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認知症の早川サヨコさん

私は介護士である。とある施設で働いてるときのことだ。勤めて3年目くらいだっただろうか。

そんなある日、認知棟から転棟されてきたおばあちゃんがいた。


認知症で帰宅願望の強く、職員を見つけると、

「おねいさん!家わかる?

…ねえ、ちょっと教えてくれる?」と、

よく話しかけられた記憶がある。

ボーイッシュな見た目から、おじいちゃんに間違われていた八頭身のスタイルの良い早川サヨコさん。


その施設を転職した今も、鮮明に覚えてる。


私はその頃、ある年上の女性の職員の方と人間関係がうまくいかずに悩んでいた。言わゆる御局様気質で、思い込んだらキーっとなる、気難しいその人に私は目をつけられていたのである。

とある日の夕方、それは起きた。

私は私の声のトーンで御局様から怒られていた。

「あなたの声のトーンが高すぎるの。分かる?あなたの声で不穏になるの!!!」と、その階にいる利用者に聞こえていたと思う。響き渡るくらい怒鳴られていた。

そんな時、いつもの様にサヨコさんは私の前にやってきた。御局様と私の間にサヨコさん。そして、私の傍に寄ってきて、サヨコさんは話しかけてきた。

「おねいさん!家わかる?

…ねえ、ちょっと教えてくれる?」と。

私は、サヨコさんに返事を返すと、サヨコさんはまた同じ質問を聞いてきた。サヨコさんは私の傍を離れず、御局様に「いま大事な話をしてるから!」と怒られてしまった。

私と御局様との間にいるサヨコさんは、口パクで「大丈夫!元気出して。」と、私にウインクをしてきたのである。…わたしはハッとした。サヨコさんは私を庇うために帰宅願望を言い、私の傍を離れず、、、。

そうこうしてると、他の職員がやって来たからか、御局様は落ち着き、「次から気をつけたらいいからね」と去っていった。

私は、理不尽に怒られたことと引き換えに、誰も見た事のない認知症のサヨコさんの一面を見ることができたのである。

私は夜勤をしている時に、サヨコさんの事を、髭のはえたワイルドな優しいおじさん職員に話したのである。すると、おじさんはサヨコさんの一面に「サヨコさんが…?!」と凄く驚いていた。


優しさで溢れる帰宅願望と慰めの口パク。

「大丈夫!元気出して!」そして、ウインク。


ただの帰宅願望ではない。

とても意味のある帰宅願望。

愛する家族に会いたい帰宅願望。

守るために言った帰宅願望。


サヨコさん、ありがとう。忘れないよ。



大切な入居者の一面を見られるように、

しっかりと一人一人に向き合う介護福祉士として、

またいちから頑張るね。


※早川サヨコさんは仮名であり、実話に基づくフィクションです。






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