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アルマゲドン

アイツが出た!
トイレの床にいた!
と言う。

オレはアイツが大嫌いだ。
あの見た目と動き。
気持ち悪いし、怖い。

ウソだろ!家にはいないはず。
20年住んでいるけど見た事ない。

恐る恐るトイレのドアを開ける。
いない。
ビクビクしながらトイレのマットをどける。
いない。

上の物入れや便器の裏とか探すがいない。

「見間違いなんじゃないの?」
と聞くが、
「いや、絶対いたドアを開けたら床にいた」
と言う。

トイレを出た所に押入れがある。
もしやここに入ったか?
廊下の電気を消して、影から様子見ていた。

すると押入れの下の隙間からアイツが顔を出した。
「ギャーいたー!」
オレは思わず大声を出した。

大声に驚いてアイツはサッと押入れに引っ込んでしまった。

本当にいたんだ。
家にはいないはずなのに、なんで、
オレはショックだった。

家の中で繁殖したとは思えない。
いや思いたくない!
今日、トイレのマットを洗濯して干した時に外から付いてきたか。
それともトイレの天井の換気扇の隙間から侵入したか。

最近、隣の部屋に家族が引越してきた。その部屋で繁殖して換気扇から入ってきたんだ。隣は汚くしてるに違いない。隣の部屋に入ったこともないのにオレは勝手に想像した。


とにかくアイツを退治しなければ。
しばらく静かに押入れを見てるとまた出てきた。

家に殺虫スプレーはない。
アイツは洗剤に弱いから洗剤をティッシュに染み込ませて投げ付ける作戦を立てた。

一発勝負!外したら終わりだ。
狙い定めて投げ付けた!
ノーコンのオレが投げたティッシュはアイツの10cm右に「ベチャッ」と張り付いた。
アイツはまたサッと押入れに逃げ込んでしまった。


それからしばらく押入れを睨んでいたがもうアイツは出てこない。
用心深い奴だ。なかなかの強敵だぞ。

どうしたら良いか考えた。
仕方ない、アイツをここに閉じ込めよう。
押入れの中に隙間は無いはず。扉さえ目張りしてしまえば外に出て来る事は出来ないだろう。
家の中を彷徨かれるよりマシだ。

オレはテープで扉を上下左右ガッチガチに目張りして隙間を無くした。
これでここから出られないはずだ。


翌日、アイツとの戦いに備えて強力な殺虫スプレーの他退治グッズをたくさん取り揃えた。

押入れに閉じ込めてやった
と人に話したら、
「そんなの、もうとっくに居ないよ。どっかの隙間から逃げてるよ」
と言うが、
オレは信じていた。アイツはまだ押入れの中にいる。扉は完璧に目張りした。中に隙間は無いから何処にも行けないはずだ。

オレはアイツとの決戦を明日土曜日の午前中に決めた。


戦いの時が来た。
「よし!やるぞ!」
殺虫スプレーを隣に置く。
アイツが出てきた時に逃げ込めそうな廊下の隙間を全て目張りした。
「これで照らしてくれ」
懐中電灯で後ろから照らしてもらう。

ガッチガチの目張りを上から剥がして行く。逃げ道をなるべく少なくするよう扉が開けられる最低限の目張りを剥がした。

「開けるぞ!準備はいいか?」
扉を少し開ける。
サッと動く物体が見えた!
「すぐそこにいる!」

スプレーを構えて扉をゆっくり開ける。

いた!

二日間、兵糧攻めにしたせいか動かずジッとしている。
オレは殺虫スプレーにノズルをそっと取り付けアイツに近づける。

「ビューーーーッ!」
思い切り噴射した。
アイツが暴れて飛び出て来た。
「うわぁーー!」
叫びながらオレはスプレーをかけ続ける。

「がんばれー!やり切れー!あきらめるなー!」
後からかけ声。

廊下を暴れ回りアイツの動きが止まった。
「最後のトドメをさせー」
オレはスプレーをアイツの真上からもう一度爆噴射した。


「終わった!」
「やり切ったぞー」
トイレットペーパーで摘んでトイレに流す。

オレ達はハイタッチした。


バックにエアロスミスの「アルマゲドン」の主題歌が流れる。

オレ達は勝った。

アイツとの戦いに勝利したのだ。


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