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読書記録2022 『光圀伝』 冲方 丁

今から10年前の2012年発表の作品。
前作の『天地明察』を読んだ時に、著者の冲方丁の文体をちょっとくどく感じたところがあって、読まず嫌いになったままだった。
本作も導入からしばらくはちょっとくどく感じたけれど、途中からは読む手が止まらなくなって一気に読み切ってしまった。

本作はタイトルの通り水戸黄門で知られる徳川光圀が主人公。
水戸光圀と坂本龍馬はドラマや小説先行で、日本でいちばん虚像が広がっている人たちだと思うのだけれど、本作の光圀はあの「水戸黄門」とはずいぶん違う。
幼少期から青年時代を通して、いかにして水戸藩の2代藩主となったかが物語の中心となる。
印籠を突き出して悪党をひれ伏させるあの姿とは大違いの武張った青春期から、大日本史を編纂するに至った理由、光「圀」の名の由来等々が周囲の魅力的な人らに張り合い、影響され、語られていく。

この「周囲の人々」が実に魅力的で、兄の松平頼重、正妻の泰姫、儒家の林羅山と四男の読耕斎、会津宰相の保科正之、初代尾張藩主の徳川義直、他にもたくさん。
若き光圀が老境の宮本武蔵にコテンパンにされるなんてシーンもあって、本作が伝記ではなくフィクションなのは確かなのだが、エピソードの多くは文書で伝わっているものを下敷きにしていて、それをうまく使っているので飽きない。

全体を通していえば「義とはなんぞや」というのが主たるテーマなのだろうが(それはもちろん読み進めるうちに感じ取れる)、それ以上に光圀をはじめとする皆のエピソードが魅力的で、それがいちばんだった。
これは「大河ドラマに!」って動きが地元で出る理由は良くわかるなあ。見てみたくなる。
それにしても泰姫の愉快なこと。本当に大河でドラマ化しないかなあ(徳川家康なんて作ってる場合じゃないよ、NHKさん)

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