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選手達の成長に寄り添う【ROOM -いわきFC社長・大倉智の論説】

いわきFCを運営する株式会社いわきスポーツクラブ代表取締役・大倉智のコラム。今年のJFLで、7勝3分けの勝ち点24で首位(6月3日現在)を走るいわきFC。好調の背景にある、選手とスタッフの取り組みについて語ります。

▼プロフィール

おおくら・さとし

1969 年、神奈川県川崎市出身。東京・暁星高で全国高校選手権に出場、早稲田大で全日本大学選手権優勝。日立製作所(柏レイソル)、ジュビロ磐田、ブランメル仙台、米国ジャクソンビルでプレーし、1998 年に現役引退。引退後はスペインのヨハン・クライフ国際大学でスポーツマーケティングを学び、セレッソ大阪でチーム統括ディレクター、湘南ベルマーレで社長を務めた。2015 年 12 月、株式会社いわきスポーツクラブ代表取締役就任。

一人一人の「成長したい」という思いに火をつける。

今、チームの調子は悪くない。5月を終えリーグ戦はどうにか無敗。昨年負けたり引き分けたりしたチームにも勝てている。なぜ結果が出ているのかについて、聞かれることも増えてきた。そこで今回は、好調の理由について掘り下げたい。

2021年、チームは「HUMBLE &HUNGRY. -成長を、挑戦を貫く- 謙虚に貪欲に」というスローガンを掲げ「J3昇格を目指す」と宣言した。

言葉の背景にあるのは、戻るべきチームの原点、ビジョン、そして選手に寄り添うスタッフの姿勢だ。

今の選手は全員がプロ契約。自分の足一本で稼ぐ個人事業主だ。当然、少しでもいいお金をもらって、いい暮らしをしたい。そのためにも、上のカテゴリーで戦いたい。目標はJリーグでプレーして、いいサラリーとサッカー選手としての名声を得ること。その実現のために「成長したい」と常に思っている(もちろん、アスリートとしての本能でもある)。

彼らが成長している実感を得るために、重要な存在がスタッフだ。選手に寄り添い、一人一人の成長したい思いに火をつける。

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お前らはプロだろう? いい選手になりたいんだろう? それならもっと成長しようよ。

スタッフは選手達に、常にそう問いかける。そして、とにかく選手のあらゆることを「拾う」。選手達はみんな若い。だからいろいろある。言うことも考えることも毎日変わる。それを拾い、修正して、問題を共有し、解決する。それがチームを一つにし、勝ち点3を生む。その積み重ねがJ3昇格につながる。そう考えたから、上記のスローガンを掲げた。


選手達も昨年の結果で「ふわっとした気持ちで戦って勝てるほど、JFLの舞台は甘くない」と自覚したと思う。そして真剣に取り組み、できることを増やし、自信を積み上げている。今年、そのプロセスが上手くいっているのは間違いない。

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今は、選手達の今年に懸ける思いがいい方向に向いている。もちろん勝負事だから「残り1分でボールがどこに転がるか」といった運に左右される要素も大きい。それも含めたすべてが、今はいい方向に転がっているのだろう。

いくらいい試合をしても、負けていたらみんな暗くなる。課題のある試合をしても、勝っていれば明るい。そして、勝てば勝つほど謙虚になる。面白いものだ。

チームが勝つことでしか、個人の評価は上がらない。

選手に寄り添うスタッフ。中でも大きな存在が、今年からトップチームのコーチになった渡邉匠だ。彼は常に選手に声をかけているし、バカもできる。でも、人の気持ちや場の空気感をちゃんと読める。プロ生活が長かったこともあり、選手達からの信頼も高い。雄三も書いていたけれど「今年最大の補強は渡邉匠」だろう。

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もちろん選手達の頑張りも素晴らしい。彼らは皆、自分達がこのチームで何を求められているのか、そして自分に何が足らず、何を得るためにここにいるのかをわかっている。だから、例えば筋トレに取り組むことを嫌がる選手はいない。

選手がチームの勝ち負けより、自分の評価を優先することはない。なぜならチームが勝つことと、選手個人の評価が上がることは連動しているからだ。

不思議なもので、サッカーというかチームスポーツの市場では、個人のステップアップは強いチームで戦っていることが前提だ。例えば以前、湘南ベルマーレには遠藤航や永木亮太といった、いつ日本代表入りしてもおかしくない選手がいた。でも、なかなか選ばれない。選ばれたのは、遠藤は浦和レッズに、永木は鹿島アントラーズに移籍した直後。ビッグクラブに移籍してレギュラーを取ったら、すぐに選ばれた。つまり例外もあるだろうが、個人の評価はチームが強いことが前提だ。

