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スケッチ

 NHKの音楽番組に坂本龍一が出演しているのを見つけて、番組を途中から見た。
 久しぶりに見た坂本龍一は随分痩せていた。癌で闘病中なのはどこかで読んでいた。手術を受け、闘病している間に体重が減ってしまったのだろう。それでも進行した癌患者特有の痩せ方とは違うのは、一目見ればすぐにわかって(我が家はウルトラヘビー級の癌家系なのだ)、縁もゆかりもないけれど安心したのだった。

 演奏の合間に挟み込まれたインタビューで、退院した後、療養をする毎日の中で「スケッチをしていた」と語っていた。
 「スケッチ」というのは、どうやら思いついたフレーズなどを書き留めておくことを指すらしい。
 短いフレーズから曲を展開させ、完成まで持っていくのではなく、ただその場で浮かんだ分だけを書き留めることを繰り返していたのだそうだ。
 もしかしたらピアノの前に座って、何とは無しに弾いたものを指すのかもしれない。いずれにしても体力が落ちた体に無理のない範囲で、毎日音楽を作っていたことは間違いがない。
 その短いフレーズ——ほんの数小節のものもきっとあるんだろう——が、やがて一つの楽曲となる最初に一歩かもしれないし、芽吹く種なのかもしれない。坂本龍一の音楽はそうして作られるのだなと受け止めた。

 文章を書くのもきっと同じなのだろう。
 どれだけ時間がなくても、動作一つでも文章で描写をしてみる。それだけの積み重ねが、やがてまったく違う場面で活かされることになるに違いない。
 始めることはいちばん簡単で、いちばん難しいのはやはり続けることなんだと思う。特に僕のように飽きっぽい人間には。
(そんなわけで、今年は「しつこく、執念深く」を方針の一つにあげてます)

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