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情報カードというレトロな小道具

 何とも時代遅れも甚だしい自覚はお釣が来るほどあるのだが、いまだに情報カードは愛用する小道具の地位を保っている。

 と、書いたところで「情報カードってなんだ?」と思われる可能性は小さくない。情報カードというのは裏表に罫線の入った横125ミリ、縦75ミリのカードのことだ。
 高度にデジタル化が進んだ現代社会では、よく言って化石、ひどい言い方をすればタクシーが空を飛ぶ中でママチャリを漕いでいるような時代遅れ感満載の情報ツールだ。
 そんなレトロなツールだというのに、なぜかいまでは100円ショップでも100枚入りで売られている。かつて主流だった厚手のものは見かけなくなり、もっぱら薄手のカードばかりになっているけれど、それでも私はこのカードをいまでも愛用している。

 かつてはサイズも名刺大のものから「京大式」と呼ばれる大判のモノまでいくつか存在した。
 私は昔から5インチ×3インチ(125×75ミリ)のカードを使ってきた。
 「どう考えてもスマホの方が便利でしょ」と思われそうだが、場所さえあれば並べたり広げて一覧することもできて、なおかつ順序の並び替えも自在という点では、情報カードには敵わないのではないか。根拠はないが、何となく脳が物事を捉える構造と似てる感じもするし。

 ストーリーを組み上げるとき、1つの場面を1枚のカードに書く。
 カードをストーリーの順に並べてみると、抜け落ちや飛躍、冗長さや起伏のなさ、矛盾に説明不足、唐突さや過度な偶然、ご都合主義等々が見えて来る。新作の紙芝居の出来を確認しているような感じだ。

 と、そんな使い方をしているせいで、情報カードをいまでもしつこく使っているわけだが、使い始めたのは「プレジデント・カード」という出所不明の呼び方に惹かれたことがきっかけだった。
 プレジデントとは合衆国大統領のことだ。
 確か何かの小説——スパイ小説だったか冒険小説だったかは覚えていないのだが、読んでいた小説に「プレジデント・カード」という呼称が出てきたのだったと記憶している。
 ホワイトハウスの執務室のデスクの上に置かれている、大統領のメモ用のカードのサイズが5×3インチだったことに由来して「プレジデント・カード」。安直といえば安直だが、言われてみれば映画なんかで大統領に差し出されるメモはそんなサイズだったかも、とこちらも安直に受け止めてしまったというわけだ。
 大統領に憧れたわけではないが、私はすぐに「プレジデント・カード」を文具店に買いに走り、意味なく必要でもない情報カードを無理に使い始めたのでした。

 ちなみに横91ミリ、縦55ミリの名刺サイズのカードは「FBIカード」と呼ばれていた(こちらも出所不明)。
 4インチ×2インチのカードは、FBIの捜査員がスーツのポケットに入れておいて使うメモのサイズというわけである。
 当然、私はそちらにも惹かれて、自宅ではプレジデントカードを、外出するときにはFBIカードを持ち歩くという、大統領と捜査員を兼務する忙しい身になった。

 それにしても、いま100均でも売られているというのはなかなか不思議だ。誰がどんな理由で使っているんだろう?
 と思ってネットを漁ってみたら、びっくりするほどたくさんの人が今も情報カードを愛用していたのでした。いやー、びっくりした。

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