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夏の想い出

※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

地元のファミレスでは高校を卒業するまでお世話になったけれど、いくら思い出そうとしても褒められた記憶が出てこない。
叱られたことは数知れず、恐らく叱られなかった日を数えた方が早いと思うほど毎日何かしら叱られていた。
それでも不思議と楽しかったな、という想い出しかなく、毎日アルバイトへ行くのが本当に楽しみだったそんなファミレス時代の忘れられない出来事を一つ。

閉店時間も迫ってきたある夏の深夜のこと。
厨房はチーフとぼくだけになり、もうすぐオーダーストップということで、ぼくは午前1時を過ぎたころから片付けをはじめ、床に洗剤をまいてデッキブラシでゴシゴシと床掃除をしていた。
ところが午前1時半のオーダーストップ直前になってお客様の来店を知らせるベルが鳴りはじめ、どういうわけか鳴り止まない。
驚いたチーフとぼくが店内を見に行くと、そこには目を疑うような光景が広がっていた。

ファミレスといえば基本的に大箱であり、ぼくの働いていたお店も恐らく100席近くあったと思う。そんな店内が目視の限りほぼ満席に見えた。
そしてオーダーストップ直前のお店を一瞬でほぼ満席にさせたその1組のお客様 は、一見しただけで品行方正とは到底思えないぼくら世代の少年たちだった。

深夜だったため、サービス担当に残っていたのはマーネージャー1人のみ。

「そういえば、ずっと外がうるさかったもんなぁ」と、チーフ

「パトカーが何台も追いかけていましたよね・・・」と、ぼく

田舎の国道沿いに位置し、大きな駐車場を完備したファミレスで深夜まで働いていると、夏には厨房までバイクの爆音が聞こえてくることもそれを追いかけるパトカーのサイレンが聞こえてくることも珍しいことではなかった。
きっと時代的にもそうだったのだと思う。

顔を引きつらせるマネージャーに訊くと、どうやら「パトカーに追われていた少年らがそれを撒いて一時的に店に逃げ込んできた」ということを早口で教えてくれた。
店内を1人で担当していたマネージャーは当然パニック状態になっていたけれど、チーフとぼくは冷静さを取り戻していた。
これといってチーフと言葉を交わしたわけでないけれど、恐らくこのときにぼくらの考えていたことは同じだったと思う。

どうせ、ドリンクやろ。マネージャーには気の毒やけど、さっさと掃除のつづきをしよう

別に食事にきたわけでもなく、一時的に身を隠すために来店しただけの不良少年たちだからドリンクだけに違いない。そしてそれを作るカウンターは、マネージャーの持ち場だった。
ぼくは厨房の床掃除を再開し、ゴシゴシやっていると小走りでやって来たマネージャーが上ずった声で「オ、オ、オーダーお願いします!」

「ウソやん!?」と、チーフ

「ウソでしょ・・・」と、ぼく

そこには、上から下までビッシリとオーダーの書かれた伝票が何枚も並んでいた。
ファミレス時代、このときほど大変だったことはなかった忘れることのできない夏の想い出。


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