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パンの名前 2. 

※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

厨房用語、というよりも呼称の中には、そのお店や厨房でないと通じないようなオリジナルなものまであったりする。
以前、スタッフ同士のやり取りの中で「クリチが」「クリチを」というのを耳にし、クリチって・・・と一瞬思ったものの、それがクリームチーズのことだとぼくでも何となく想像がついた。
そのときは、それにしても若い人は何でも短縮するんだな、と思ったものだった。

まだ新宿店があったころには、「ワッサンが」「ワッサンを」と言っているスタッフがいて、このときは何のことか本当にサッパリわからず(活字にするとわかったかも知れない)「ワッサンって何なの?」と訊ねたら「クロワッサンのことです」と教えてくれた。
ぼくは内心、そっちかい!とツッコミを入れ、クロワッサンを短縮するならクロ じゃないのか、なんでワッサンやねん? わっさんって人のあだ名みたいやないか・・・と、どうでもいいようなことが腑に落ちなかった。
このワッサンというのは、確か彼女の前職(厨房)での呼称だったと教えてもらった覚えがある。

こうしていろんなお店で経験をしたスタッフが集うといろんなお店のオリジナルな呼称やルールといったものも集い、それらが取捨選択され使い勝手の良い言葉やルールが残っていくことになる。

今度は京都スタッフの話。
うちは普段から京都、渋谷、日比谷とそれぞれLINEグループで業務連絡のやり取りをしているけれど、ある日のLINEに「ザブトン」という謎の言葉が出て来た。
ぼくの頭の中は当然のようにあの座布団が思い浮かんでいる。
はて?どう考えてもパン屋さんの厨房と座布団が頭の中で繋がらない。
LINEを眺めていると「ザブトンが」「ザブトンを」とスタッフ同士がやり取りをしていることを思うと、どうやら理解できていないのはぼくだけで他のスタッフには共通言語としての認識があるらしい。

あっ、なるほど!そういうことか。

ザブトン=座布団だと勝手に思い込んでいたけれど、これはぼくが知らなかっただけでフランス語の何か製パン用語に違いない。
そういえば確かに漢字でなくカタカナでザブトンと書いているし、それを書いているのも若いけれどフランス帰りの男子だ。
そう思えばザブトンって、フランス語の発音にもありそうな気もしてくる。
あぁ、危うく恥ずかしい思いをするところだった。
そう思ったぼくはLINEに「ところで ”ザブトン”  って何なの?」と書いてみた。
フランス帰りの彼からの返信には、こう書かれていた。
 
「正方形のデニッシュの四隅を真ん中へ折ったやつです。形が座布団に似てるから」
 
つづく


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