単純にカッコいいなってこともあったんですが(笑)、人と話すことが好きで、広告という媒体を使って橋渡しをする仕事をやりたいという思いもありました。

 ただ、この会社に入るまでが僕の暗黒時代です。勢い会社を辞めたものの、紹介や募集で面接に行った会社から落とされまくったんです。自分にはできないことはないって信じていたところがあり、自分が今まで築いてきた能力が活きない現実、自分を否定された気がしていました。思い描いていた自分とのギャップに衝撃を受け一人暮らしの家を引き払い、実家に引きこもっていた時期が半年くらいありました。その間、自分が提供できるものはなんなのか考え、なりたい自分と社会が求めるニーズには乖離があることを知り、「社会ってなんだろう?」みたいなことまで、ずっと考えていました。今までは自分のやりたいことが前面にあったんですが、初めて社会に合わせようと考えるようになりました。

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 そこで面接方法も変えました。今までは、「すぐに独立したいし、給料もこれくらいもらえないとイヤ」とか言ってたんです(笑)。かなりヤバイやつですよね。もう少し日本人っぽくいこうと思って、すべて封印して役員面接までこぎつけました。ところが、社長面接のときに思わず「独立したい」ってことを言っちゃったんです。でも、そこの社長はそんな発言をおもしろがってくれて、入社が決まりました。
 2年で辞めるつもりで入ったものの、実際には6年半くらいいました。じつは、社長には何回も退職話をしていたんです。でも、「今辞めると、後輩たちが困るよね」と上手に言うので、こちらから「もう少しがんばります」と言っちゃう、みたいなことを繰り返していたんです。独立のキッカケは、今うちの会社でナンバー2をやっている当時の後輩が、「兄さん、辞めて自分の力で成功する! っていつも言っているけど、いつやるの?」って言ってきたんです。いつもはおとなしい彼に言われたことで、「よし辞めよう!」と思えました。また、社内の状況など、いろいろなことが、今だ! と教えてくれた感じでした。

念願の独立を果たした今も忘れない
子どもたちをサポートする手伝いをしたい思い

 とはいえ、自分は結構石橋をたたいて渡るタイプなんです。独立までに自分でウェブページを運営して、アフェリエイトで月々一定額稼げるくらいにはしておきました。これがベースにあれば大丈夫っていう保険ですね。初年度からある程度の売上は立てられて、その後も順調に成長できています。今後もウェブ広告業界では、そこそこの存在感を出せるようになりたいと思っています。

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▲2019年12月に新オフィスに引っ越したのだそう。屋上ではBBQが楽しめるステキなデザインオフィスなんだそう。うらやましい!!

 また、仕事とは別で、保育士の実習のときに児童養護施設に行ったんですが、そこで世の中の不平等をまざまざと感じました。彼らは18歳になると強制的に施設から出なくてはならず、それまでにためたお金が100万円くらいはあるものの、大学進学をあきらめたり、職業選択の前提条件が寮つきだったりするので、自由に選ぶことができていません。今は寄付という金銭的なサポートしかできていないのですが、彼らが夢をあきらめるのではなく、自分の力で可能性を広げるためのお手伝いをしたいと思っています。
 たとえば、自分にできることでは、インターネットを使ってお金を稼ぐ方法を教えてあげたり、将来の夢を見つけてそこにつながる道に進むための方法なんかを考えてあげたり。日本元気塾に通っていたときの最終発表では、彼らをサポートすることを誓ったんです。ところが、現状の仕事に追われて後回しにしているところもあるので、お尻を決めて活動していきたいと思っています。

社会貢献活動   株式会社ONE FOR ONE

▲現在は「できることから」ということで、児童福祉領域を中心にサポートをしているのだそう。
2015年創業し、10年後の2025年に上場を目標としているそうです。そんな高い志を持つ広瀬さんですが、「今の僕があるのは、暗黒時代の自分には絶対に戻りたくないっていう、強い気持があるから」だと言います。また、仕事だけでなく、自分の好きな時間を大切にしていることも欠かせないそう。「今でもクラブ通いは月に1回は欠かせません(笑)。あの空間で音楽を聴いて、そこに集まったメンバーと話しているのが本当に好きなんです」昔、ラッパーでボーダーだったときの魂は今でも健在みたいです。


下町の2D&3D編集者。メディアと場作りのプロデューサーとして活動。ワークショップデザイナー&ファシリテーター。世界中の笑顔を増やして、ダイバーシティの実現を目指します!