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空想サンドウィッチュリー 1.

※こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

何年か前から「いけるところまで頑張るけれど、いつか自分がリタイアしたときには、一人だけで小さな屋台のようなサンドイッチ屋をやりたい」という小さな計画を持っている。
ぼくがそう考えるようになったきっかけは、清水美穂子さんから教えていただいた1冊の本だった。

「それからは スープのことばかり考えて暮らした」

ぼくが吉田篤弘さんによる活字で描かれた小さなお店を想像していたちょうどこのころ、そのお店は映像としてぼくの目の前に現れた。

「あ・・・これ、これ!」

小林聡美さんが出演されていたPascoさんのCMに登場する小さな屋台のお店。
東京へ出店し、「さぁ、これから店(会社)を大きくしていこう」というときに、ぼくの頭の片隅では『それからは小さなサンドイッチ屋のことばかりではないけれど、結構考えて暮らした』ことになる。
こればかりは、あれもこれもやりたい性分なので仕方がない。
それに一人だけで小さなお店を始めるというのも初めからそうであるのと、お店や会社を大きくした後にそうするのとでは、いろんな意味で違うとぼくは考える。

と、パンラボの池田さんに取材などで会う度にそんな話をしていた。
イベント「空想ブーランジェリー」準備のため、池田さんと都内の雑貨屋さんをまわっていたときのこと。

「西山さん、ぼくと一緒に本をつくりませんか?」

池田さんが唐突に言ってくる。
パン職人さんに限らず、ぼくの知っている方々の中にも自分の本を刊行したい、自分のこれまでやってきた仕事を書籍として残したいと思われる方は多い。
ところが、ぼくにはこういった願望や感覚がまったくない。きっとぼく自身が残すほどのことをやってきていないと自覚しているからだと思うし、それ以前にぼくのレシピ本なんて想像もつかない。そもそもそんなものを読んでもぼく自身おもしろいとは到底思えない、と池田さんに伝えた(最近も書籍の打診を2ついただいたけれど同様にお伝えしている)。
ところが、ここからが池田さんの企画力の巧さ。

「西山さんがずっと言っていた引退後にやろうとしているサンドイッチの屋台、一足先に本の中でやりませんか?ダンボールか何かで屋台をつくって。
テーマを決めて毎回その場所に屋台を組んで、テーマに合ったサンドイッチを西山さんにつくってもらい、それをレシピにする。本当に屋台はあるし、サンドイッチも食べることができるけれど “架空の屋台”」

池田さん、ぼくが「やりましょう」というツボを本当に心得ているな。

「どうせやるなら、もし本当に書籍化されたときに食の専門書コーナーに並ばない本にしましょう。それなら、ぼくたちらしくておもしろそうです」と答えた。

こうして、「空想ブーランジュリー」のスピンオフ企画 「空想サンドウィッチュリー」が始まった。

つづく

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