見出し画像

Tarte fine aux pommes 前編

今年25周年を迎えるル・プチメックの商品紹介にも「創業者の西山がフランス渡航時に感銘を受け、自店を開く際には必ず商品に加えようと思ったほど。」と書かれていた通り、個人的にとても思い入れのあるお菓子「薄いりんごのタルト」。

いろんなフランス菓子やデザートがある中で、ぼくはりんごのお菓子があまり好きな方ではない。もちろん嫌いというわけではないけれど、例えばデザートを食べるときに選択肢があれば優先順位としてりんごのものは下位になる。
ところがデザートメニューの中に「焼きりんご」あるいは「薄いりんごのタルト」があると迷わずこれらを選ぶほど、この2つは好きだったりもする。
ま、これは好みだから。

97年、ぼくが料理を学ぶためフランスで働いた最後のお店(オーべルジュ)で出していたデザートの一つが、このタルトフィヌ・オ・ポムだった。
このオーべルジュは、最寄駅が車で30分以上もかかるほどの自然以外何もないような場所で、初めて訪れたときにはもう夜遅い時間だった。
シェフに挨拶をすると「何か食べるか?」と言っていただいたけれど、お腹の空いていなかったぼくは「ありがとうございます。でも、お腹空いていないので大丈夫です」と答えると、「じゃあ、デザートでも食べろ。どれでも良いぞ」と1枚のデザートメニューを渡された。

5種類以上はあった気がするけれど、ぼくにはどのデザートも魅力的に映った(メニューは文字のみ)。
本心では「温かいスフレ」を食べたいと思ったけれど、もう時間も遅いし片付けも終わっているだろうから、いまからメレンゲを立てて作ってもらうのも悪いな、と変に日本人らしい気遣いをしたぼくが選んだのは、Tarte fine aux pommes et glace à la cannelle (薄いりんごのタルト、シナモンのアイスクリーム添え)だった。
しばらく待つと熱々の薄いりんごのタルトの上にクネルに抜いたシナモンのアイスクリームが載って運ばれてきた。

シンプルな構成なのにとても美味しくて感動したぼくは、スフレのことは頭の中からすっかり消えていた。

つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?