学びの場に「落ちこぼれ」なんていない
真新しい校舎に、綺麗に整備された運動場。元気な声が学校全体に響き渡る泉南市立泉南中学校に今回は訪問させていただいた。
今回、授業見学させていただいたのは中学一年生のクラス。今年は休校期間もあったため一緒に過ごしたのはまだ4ヶ月程。それでも積極的に学び合う姿に驚きを隠せなかった。
授業・休憩・質問時...どの時間を切り取っても、先生たちが一人一人を見逃さず見守る環境つくりに努力され、生徒さんたちがそれを受け止めている姿を純粋に感じられる学校。
「ここに落ちこぼれなんていないです」落ち着いた声でしっかりと先生は話してくれた。
阪上 広太郎 泉南市立泉南中学校教諭|65期生学年主任 数学科 学力向上担当
Teacher 2.0サポートメンバー
2013・2015〜2019まで大阪府教育委員会指定、スクールエンパワーメント(SE)事業コーディネーターとして、授業改革や組織マネジメント、新校舎の教科センター方式導入に携わる。
父の背中を追いかけて教師になった
ーー教師を目指したきっかけを教えていただけますか?
私は幼少期から、教師だった父の勤務校にいき、父の働く姿を見てきました。
学校を改革し、学び続ける父の背中を見ていて自然と教師を目指すようになっていました。私は、常に学びに溢れている学校という空間が大好きなんです。そういうところも父に似たんだと思います。
落ちこぼれたら無理
ーー先生が教師として生徒と向き合う際、大切にしていることは何ですか?
学校という場所は自分と向き合うために学ぶ場所だと思っています。
だから、絶対に「落ちこぼれた」と感じさせてしまってはいけない。そもそも落ちこぼれた生徒なんていません。
どうがんばったらいいかわかる、どれだけがんばったらいいかわかる、それらのことを自分で考えることができる、そういう人になるために学ぶ場です。
だからこそ、自学自習力をつけることにこだわっています。
「全員参加授業」をうながす6つのしかけ
ーー実現するためにしている取り組みを教えてください
学校全体で取り組むために、この6つのしかけを全体に共有しています。
どれも大事にしているのですが、僕は特に紫の「やり方を教える」にこだわっています。とにかく自学自習力に繋がる部分です。
私は、中学一年生の学年主任をさせていただいていますが、先生方の取り組みには感謝しています。
先ほど、新任の先生も授業をみていただきましたが、授業デザインは僕も学ばせていただけるほどに頑張ってくれています。一人じゃ変えられない、この6つのしかけを基盤に、学校全体で授業から学校を変えていく取り組みを大切にしています。
授業見学の中で見えた、学び合う姿
泉南中学校の新しい校舎は「教科センター方式」を実現するために設計されているが、現在はコロナウィルス感染拡大防止の観点から「ホームルーム式」で授業を行っている。授業の形式も、やむなく全員前を向かせての一斉授業スタイルで行っている。
授業開始前には、本時の流れが板書されており、生徒たちは何をすればいいのかがかわかっている様子。チャイムがなり、前回の小テストの返却からスタート。小テストの裏面に<復習>問題を写して取り組ませ、昼休みから一気に集中モードに切り替えられる工夫をしている。
テストの採点にもこだわり、途中式が合っていれば小さく○をつける。こうすることでどこが間違っているか明確になることはもちろん、生徒たちができる限り解答しようというモチベーションにもつながっているようだ。
阪上先生が目指すのは「居心地の良い」授業である。今回の授業中も、随所に生徒たちが自発的に教え合い・学び合いをしている姿が見られた。黒板を使って問題を説明したり考え方を共有したり、黒板を作るのも生徒たちが中心に行っている。クラス内で「教えて」と言い合える良好な人間関係ができていると感じた。
学習プリントは、かんたんコースとむずかしいコースの2つが用意され、各自で選んで良いことになっている。各自で教材を選ぶことで「やる気」につながり、達成感や数学の楽しさを実感できるよう工夫されている。
先生の指示は常にゆっくり丁寧に伝えている姿が印象的。生徒たちは聞き逃してはならないと、先生が話始めると自然と耳を傾けている様子。アイコンタクトやジェスチャーなど非言語でのコミュニケーションも用いて工夫されていた。
生徒たちのノートはとても綺麗にまとめられ、学習プリントもきれいにファイリングされている。これはコロナで休校になる可能性を考慮して、自学自習力を高めるための指導を徹底してきた結果である。
徹底した教材研究と授業計画により、わかりやすく力のつく授業が行われている。生徒たちは阪上先生の授業をしっかり取り組めば数学ができるようになると信じ、授業に臨んでいる。
授業見学後に校長先生からも少しお話をきくことができた。
前代未聞の事態からスタートした今年度。「4月から5月にかけての休校中、先生方はプリントや学習動画による学習保障、家庭訪問による生徒たちの心のケアなど、精一杯頑張ってくれた。」
こう話すのは4月から泉南中学校に赴任された新納校長先生。6月の休校解除以降、生徒たちが学校に来るのか本当に心配だったと言う。
「このような不測の事態を乗り越えたからこそ、学校で人と関わることが楽しいと思えるような経験をたくさんして欲しい。そうして社会に出て活躍できるような人になって欲しい。」
泉南中学校は教職員一丸となって挑戦し続けている。
先生が数学を嫌いじゃなくしてくれました
数学が得意ではなかったという生徒さん。しかし、レポートをまとめるのがうまく、お話している中で見せてくれた課題の正答率も高い...。
「先生は答えじゃなくて勉強のやり方を教えてくれるんです」
見てください! と4冊ほど勉強のためにつかっているノートや問題集を見せてくれた。これは先生が、こんな風に採点してくれたのをマネしてて...これは先生がコメントをこうしてくれて...と、授業で先生のポイントを聞いていて身についてきたという。
先生の背中をみてやり方を覚える。まだ入学して数ヶ月の生徒さんたちが自分たちで学ぶ力がついてきているのを目の当たりにした。
学びの場に本当に必要なことは何か、先生と過ごす生徒さんたちはしっかり学校という場所と向き合っているように感じた。
「わたしたちのクラスは団結力があるのが自慢です」
素敵な笑顔でそう教えてくれる彼女たちがこれからの日本を創るんだ。
〜mocciのおまけ〜
「美意識が大事って先生はいつも言ってます」
美意識ですか? と聞くと、「男子も教室が散らかってたら美意識低かったらモテないぞって声をかけあったりしてて」と生徒さんが教えてくれた。
「片付けなさい」「そんなことするな」なんて先生は言わない。「美意識が低いとモテないぞー」といい、楽しくみんなに片付けを習慣化させる。やるなって言われたら嫌だけど、自分のためや誰かのためになっていると実感してすることは楽しいですもんねと生徒さんと盛り上がる。
いろんな課題がある中でも、その人を...一人一人を想う気持ちは伝わるんだと思う。先生と生徒さんたちの関係を見ていてココロからそう感じた。
Written by: mocci ♯学校訪問シリーズ