だからこのチームで結果を出し、少しでも上のカテゴリーで戦うことを目指してほしい。いわきFCでJ3以上を戦うのも、もっと大きなクラブへの移籍を目指すのもいいだろう。どんどんチャレンジしてほしい。

スタッフはそのために必要なことを指摘し、選手はその現実と向き合い、努力する。教え上手、教えられ上手の関係性が大事だ。これができればチームは強くなり、個人の評価も上がる。そしてもし向き合えなければ、チームから出ていくしかない。そんな厳しい環境にいることも、今年の選手達はわかっている。

もちろん、田村監督の采配も大きい。

第7節・鈴鹿ポイントゲッターズ戦で、バスケス・バイロンが後半から出場して活躍した。試合前にスタッフは、アタッカーのベンチ入りメンバーの最後の一人を誰にするか迷っていた。あの時、バイロンを入れたのは雄三と匠の判断だったが、当日のハーフタイムで使うと決めたのは監督。采配がズバリ当たった。

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他にも今年は、アタッカーの交代選手を上手く使えている。バイロンの他にも平岡将豪や吉澤柊といったパワーとスピードのある選手を後半に投入し、一気にギアを上げて勝負をつけている。「おいしいモノを後に取っておく」感覚を、監督が会得しているかもしれない。また、交代選手がいい形で活躍できているのは、もしかするとアップを担当している渡邉匠の功績かもしれない。何を隠そう、本人がそう言っている(笑)。

今のチームには競争がある。昨年はスターティングメンバーと控えメンバーに差があり、交代でいい働きをしてくれる選手がいなかった。でも今年は違う。いつ誰が出ても、いつ誰が外れてもおかしくない。

例えば昨年なかなかチャンスをつかめず、出場機会が少なかった黒澤丈は今、連続出場を続けている。いつも声を出して元気な江川慶城には頭が下がるし、必ず彼にもチャンスが来るはずだ。他にも多くの選手が「自分にもチャンスはある」と信じ、いつでも出られるよう準備をしている。スタッフが成長を支え、選手が成長しているから、戦術面の選択肢も増えている。いい循環だと思う。

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「厄介なリーグ」を勝ち抜く。

昨年、今年と戦ってきて、JFLがよくわかってきた。

JFLのチームは、勝負への粘り強さがある。Honda FCさんやソニー仙台FCさんのような実業団クラブの「俺達も頑張っているんだ」という意地が作る空気感なのかもしれない。

そしてどのチームも。いわきFCと戦う時は「何とかしてやっつけてやる」と意気込んでくる。それだけJFLのレベルの高さを感じるし、もしかすると、勝ち抜く難しさはJ3よりあるかもしれない。

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今、スタッフ間では、相手チームの強い弱いについて口にすることがほとんどない。映像を見たら、あまり強そうに見えない。だから大丈夫じゃないかと思っていたのが昨年だった。でも蓋を開けてみると、相手はスカウティングとまったく違うことをやって来るのは当たり前。試合が進んでも、何が起こるか予測がつかない。昨年の戦いで、JFLはとても厄介なリーグだとわかった。

そこから考えると、いわきFCはJ3の方が戦いやすいと思う。J3にいわきがいたら、どのチームも嫌がるはず。最初からゴリゴリ来て、後半からもっと元気な選手が交代で出てきて、さらに暴れ回る。そんなチーム、嫌に決まっている。だからこそ、選手達を早くJ3で戦わせてあげたいと思っている。

今年のいい流れは、深刻な負傷者が多く出ない限り続くだろう。でもその反面、崩れる時は一瞬。だから目の前の勝ち負けに浮かれず、常に原点を見すえて、やるべきことを積み上げる。それができなくなったら、またどん底に落とされる。

おそらく、全チームの対戦が一巡する7月下旬以降、上位と下位が二分されていく。勝ち点や順位を計算できるのはそこから先だろう。今はまだ、シーズンの3分の1が終わったに過ぎない。そしてここから、Honda FCさんや天皇杯で負けたソニー仙台FCさんなど、強敵との戦いに入る。だから、慢心することはない。

コロナ禍でさまざまな制限がある中、戦いは続く。感染対策をしっかり行った上で、一人でも多くの方に、いわきFCの熱い戦いを見ていただきたいと思う。

(終わり)

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