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記憶を失いたいのは本人か。 --- 映画「宮松と山下」レビュー ちょいネタバレ

※今回のレビュー、敬称は略させていただきます。

酒癖の悪さと、女性への暴力行為で香川照之が芸能界の表舞台から3か月が経ちました。年始恒例のカマキリ先生が観れなくなったのは残念ですが、世の中はたいして変わらず、「香川照之」はもはや最初から世の中にいなかったような感じになってます。

そんな中「宮松と山下」の予告編を見て、久しぶりの香川照之はやっぱり凄そうだという期待感がどうにも膨らんでしまったので観てきました。

いつものように公式サイトからあらすじを引用します。

宮松は端役専門のエキストラ俳優。
ロープウェイの仕事も掛け持ちしている。
時代劇で大勢のエキストラとともに、砂埃をあげながら駆けていく宮松。
ヤクザのひとりとして銃を構える宮松。
ビアガーデンでサラリーマンの同僚と酒を酌み交わす宮松。
来る日も来る日も、斬られ、撃たれ、射られ、時に笑い、そして画面の端に消えていく。
そんな宮松には過去の記憶がなかった。
ある日、谷という男が宮松を訪ねてきた。
宮松はかつてタクシー運転手をしていたらしい。
藍という12歳ほど年下の妹がいるという。
藍とその夫・健一郎との共同生活が始まる。
自分の家と思えない家にある、かつて宮松の手に触れたはずのもの。
宮松の脳裏をなにかがよぎっていく・・・。

香川照之主演『宮松と山下』11月18日(金)公開 より引用

エキストラって大別して2種類あって、名も無いような"その他大勢"の役をきちんと報酬を貰って演じるタイプと、純粋に作品や出演者を応援する目的で無報酬である意味ボランティア的に参加するタイプがあるみたいです。

で、宮松の場合は前者なわけですが、過去の記憶を失ってはいてもエキストラとしてはベテランだということが画面の様子から伺えます。ただ斬られる、ただ撃たれる、ただ座っている、ただ息をしている。エキストラってそれ以上の情報を画面に与えてはいけない存在だと思うのですが、そんな場合過去の記憶を失ってしまって「自分」という色が無い宮松がエキストラとして重宝されるってのはわかるような気がします。

一方の宮松自身もぽっかり空いてしまった自分の過去を、名も無い他人として生きることで埋め合わせしようとしていたのかもしれません。劇中劇の宮松と現実の宮松の生活がたまにわからなくなるような作りになっているので、観ている側もなかなか気が抜けません。でも変幻自在に演技を続ける宮下の仕事ぶりをただ眺めているだけでもかなり楽しいです。

そんな中、宮松の過去を知る男が出てきて物語が動き始めます。宮松が過去にタクシー運転手をしていた時の同僚の男(尾身としのり)。そして彼によって引き合わされる宮松の妹(中越典子)とその旦那(津田寛治)。宮松の本名は山下という。宮松は山下に戻りもう一度タクシーの仕事を始めようとするのですが…。

物語はここからが本番なんですけど、香川照之、尾身としのり、中越典子、津田寛治、この4人の不穏な感じがたまりません。行方不明の兄、同僚が見つかったことを3人は喜んでいる。でもなんか違和感がある。観ていてずっと気持ち悪い。やがて話が進むにつれて宮松の記憶が回復してその気持ち悪さの正体が徐々に明らかになっていくわけですが、ショートホープを燻らせる姿だけでじわりじわりと記憶が戻ってくる様子を演じる香川照之、やっぱり表現力は普通じゃありません。私生活でどんなやらかしをしたとしても、役者としては非凡な才能を持っていることは間違いないです。

物語の謎解きはそれほど目新しいものではないのかもしれませんが、演技力のある役者さんが揃うとこれだけヒリヒリした感じに仕上がるのかと感心しました。特に中越典子がほんの少しだけ見せる異常性がすごくヤバくて良かったです。私にとってはあまり印象に残る作品のない女優さんだったのですが、今回しっかりインプットされました。

というわけで…

香川照之ダメ!生理的に無理!受け付けない!

という方以外には強くお勧めします。面白いのは間違いないので。


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