雑文
人生とは何か?という問いに、ある男がこう答えた。
「一生の内に書いた文字の多さで決まる。人が死ねば肉体は消える。精神も消える。残るのは文字だけだ。残された人々は死者の考えや人柄を、文字を通じてしか知ることができない。死後の自分の存在を確かにしたいのならばひたすらに文字を書くことだ。それしかない」
「言っていることがよくわからないけどね」
「なぜわからない?文字以外は全て虚無だと、そういっているだけのことだ」
「むかしはそうだったろうね。でも今では随分と技術が発達して、私達は色々なものを後に残すことができる。自分たちの肉声も、写真も、動画だって残すことができる。文字なんかに頼らなくても、そういった道具を使えばいいんじゃないかな?」
「君は何もわかっていない」
そう言って男は首を振った。
「そんなものに残される自分なんてものは自分じゃない。それは自分の偽者にすぎない。それらで残せるのは自分の殻にすぎない。殻の中身は、文字でしか表現することができないのだ。人は人の殻の中身を、文字を読むことを通じてでしか知ることができない。だから人は少しでも多くの文字を書くべきなんだ。より長く生きるために、より多く生きるために」
「やっぱりわかんないな」
「ああ!わからなくてもいいんだ!…所詮目の前の人間なんて…ろくでもない代物なんだ!」
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