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グッド・ルーザー

今回のオリンピックで選手にかけられた金メダルの総数は340個だそうだ。
チーム種目で表彰台に乗った選手の数を個別に数えたらさらに増えることになる。
そのうち27個が日本チームの選手の首から下がることになった。

340種目のゴールドメダリスト。
340個の金メダルを目前に敗れた選手が少なくとも340人はいたということだ。
表彰台に登ることを目標にして集まり、目標を達成できないままに終わった選手の数といったらどれだけ膨大なことか。
死屍累々といった感じである。

でも敗者が全て一様の敗残者かといえばそれは違う。ローレンス・ブロックをもじれば「800万の敗れ方」がある。
全力を出しきり、それでも敵わなかった選手、完膚なきまでに叩きのめされた選手、メダリストにはなれずに終わったものの、オリンピックの舞台で自己ベストを更新した選手。オリンピックは勝者を讃えるが、Good Loserにも同様の歓声を贈る。
参集する全ての人が漏れなく「オリンピアニズム」なんて幻想を抱いているとは思わないけれど、敗れた選手がベストを尽くしたのかどうかは、見ていれば伝わるものだ。
勝利した瞬間の喜びの爆発は、日々の暮らしの中で己が手に勝利をつかんで味わうことなどない多くの人にとっては、最上の代理行為になる。
もちろん僕もその一人だけれど、どこかで「善き敗者」に期待しているところも間違いなくある。
人は背中で語るときの方が、語彙は圧倒的に豊かだ。

今回は敗者を讃える勝者も、勝者を讃える敗者も少なからずいたけれど、Good Loserと呼べるまでの選手はいなかったかなあ。
サッカー日本代表の久保選手の号泣が、自分が敗者であることを自覚しているようで(敗者のままではいないという決意の始まりとして)、いちばん印象的だった。
悔し涙も千差万別なのである。

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