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20221117

木曜日



 詭弁屋べき子、もとい、ベッキーから最近胡散臭い愛想を向けられるようになった。

何が胡散臭いって、普段は挨拶すら返さないベッキーが、急に愛想が良くなったから。

これは臭うぞ。


 わたしに利用価値を見出したのか、何かの票集めかは知らんが、
この瞬間だけ好感を得て、成し遂げたいことがあるのだろう。


え、こんな僅かな時間でわたしとのコミュレベルを上げられると思ってる?思われている?

魅力値が天井いっちゃってるカリスマですか?2周目プレイヤーの成せる無礼じゃん?

そんな軽い女だと思わないでちょうだい。(フラグ)






16時。

 三代目がとにかく明るい応接室で面接をしているのが遠目に見えた。
秘密裏に行われることが多いので、ほとんどの人はこの面接のことを知らない。
入社直前か当日にサプライズされる。

事務員の募集だろうな。おそらく取締もあの中だ。
自分でカモを探している。



 少しして、殿(社長)も応接室に入って行った。

父(社長)、息子(三代目)、社長の妹(取締)がとにかく明るい応接室に勢揃い。
とにかく血が濃い応接室。




 事務員の取締は部下に嫌がらせ(パワハラ)を仕掛ける人。
最初はそんなつもりはないのだろうけど、そうなってしまう。
歴代1番長いこと事務員を続けていたTナカも、ついに我慢の限界になり、今年いっぱいで辞めることになった。


 殿(社長)は妹である取締を守りたい人。
だから、その頃ちょうど「何も責任を背負いたくない!」と社会人らしからぬ拗ね方をしていたヤレバ・デキルジャンに白羽の矢を立て、
「取締の性格を知ってくれている社内のしっかりした人を取締の部下にあてがう」という計画を立てた。

クラスの困り者のお世話係に任命される気の優しい女の子と同じ役割だ。
大人が手を焼くほどなのに、その女の子に責任を持たせる気満々の大人達。

殿はこれをやりたい。



 しかし殿は人を見る目がないので、ヤレバ・デキルジャンと面談をした結果、

「絶対にやらない!人を雇う気はないんですか!」

と、跳ね返された。
気の優しい女の子はいない。
いたのは意思のハッキリした大人の女性だった。



 それでやっと重い腰を上げて募集を出したみたいだ。
なぜ腰が重いかって、次の人も長く持たないと予想しているからでしょ。

この間まで事務員の新人さんいたけど、逃げられたからビビってんしょ。

赤の他人にビビるんじゃなくて、身内にビビれよ。
目を瞑るな。背けるな。
身内がう◯こにでも映ってんのか。
こじ開けて凝視しろ。






17時。

 月一のミーティング。

ベッキー達から、びっしりと文字で埋まったプリントが配られた。2ページも。

家でプリントして来たみたいで、本気度が伝わるぜ。
こりゃあ今回のミーティングも長くなりそうだ。




 プリントには仕事の問題点が書かれていた。
勝手な感想を入れながら内容をかいつまむと、


①【目標:15時までに快速急行社(お客さんの仮名)チームの出荷を終わらせたい】

・快速急行社チームのパートさんが16時に帰ってしまうため、片付けや次の準備をするには15時までに出荷を終わらせることを目標にしたい。

【問題点】
・出荷当日に何人が手伝ってくれるかが分からない。
・他チームの状況が分からないのでお願いするタイミングが難しい。
(声出しときゃ気にしてくれるよ)

【提案】
・受注量の全体比率を図にして可視化することが必要。
(誰が書くんよ)
そうすれば納得して他チームに協力してもらえる。
ホワイトボードに書いてみんなが見えるようにしたい。
(だから言わずとも協力してね★)



②【目標:ラミネートをパートさんで分担する】

・現在は上司達が担当しているが、上司が処理しなきゃいけない仕事が後回しになって上司の残業が多い。
ラミネートをパートさんで分担するのは可能と言える。

【問題点】
・パートさんがラミネートに入る代わりに、印刷の取り手やプレスの手伝いの穴を他で埋めないといけない。
(だから社員がラミネートやってんじゃーん)

【提案】
・手伝いが誰でもいいなら営業さんにお願い出来ないか。
(出来ないです)


【まとめ】
・それぞれ立場が違うが、お互いの役割分担を確認、理解しあうことが必要。
→全作業を可視化すること。

(一方的に理解させようとしてない?)

