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I.G.U.P 検討委員会レポートvol.6 「地味な会議」から考えた熱気

皆さんこんにちは、IGUPメンバーの小松理虔です。先月30日、4回目となる検討会が行われました。今回の内容は、8月に行われたユースフォーラムの振り返りと、今後のスタジアムの方向性に関する意見交換です。

いつもに比べて「地味な」会議となりましたが、ユースフォーラムで得られた若者たちの言葉やフォーラムの理念が、スタジアム構想の「根っこ」として育ちつつあるのが感じられ、地味な中にも手応えの感じられる回になりました。その模様をレポートしていきます!

会場はいつもの「ドームいわきベース」でした

会議の冒頭で行われたのが、ユースフォーラムに先駆けて行われた「スタジアムボイスの収集」に関わったメンバーからの感想シェア。IGUPでは、これまで3回ほど、いわきFCのホームゲームが行われた会場で、サポーターが考える新スタジアムのビジョンや期待などを付箋に記入してもらい、それを収集するという活動を行ってきました。

スタジアムボイスの収集に当たったIGUP「ユースプロジェクト」メンバー
菅波香織さん、南郷市兵さん、横山和毅さん

ユースプロジェクトチームの横山さんから発表

メンバーからの報告によると、1回目は、サポーターにもその存在が知られていないためか、「不審者扱い」(菅波さん)で閑古鳥状態だったそう。ホームで迎える磐田戦ということで、過去最大クラスの来客があったものの、スタジアムボイス自体を知らない方がほとんどであり、「記入してください!」と声がけすればするほど「怪しい団体」のように思われてしまい、ボイスを集めることが難しかったのだとか。

ところが、3回目になると状況が変わり、「じっくり足を止めてレポートを見ていく人が出てきたり、ユースフォーラムと重なる意見もあるが、生々しい意見が出てきたりと、状況が変わってきた」(横山さん)と言います。また、南郷さんによれば、「3回目は、こちらから呼び掛けなくても鈴なりの人が来てくれて、皆さんスタジアムづくりに参加したいんだなと実感した」そうです。

そして、メンバーいずれも「続けたほうがいい」と結論を語りました。スタジアムボイスを書き入れるブースがサポーターの居場所になり、スタジアムや地域について、ああでもない、こうでもないと語る空気が生まれているようです。これはめちゃくちゃ喜ばしいことですよね。

南郷さんいわく「年齢、属性がバラエティに富んでいる。ちびっこ、高齢者、友達同士、家族、職場の仲間もいる。多様なボイスの収集そのものが、いわきFCを知ることになっているだけでなく、いわきFCを取り巻く人たち同士のコミュニケーションの場になっていることが素晴らしい」

今後も引き続き、ホームゲームを中心にスタジアムボイスの収集を続けていこうという意思を、委員全体で共有しました。

座長・上林先生からは手応えを感じるコメントが

座長の上林功先生は「正直、子どもから出てくる意見は、遊園地みたいなのがいいとか、選手と楽しめる場にして欲しいとか、そういう声が集まると思ったら、10代の若者たちだけでなく、低学年からもしっかりと意見が出てきている。社会調査をしてきた立場から言っても、すでに十分、スタジアムコンセプトに落とし込める種になっていると思う」という言葉が。上林先生も手応えのあるフォーラム&スタジアムボイスとなったようです。

ユースフォーラムでどんな声が出てきたかは、ぜひこちらの記事を。

声をいかに集めるか

さらにこのあと、ユースフォーラムやスタジアムボイス収集で出てきた言葉の分析に関わった広報メンバーから、分析の狙い、実際に出てきた言葉を受け取っての感想などについて説明がありました。

多様な声をカテゴリ分けして分析

スタジアムボイスの分析に当たったIGUPメンバー(広報チーム)
北澤卓さん、金澤裕子さん、前野有咲さん

北澤さんからは「スタジアムで声を集めているので、施設に対する声、屋根をつけて欲しいとか、こういう施設を併設して欲しいとか、そういう声がたくさんあるのかと思ったら、むしろ、『まちづくり』的な言葉にカテゴライズされるものが多かったのが印象的でした」とコメントがありました。

ボイスの収集に当たっては、初回は「いわき市や双葉郡の未来」を考えてもらうような聞き方をし、2回目以降になって「いわきFC」についての質問項目を追加するなど、チームに対する要望だけでなく「地域に対する声」を集めるよう工夫したそうです。このため、いわきや双葉郡の将来、人口減少、住民の帰還などに関するボイスも多数集まったとのこと。

ボイス分析班の北澤卓さんから、分析の中身について発表

北澤さんは「いわきFCのホームタウンは、双葉郡にせよ、いわき市にせよ、自然要因だけでなく、原発事故や震災などの災害などの社会的要因によって人口流出が進んだ地域であり、だからこそ、『みんなが住みたくなる』や『戻ってきたくなる』というボイスが寄せられてのではないか」と考察。

