文化人物録51(迫昭嘉)
迫昭嘉(ピアニスト、当時・東京芸大音楽学部長、2017年)
→芸大を優秀な成績で卒業し、コンクールで世界に羽ばたいたという意味では、まさに芸大の典型的なエリート音楽家といえるだろう。その一方でベートーヴェンの第9をピアノで演奏するプロジェクトを始めるなどユニークなアイデアも持っている。当時は芸大の幹部としての役割が大きく、芸大の音楽教育が今後どうなるのかは迫さんの肩にかかっていた。今後は音楽家の比重が高くなるだろうが、教育者としての役割も極めて重要になる。
*大学の早期教育について
・芸大でも2014年度から早期教育に取り組んでいる。石を積み上げる発想で、1回きりのレッスンだが地域の反響は大きい。こちらから地方に出向くというのが今までにない発想だった・必ず地域のホールとタイアップするのも重要だ。最初は小学校の4年生以上だったが、中学生にも広げた。国立大として早期教育をやることに慎重な声もあったが、芸術文化のすそ野を広げ、社会的に認めてもらうことが必要だ。早期教育の流れの中で芸大が旗を振れればいいと思っている。
・戦後は児童学園という名前で早期教育に取り組んでいたのだが、その後はなかった。今早期教育を再開したのは、音楽を目指す学生が減っていることにある。早い段階で演奏をあきらめる人が多い。親が安定を求めて音楽家になることに難色を示すケースが増えているが、その場合はお金のことで終わってしまう。
・早期教育で子供の才能や伸びしろを見極めるのは難しい。才能にふたをしないようにしないといけない。子供はいつ成長するかわからないので、ジュニアアカデミーでは飛び級のようなものも導入した。大学が早期教育することで弟子を取られるのではと危惧する音楽教室の先生もいたが、いい刺激を与える大きな狙いがある。音楽全体のことを考えてのこと。時代は変わった。
・ジュニアアカデミーで目立つ生徒はオーケストラのソリストに選ぶこともある。2016年は中1による3人のトリオだった。地方にはすごい人材が埋もれているんです。今後は地域連携、すべての地域で開催したい。プロジェクトの意義をより理解してもらうことも必要だ。
・欧州の音楽院はどんどん早期教育が早まっていたが、それは大学に切り替えている。音楽院で専門学校的に学ぶのも違う。音楽だけでなく、人間形成とのバランスが必要だろう。バイオリンだけでなく、管楽器の早期教育も実施する。高校生は吹奏楽の愛好者は多いものの、コンクールの比重を置きすぎていてその先が続かない。早いうちに基礎基本を教える必要がある。芸大のアカデミーからほかの音大に進むのも選択肢だろう。音楽を目指す若者が増えてくれれば、芸大の役割・目的は達成する。
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