見出し画像

何も揺らいでいない。何も変えない。【ROOM -いわきFC社長・大倉智の論説】

いわきFCを運営する株式会社いわきスポーツクラブ代表取締役・大倉智のコラム。9月19日に行われたJFL第23節・Honda FC戦の厳しい結果を経て、今の心境を語ります。

▼プロフィール
おおくら・さとし

1969 年、神奈川県川崎市出身。東京・暁星高で全国高校選手権に出場、早稲田大で全日本大学選手権優勝。日立製作所(柏レイソル)、ジュビロ磐田、ブランメル仙台、米国ジャクソンビルでプレーし、1998年に現役引退。引退後はスペインのヨハン・クライフ国際大学でスポーツマーケティングを学び、セレッソ大阪でチーム統括ディレクター、湘南ベルマーレで社長を務めた。2015年12月、株式会社いわきスポーツクラブ代表取締役就任。

■決して悲観すべき内容ではない。

Honda FCさんとの大一番は、1対5の敗戦に終わった。

これまで2戦2分け。今シーズンのJFL首位と2位の直接対決だったが、Honda FCさんは本当に強かった。あくまでこちらの印象だが、天皇杯やトレーニングマッチで戦ったJリーグのクラブよりも、強さを感じた。

画像1

彼らはもともと、Jリーグで十分に戦える力を持っている。だから、この結果に驚きはない。今年の天皇杯でもFC岐阜と横浜F・マリノスに勝っており、選手一人一人のレベルも高い。そして本田技研工業という大企業のバックアップのもと、社員として安心・安全にサッカーをする環境が整っている。高校や大学を卒業後にHonda FCを選び、JFLで実績を残してJの舞台にステップアップする選手もおり、アマチュアという言葉では決して語れないチームだ。

この試合、Honda FCさんの出来が素晴らしかったのは間違いない。

実際、彼らはこれまでの試合で、常に今回のような強さを示してきたわけではなかった。6月に行ったいわきFCとのアウェーゲームは、1対1の引き分け。そして至近の第22節ではホームで鈴鹿ポイントゲッターズさんに敗れ、首位いわきFCとの勝ち点差は7。これ以上離されると、優勝は厳しいものになる。そして迎えた直接対決。乗り込んだアウェーの舞台は、1600名以上の観客が入ったJヴィレッジスタジアム。この状況に燃えないはずがない。Honda FCさんの安部裕之監督と試合後に話したが、選手達のテンションは相当高かったという。

画像2

また、どんな相手と戦っても60%近いボール支配率をキープし、多いときは1試合に600本以上もパスをつなぐHonda FCさんも、この日はボール支配率もパスの本数も五分五分。いわきFCが約300本だったのに対してHonda FCさんは約250本で、むしろいわきFCの方が多かったぐらいだ。われわれをしっかりと研究し、戦い方を変えてきた。

でも、こちらは何も変えなかった。

これまで積み重ねてきたことを放棄し、ブロックを作ってひたすらカウンターを狙えば、もしかすると0対0で引き分け、あわよくば1対0で勝てたかもしれない。でも、チームの哲学を放棄して勝ち点1なり3なりを取っても、今後にはつながらない。

実際、われわれはそういう戦い方を選ばなかった。それどころか田村監督は「今まで以上に前に行け」と言って選手達をピッチに送り出し、彼らは自分達のプレースタイルを正面からぶつけていった。そして、チームの走行距離とスプリント回数のデータは、決して悪いものではなかった。

いわきFCがここまで積み上げてきた戦い方を貫いたことで、Honda FCさんの高い能力がこれまで以上に引き出された。今回の結果には、そんな側面もあるに違いない。聞けば前半終了時、Honda FCさんの選手達はヘトヘトになっていたという。つまり、彼らがいわきFCをリスペクトし、研究を重ね、疲れ果てるまで走り、技術や決定力で上回ったということ。

だから、スコアがすべてではなく、決して悲観すべき内容でもなかったと考えている。

■ディテールをもっと突き詰めていく。

点差だけを見れば、この試合を「歴史的大敗」と見る向きもあるかもしれない。

だが私の中で、それは違う。

敗戦のショック。その度合いでいえば、今年2月の東日本大震災メモリアルマッチ・福島ユナイテッドFC戦の方がずっと大きかった。

画像3

あの試合では、自分達がやろうとしていたアグレッシブな戦い方を、ユナイテッドさんにやられてしまった。自分達の存在意義を問われるような試合だった。厳しい結果を経て「もう一度チャレンジしよう」「もう一度、原点を取り戻そう」と誓い、トレーニングを重ね、懸命に成長を続けてきた。その結果、チーム創設6年目でJFLの首位を走っている。あの1戦があったから今の順位がある。それと比べて今回の負けは、今年の戦いの中で起きた一つの出来事に過ぎない。

1対5というスコアは、哲学をぶつけた結果である。やってきたことがブレたわけではなく、選手達がすべきことを怠ったわけでもない。問題はもっと細かい部分で、ポジショニングやボールキープの仕方など、今までごまかしてどうにかなってきた部分の精度の差だ。今後上のカテゴリーで戦っていくには、ディテールをもっと突き詰めていく必要があるし、選手個人のレベルをもっと上げなくてはいけない。そのことを、Honda FCさんが教えてくれた。

大事なのは、次節の松江シティFC戦をどう戦うか、だ。

リーグ戦はまだまだ続く。この先、ひと波乱もふた波乱あるだろう。どのチームも、いわきFCのことを強く意識してくるだろうが、こちらも引くことは決してない。やるべきことは何も揺らいでいないし、何も変えるつもりはない。上手いこと引き分けられるチームではないから、残りすべての試合で勝ちに行く。自分達の戦いを貫きながら、どう勝ちを重ねるか。それがこの先のテーマになるだろう。

画像4

昨日(9月28日)、昨年に引き続きJ3ライセンスを交付いただいた。周囲の協力なしではライセンス交付はあり得なかった。ホームタウン各自治体、ならびに福島県の関係者の皆様のご協力にあらためて感謝するとともに、​この先の10試合を1戦1戦、しっかりと戦っていく決意を新たにした。

ここまで来たら、優勝してJ3に上がりたい。今回の敗戦を生かし、自分達の力を証明するには、優勝しかないと思っている。

「Honda FC戦の5失点があったから成長できた」

そう言えるよう、全力を尽くしたい。

(終わり)

「サポートをする」ボタンから、いわきFCを応援することができます。