そのうえで、「まちの誇り、地域に対する意識が積み重なって、住民の帰還を促したり、地域の再生につながっていくのだと思う。じつは、それこそいわきFCができた理由でもあり、若い世代から寄せられたボイスが、狙ったわけではないのに、いわきFCの存在意義に重なってくることに希望を感じた」とコメントしていました。

金澤さんは「集まった意見はさまざまありますが、どういう気持ちでそれを書いてくれたのかまでは、対話しないと分からない。なぜその言葉が生まれてきたのか。ここから掘り下げていく必要があると感じた」と語りました。意見を集めるだけでなく、その背景を知ろうとすること、対話を重ねていくことの重要性を、金澤さんは感じたようです。

いわきといえば? にカテゴライズされるボイスも数多く集まっています

前野さんは「委員ひとりひとりがどれだけ視点を持っていても、こぼれ落ちてしまう視点、言葉がある。継続していくことが重要だし、参加のプロセスを増やしていくことも必要ではないか。ユースフォーラムだけでなく、たとえば各地域で回覧板を回すとか、多様な意見の集め方を検討してもいいのではないか」と、意見の収集方法についても新たな提案をしてくれました。

これを受けて上林座長は、「最初から、地域への愛着について話してくれと言ってるわけではない。いわきや双葉の未来について書いた先で、地域への愛着というものに収束していることが大きい」と語り、こちらも手応えを感じている様子でした。

この日の検討会では、さらに、ユースフォーラム、スタジアムボイスといった「声の収集」についての意見交換も行われました。委員からの声をいくつか紹介します。

ボイスをいかに多様なまま集めていくのか、に議論が集中

金澤さん:いわきってなんもないとか、退屈だなって感じている人もいると思います。じつは、ユースフォーラムは、意見を聞く場だけではなく、いわきってこういうおもしろいものがあるよね、っていうこと、地域に対するエネルギーを伝える場でもあると思います。地域に対する認識が変わっていくムーブメントにしていけたら。

田子さん:フォーラムはめちゃくちゃ楽しかったです。子どもたちが真剣に考えて発言していて、だからこそ、大人も真剣になる。これはいいなと思いました。ただ、声を聞いて終わりにしないように、夢物語で終わらせないように、現実的な話とミックスしながら議論できる場を作っていかないといけないですね。

西丸さん:対話も重要ですが、そこから漏れてしまう人たちにしっかりを足を踏み入れてもらうためにどうすればいいのか、を考えたい。多くの人は、対話が続けられてきたから、ではなく、世界で注目されるものだから注目する、というところがあると思う。パリのルーブル美術館とか凱旋門とか。そこにあるだけで、人がたくさんきてくれる。そのレベルのスタジアムをつくることができれば、自然と、多様な人たちを受け入れるスタジアムに育っていくのではないか。

藤島さん:地域について語る場と言っても、決まったメンバーになってしまいがち。同じ年代でも感じていることは違う。こぼれ落ちる意見も出てくる。1年だってこぼれ落ちるのだから、10年先まで考えたら、相当な声がこぼれ落ちてしまう。継続性を考えると変化していかないといけない。変化することを前提に、スタジアムについて語ることを超えて、行政やまちについて関わるきっかけとして声を集める場があるといい。

宮本さん:スタジアムを作ることで何をなし得たいのか、いわき市や双葉郡をどうしていきたいのか、多くの人たちに説明できる言葉があるといい。みんなが「だからスタジアムができるんだね」という納得感を感じないと、ロケーションや規模、機能の話ばかりになってしまいます。私たちが何をしようとしているのかを伝えながら声を集めることが大事だと思います。

吉田さん:声を聞く場は、福島から離れてもいいと思います。原子力災害で県外に避難している人たちのなかには、堂々と「大熊出身だ」といえない人もいる。そんな人たちに、胸を張って大熊出身だと言ってもらえるような、愛着、プライドを持てるようなものにするためにも、広く声を収集していくことも必要だと思います。

すべてではありませんが、メンバーからのリアクションをいくつか紹介しました。皆さん、声を収集し続けること、範囲を広げていくことは重要だという認識でした。スタジアムボイスの収集、ユースフォーラム、だけでなく、さまざまなスタイルで、スタジアムや地域の未来を語り合う場を、今後もつくっていけるよう議論を尽くしていきたいと思います。

スタジアムボイスがある空間で議論

未来を語りつづけるスタジアム

さて、ここからは私見です。今回の検討会、聞いていておもしろいなあと感じたのは、こうして多様な言葉を集め、それをカテゴリ分けして分析していくと、サポーターや地域の若者たちが考えていることがうっすらと見えはじめ、それが実際の地域課題と結びついてくることです。

プロセスも重要です。地域の声を集めた段階ではまだまだバラバラ。ひとつひとつの声を、「これはスタジアムの機能について語っているんだな」「これは地域に対する愛着だな」「これは選手への要望だな」というように、カテゴリ分けしていくことで、その声がつながりあい、立体的になってくる。このカテゴリ分けが重要で、どんな言語でカテゴリをつくるのか、どう振り分けるのかという「編集力」のようなものが試されます。

