【連載小説】少年時代 後編#50最終回
車で送っていくわよ、と言う母の言葉を、大丈夫一人で行けるから、とポンタは遮った、
白いエナメルバッグにボールと水筒を突っ込んでポンタは自転車に乗った、
今日ポンタは引越し先のサッカーチームの練習に初めて参加する、
それにしても母ちゃんなんでこんな遠くのチームにしたんやろ、近くのチームで良かったのに、と思いながらポンタは自転車で大通りを進む、
ポンタの引越し先は善通寺という小さな町、母が探してきたサッカーチームは隣の大きな街にあった、
橋を渡るとポンタの目の前に三上山とそっくりの讃岐富士が見えてきた、
あー、三上山や、みんな元気かな、ポンタは少し感傷的になった、
母がマジックで書いてくれた手書きの地図をひっくり返したりしながらポンタは初めてのグランドに向かう、
目的地が近づくにつれ讃岐富士はどんどん近くなってきた、
グランドは讃岐富士のすぐ真下にあった、
「すげー、前の学校とおんなじ景色や」
ポンタは讃岐富士を見上げて独り言を呟いた、
「エナメルバッグ似合ってるやん」
後ろから聞き覚えのある声がした、
「ポンタ、待ってたよ」
ポンタは後ろを振り返る、
「えっ、奈々!うそやろ!!」
奈々が目の前にいる!またオレは夢を見ているのか、ポンタは目をゴシゴシこすった、
「また一緒にサッカーできるねっ」
奈々がニコリと笑う、
そんなはずない、これは夢だ、、まだポンタは信じられない、奈々を呆然と見つめその場に立ち尽くしていた、
「奈々ー、おはよー」
奈々の後ろから男の子が走ってくる、
「あー、俊介」
俊介というその子は奈々の隣に来て止まった、
「ちょうどよかった俊介くん、紹介するね、こちらポンタ君」
そう言って奈々はポンタを俊介に紹介した、
「奈々から話は聞いとるで、おれ俊介、よろしく」
そう言って握手の手を差し伸べた、
「あ、お、オレはたけし、ほんだたけし、みんなにはポンタって呼ばれてる、よろしく」
ポンタは差し出された手を握り返すと、ギュッと俊介は握り返してきた、そしてグランドに颯爽と走って行く、
「キャプテンの俊介くんよ、」
「ふーん、、」
ポンタは走り去る俊介の後ろ姿を目で追っていた、
「ポンタのお母さんがね、私のいるチームを探してくれたの、それでこのチームを選んだのよ、」
「そーやったんや」
「このチームはとても強いの、次の県大会決勝に勝ったら全国大会、そしたらまたみんなに会える、だからポンタ一緒にがんばろうね」
そう言って奈々はニコリと微笑んだ、
"あのかわいい奈々の笑顔だ、夢ではない、本物の奈々がここにいる、オレは三上山そっくりの讃岐富士の下でまた奈々とサッカーができる、そして全国大会に行けばまたみんなと会える!"
ポンタの顔がみるみる喜びに満ちてゆく、
「でも、ポンタ、さっきまたヤキモチ焼いてたでしょ」
奈々は首を傾げていたずらっぽくポンタを下から覗き込んだ、
「えーっ、ヤキモチなんか焼いてないよっ」
「うそ、俊介くんに焼いてた、もーポンタ変わってないんだから、もっと自信を持ってっ」
心を見透かされたポンタは少し恥ずかしくなり奈々から目をそらした、
「あのね、ポンタ、私がこの世で一番スキなのはね、、」
ポンタはえっ、と奈々を見た、
「いちばんスキなのは、、」
そう言って思わせぶりにポンタをチラリと見る、
そして奈々は両手をメガホンにして讃岐富士に向かって叫んだ、
「ピンクのくまちゃーーーーん!!」
くまちゃーーん、くまちゃーーん、くまちゃーーん、
奈々の声は三上山にそっくりな讃岐富士の山肌にこだましてグランドに響き渡った。
少年時代 完
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