宝物庫

 

 僕は宝物庫の中で途方にくれている。そこにはたくさんの宝箱が置かれていた。どの宝箱の中にも貴重な宝が仕舞いこまれている。僕は無数にある宝箱のうち、どれか1つを開けてその中身を持ち帰っていいと王様に言われている。しかしどれを持ち帰ればいいのかということがわからないのだ。どれも素晴らしい宝物のように思える。しかしどれか1つということになると…


 たくさんのラビズラズリ、最高級の白檀の香木、匂い立つ竜涎香、素晴らしい装丁の古書、三国志時代の木簡、少女のミイラ、美女のあられもない姿をおさめた画像や動画が保存された1テラバイトのハードディスク、未発見のフローベールの書簡集、ヒューゴボスのスーツ、アウディの鍵…色々なものがある。こんなにたくさんある宝物の中から、たった1つだけを選ぶなんてことが、果たしてできるものであろうか?

 僕は宝物庫で途方にくれている。今日も宝物庫で途方にくれている。僕は一体どうしたらいいのであろうか?


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 王様の趣味は僕とかなり似通っている。王様が価値があると認めるものは、決まって僕も喉から手が出るほどに欲しいと思っていたものである。あれだけ欲しいと願って、それでも手にすることができなかったものを、王様はいとも簡単に手にいれてその巨大な宝物庫の中に次々としまいこんでいく。僕はその光景を指をくわえながら見ていたのである。


 しいていうのなら僕は全部欲しいのである。どれか1つでなく、ここにあるもの全部を。王様が所有しているもの全てが欲しいのである。

「それならこういうものはどうでしょう?」


 と、傍らにいた騎士が1冊の本を僕に手渡した。いつのまにか考えている内容を声に出していたらしい。僕は顔を赤らめながらその本を受け取り、ぺらぺらとページをめくってみた。


「それは目録です。この宝物庫に収められた全ての宝物の名称や特徴、前の持ち主や入手の経緯などが全て書き込まれています。王様が宝物庫に来ていつも手にとるのはその目録なのです。宝物そのものを王様が眺めている光景を見たことはあまりありませぬ。いつも大体その目録を読みながらにやにや笑みを浮かべ、それで満足して宝物庫を出ていってしまわれます」


「目録か…」


僕はちょっと考え込んでしまった。

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