そして今後、複数のカテゴリに分けられた言葉から、IGUPメンバーが「実装できるアイディア」に練り上げていく段階に入っていくのですが、多様な声を実際のアイディアに落とし込んでいくためには、振れ幅や射程は広いほうがいい。だからこそIGUPのメンバーも多士済々になっているわけです。ここからようやくメンバーの豊富なキャリア、経験が生かされる。いよいよ本領発揮の局面です。

IGUPが立ち上げられた当初から「地域の人たちの多様な声からスタジアムを考えよう」とは言われてきましたが、ようやく今の段階で、「それってつまりこういうことだったのか」ということが見えてきました。たしかにまだまだ声の母数は足りず、継続して声を集め続けることが必要ですが、上林先生が語っていた「コンセプトを考える種は集まってきた」という言葉も、今なら納得できます。

そしてもうひとつ。声をさらに分析していくと、「地域をもっと魅力的にしたい」「課題をなんとかしたい」という思いが、地域に対する愛着によって支えられていることが見えてきます。ここが、アツい。

キーワードは、ベタですが「熱気」ということではないでしょうか。

特にスタジアムボイスがそうですが、試合を観戦するとき、来場者のテンションは上がっています。さらに、そこに来る人の多くは「いわきFCを応援したい」というマインドになっている。これってつまり、地域への「愛着スイッチ」がONになっている段階ですよね。そこで声を収集しているので、地域に対する愛着が根っこに感じられるのではないか。

スタジアムボイス収集の模様(撮影:菅波香織さん)

ユースフォーラムもまた、「スタジアムを使って何がしたい?」という未来志向の問いかけになっているため、前向きで能動的な気持ちになれるし、自由に発言できる。能動的な雰囲気は、当然その場にも伝播します。自分がどうしたらワクワクできるかを考える時間なのですから、その話を続けていれば、会場の雰囲気もワクワクとした熱気に包まれる分けです。

皆さんの報告を聞いていて、ユースフォーラムの熱気も、スタジアムの熱気も、似たものなのではないか、と感じられました。スポーツ、とりわけ地元のチームを応援するとき、自分たちの地域の未来を語るとき、そこには「ワクワクと愛着」が生まれ、熱気の渦になる。

とすると、その熱気が最大量になり、かつ、多様な人が何千何万と集まるスタジアムは、地域の未来について考える有効的な場所になるんじゃないか。まさにそれは「地域の未来を共創するラボ」です。スタジアムの熱気は地域への愛着となり、それぞれの地元に持ち帰られて、小さなアクション、小さな応援になっていく。とすれば、スタジアムとは、もはや地域の核。

おおお。こうして言葉にして整理してみると、「スタジアムはスポーツやるだけの場所じゃない」ということが実感できます。

今後は、より具体的なコンセプトを考えていくフェイズに入っていきます。スタジアムが目指すもの、その世界観を考えていくためには、先ほども書きましたが、メンバーのこれまでのキャリア、経験を存分に活かさないといけません。ただ、今回皆さんの話を聞いていて、IGUPの検討会に決定的に足りないものがあるな、とも感じました。

愛着スイッチがONの状態で、地域を考えてみる時間

そう、それが「熱気とワクワク」です。冒頭で「地味な検討会だった」と書てしまいましたが(汗)、意見を交換しているうちに、どことなく「会議」っぽくなってしまい、ふむふむと話を聞いているうちに時間が経ってしまう。私たちIGUPの検討会がワクワクしにくいものになっているのだとしたら、皆さんから集めた声の熱量を生かし切ることができません。

そのためにも、(中盤でIGUPメンバーの田子さんが言及していたように)私たち自身が、若い世代と熱意を持って対話しなければならないのかもしれません。そう、私たちIGUPのメンバーが、だれよりもアツく、ワクワクとした熱意を持ち続けて、いわば「魂の息吹くディスカッション」を続けることが必要なのでは? と、地味な会議だったからこそ頭に浮かびました。

対話だけが目的になってしまってはいけませんが、世代を超えて、属性を超えてだれかと話ができ、地域の未来を語り合うことができ、そこに集まるスタッフが、市民の声の多様な背景を探り、分析し、その声をスタジアムに反映させる。それが当たり前の「ベース」「土台」になる・・・。

ユースフォーラムは、スタジアムができたあとの、いわきの土台になるのかもしれないし、もしかすると、スタジアムとは、市民が熱気に包まれながら地域の未来を考え続ける場所であり、共創が生まれる場所であり、草の根民主主義の生まれる場所であるのかもしれません!(皆さんやりとりを聞いていると、こんなイメージが浮かんできてしまうのです)

次回はどんな検討会になるのか。ぜひまたレポートをご覧ください。ここまでお読みいただき、ありがとうございました! 以上、検討委員会「IGUP」メンバーの小松がレポートいたしました!

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