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いい場所見つけた

今住んでいる街のことを知りたい。縁があって私たち家族が住むことになったこの街は何から何まで整えられた街で、自然を残しているというところまで整っている。その場所では子どもたちが虫かごと網を持って虫を捕まえることもできる。少し歩けばパン屋が3つ、こじんまりとしたイタリア料理店とお惣菜屋さん。スーパーとドラッグストアも徒歩圏内だ。とても便利で、いつも同じような風が吹いている。こういう街になる前はどんな場所だったのだろう。いつも向かう駅とは反対方向に10分ほど歩くと、鬱蒼と木が茂り、晴れた日でもひんやりした空気を纏った神社がある。ふとしたことからここには湧き水があることを知る。次の週末ににはここに行ってみたいと思っていた。
土曜日の朝、ゆっくりと朝食をとるともう昼近い。とくにやることもない。散歩がてらあの神社に行くことにした。娘に湧き水があるよ、と伝えてもピンときていない。まぁ、いい。見たところでピンと来ないだろうけれど、5歳の娘は気になるとものを見つける天才なので、ただの散歩も楽しくなる。出発すると早速、カラスの羽を見つけてしゃがんで観察している。ヒョロヒョロと茎を伸ばして咲いている小さなタンポポを見つけて耳の横に刺して髪飾りにしている。マンションを出てまだ50メートルも進んでいない。秋の散歩は娘にとってそれだけで魅力的らしい。この調子だと神社にたどり着くかしら、、、と心配していたら、案の定神社とは違う方に進みたがっている。まぁ、いいか。神社は逃げないし、娘は楽しそうだし、ここは流れに任せて。「じゃ、今日は、君がリーダーね。」と娘に進む道を任せる。娘は嬉しそうにリーダーを引き受けて、急に早足で進み出す。「こっちですよ!」とリーダーらしく私に指示を出して、辿り着いたのは畑が広がるエリアだった。車や自転車で通ったことはあるけれど歩いて来たのははじめてだった。そこにはにんじんやエンドウが見える。名前の知らない植物や、雑然と植えられた菊。休んでいる畑もある。そこでは風が吹いていた。いいにおいの、冷たい風が吹いていた。空は広々とどこまでも広がって富士山も見える。あぁ、私が住んでいる街は昔はこういうところだったのだ、とわかった。神社に向かうつもりが、娘に導かれて、湧き水のような生き生きとしたばしょにたどり着く。この街を好きになれるような気がする。風を感じたくなったら、すこし足を伸ばしてここに来よう。娘が大きくなって、何かに疲れた時に、かつてあなたが連れてきてくれたところだ、と伝えてここに連れて来よう。いい場所を見つけた。

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