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連載小説 トビの舞う空(81)


薄暗い展示室の中で、トビの舞う空にだけスポットライトが当たっている。それはまるでユラユラと空中を浮遊している様に見えた。

舜太はトビの舞う空を眺めていた。すると絵の中のトビの羽が、少し動いた様に見えた。

錯覚だろうと、瞬きをして改めてトビを凝視した。するとトビはバタバタと羽ばたき始め、クルクルと円を描いて絵の中を舞い始めた。

そんな馬鹿な!トビは絵の中を飛び回ると、眩い光を放った。眩しい!舜太は目を覆った。

「舜太君、いいかい、絵は心で描くんだよ、心で描いた絵は人の心に響くんだ」

舜太の頭の中に、少年の頃江島早雲に言われた言葉が響き渡った。

「カレンちゃん、三宅、渡辺、小森先生、ランボー、ウッチー、みんな僕の絵を見ると元気が出ると言ってくれる」

「みんな僕の絵を必要としている。僕がこうして絵を描き続ける事が出来るのは、応援してくれるみんなのおかげなんだ」

「僕は描き続けなければならない。みんなに元気を与える為に。それが僕が出来る唯一の恩返しだ」

舜太は覆っていた手を外し、もう一度トビの舞う空を見た。先程まで絵の中を飛んでいたトビは元の絵に戻っていた。

「舜太!ねえ、大丈夫?独り言言ってたよ」

カレンちゃんと三宅が心配そうに舜太を覗き込んだ。

どうやったら売れるか、どんな絵を世間は求めているのか、そんな事ばかり考えていた。違う、違うんだ、何で気が付かなかったのだろう。

舜太はトビの舞う空を見上げた。そして力強く言った。

「カレンちゃん、三宅、僕はどうかしてたよ。ありがとう、お陰で目が覚めた。もう大丈夫。これからも僕は描き続ける。僕の絵を必要としてくれる人が一人でもいる限り」


つづく

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