・どうして上司達が加工、検査が出来ず、残業が多くなるのか。
→作業分担や業務改善

(上司は業務窓口が優先で、パートと同じように加工検査をやらないといけないという認識が云々…)

・意見や改善点を話合える場所がないので、理解しあうことが必要と感じた。
→昼休み内で各チームごとにランチミーティングをする。

(休ませろ。わたし関係ないからどうでもいいけど)



…………こんな感じ。


 良い事も書いてあった。まとめの所で、

「お互いの役割分担を確認、理解しあうことが必要」
「意見や改善点を話合える場所がないので、理解しあうことが必要と感じた」


って。

 ベッキー達が全体を見ていて、ここまでの熱量があるなら、
上司達の業務を分けるよって言われる度に、

「嫌です!そこまで責任を背負いたくない!それより将来のことを考えて人を雇うべきですよ!」

だとか、

「え、私ですか?……ラミネートやっても良いですけど……私達も若くないから、今後どうする気です?将来のことを考えて人を雇うべきですよ!」


と、話を他の問題にすり替えて回避しないで欲しいが。


 このプリントも実はラミネートを回避したいが為の道具なんじゃないだろうな。

そう妄想を膨らませつつ、話し合いを聞いていると、


ベッキー「ラミネート担当を私のチームのピンクさんとアナさんに任せては?
ピンクさん上手だし、アナさんはやる気があります」



ベッキーはパート時代から同じチームを組んでいる先輩と、新人の後輩を差し出した。

お前わい。

まさか本当にラミネート回避が目的じゃないだろうな?



 以前からボス達はラミネート担当をベッキー達に任せようと話していた。
それがなかなかうまくいかない。
この話で毎度ミーティングが延長するくらいうまくいかない。

年齢がいってる自分達に任せるくらいなら新しい人を入れろとか、パートの〇〇さんが暇そうとか、
いかにもなことを言って回避するのだ。


 しかし、そろそろ逃げるのも限界だと感じて、自ら決着をつけに来たのかもしれない。

ヤレバ・デキルジャンが所属する快速急行社チームをより良くしたいという気持ちは本当だろうが、
その影で自分達をラミネートの候補から完璧に外そうとしている。

 そして出来ればこの事が最近のベッキーの愛想の良さと繋がっていて欲しい。
繋がってたら面白いじゃん。




 ラミネートの話で雲行きが怪しくなると、ベッキーはすぐに問題を人手不足にすり替えた。
本当にいつも通りな流れ。

ベッキー達は外に張り紙をして求人をしようと提案。
外のどこなら貼れるかを真剣に話し合う。
会社の門とか電柱とか。


………………

………………

………………まじかよ。帰っていい?




 殿も人を雇うのにビビっているので、知り合いで誰か紹介できないか?と呼びかけてはいる。
社内に保証人がいるなら変なことにはならないだろうという考え。

昔それでTさんという人が紹介で入社してきたのだが、
ベッキー達が中学生みたいな陰湿な意地悪で泣かせて追い詰め、辞めさせてしまった。

ベッキーはすっかりその事を忘れているのか、気にしていないようで、自らその名前を口にした。

ボス「紹介できる人いないか聞いてはいるんだけどね」
ベッキー「Tさんみたいな例もあるしね……」

怖……
どういう意味の例として言いました?
紹介でも変な人は入って来るって意味で言いました?


 猛犬注意ならぬ猛人注意のシールいる?
会社の門に貼っといた方がいいべ。

そうだ。
「人間のフンはきちんと持って帰りましょう」もあった方がいいな。
なあ?


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