いつきさらさ

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いつきさらさ

詩ときどき雑記/作品処:https://sa-la-sa-i-poet.hateblo.jp//'20.10.02 第五詩集「心をみる猫の医者」発刊 https://amzn.to/2GgIS89/プロフ:nishimariさん/ヘッダー:伊藤乃吏子さん

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プロフィール

名前:いつきさらさ 福岡県在住の詩人 猫を擬人化した童話詩を中心に、揺れ動く心模様を綴る 2012年よりブログにて自作詩の投稿を開始 発表作品は2000編以上(※2021年現在) 著書 2014 綴りゴト 想いゴト(樹さらさ名義) + 2015 はじめましてが、おわるとき + 2016 わたしをさがしていますか(電子書籍) + 2018 トーザ・カロット岬の毛糸屋さん + 2020 心をみる猫の医者 *表紙と挿絵:伊藤乃吏子さん *プ

    • なんてことない猫になって

      ごとんごとん ごとん、ご、と、ん ご、とん 列車は岬に近い街の駅に ゆっくりとまりました 猫そっくりの毛糸屋の店主は 最終列車を降りました 月も星も隠れてしまったので あたりは真っ暗 人らが灯りもなしに散歩するには難儀な夜です 店主はここぞとばかりに 瞳をまあるく お髭としっぽをピン! それから荷物を おんぶしやすいようにまとめると 本当の猫のように 「にゃぁぁ」 一声鳴きました そして なんてことない猫の姿で なんでもない風に荷物をお

      • 再び、毛糸屋さんのいない街駅

        ごとんごとん ごとんごとん のんびりした音が近づいてきます 猫そっくりの毛糸屋の店主は “毛糸屋さんのいない街”駅に やってきました あと数分で最終列車が到着する時間です また何かを さささささ! と編んでみようかと思いましたが 帰るまでは魔法を使わないことに決めて ホームのみかんの樹をそっとなでました さわさわざわざわ風が起こって 「またいらしてくださいね」 ふわふわした生き物の気配と そんな声が聞こえました 店主は みかんの枝に小さなブロー

        • 宇宙の理(ことわり)が消えても

          帰る日の夕方になりました 猫そっくりの毛糸屋の店主は 夢で見た溺れるまあるいもののことが 気になり もういちど「浮かぶ海」まで きてみたのでした 今日の海はオレンジ色で 相変わらずゆったりゆったり 波が寄せたり返したりしています 背伸びをしても ぴょんぴょんしても 海に何かが漂っている様子はなく 店主は少しほっとしました そして 浮かぶ海に深く感謝をすると フリュへと向かったのでした 約束より少し早い時間でしたが 「お待ちしておりました」

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        プロフィール

          溺れる青い星

          朝陽が顔を出す頃 猫そっくりの毛糸屋の店主は 宿屋に戻ってきました ぽかぽかぬくぬくの寝床に 本当の猫のようにまあるくなると あっという間に夢の側へ 誘い込まれていくのでした 先ほどまで見あげていた海に まあるい何かが たっぷんとっぷん いったりきたり 夢の中で 猫そっくりの毛糸屋の店主は 小さな青い何かが溺れそうになっているのを なんとかしようと必死に手を伸ばし そこで目が覚めました いつのまにか雨になったようです やわらかな雨には みか

          溺れる青い星

          浮かぶ海

          ざぁ ざざぁ ざぁ ざざぁ うすぼんやりした光の中に 海が見えてきました まるで低くたれこめた雲のように 海そのものが中空に浮かんでいるのです 猫そっくりの毛糸屋の店主は 波が寄せては返すのを しばらく見あげていました そして 旅行鞄から大きめの布をとりだすと 岬で毛糸屋を営んでいるものです 音霊を少しだけ分けてください 初めてここを訪れた時と同じように 心の中で呟きました ざぁ ざざぁ ざぁ ざざぁ 大き

          花屋

          毛糸屋さんのいない街では みかんの香りと森の香りが ほどよく風に紛れこんでいます 猫そっくりの毛糸屋の店主は 旅行鞄を持ち直すと さっき風磨きのうさぎに 拾ってもらった襟元のブローチを よくよく確かめ なじみの花屋へ向かいました 透明なリサラヌアのことを 教えてくれた花屋の店長は 「そろそろお見えになる頃だと思ってましたよ」 そう言って 懐かしそうに瞳を細めました ずっと昔 名のない店だったのを フリュ(満潮)と命名したのは ほかならぬ毛糸屋

          店主、毛糸屋さんのいない街に着く

          ごとんごとん ごとんごとん 列車は “毛糸屋さんのいない街” という駅に さしかかりました もう随分と前のこと ただただその名前に惹かれて ホームに降り立ったことがあります トーザ・カロットでもよく知られている ゴロンゴロンしたみかんの樹が 駅のホームを埋め尽くすように 並んでいたのを 猫そっくりの毛糸屋の店主は 懐かしく思い出しました 2本足ですっくと立つことを 選んだとは言え そこは猫のはしくれ 毛を逆立てるほどではなくても 年中みか

          店主、毛糸屋さんのいない街に着く

          店主、ブローチを編む

          猫そっくりの毛糸屋の店主は 久しぶりに鉄道の駅まで やってきました あと30分もすれば 小さなホームに ゴロンゴロンしたみかんと同じ色の 列車が着く時刻 毛糸屋の店主は ホームのベンチに腰を下ろし 旅行鞄から “みかんの香りが懐かしくなった” という名の毛糸玉をとりだすと さささささ! 魔法のような速さで 小さなブローチを編みました そして マフラーにそっと飾ったのです きっと今頃 トーザ・カロットの岬にも 甘ずっぱいの香りのする風が

          店主、ブローチを編む

          店主、留守番をお願いする

          お店をすっかりお留守にすると お客さまが さびしくなったり 困ったりするかもしれません 猫そっくりの毛糸屋の店主は 考え考えした末に 雲予報の仕事をしているご夫婦と 鍵しっぽの詩人屋さんに 店番をお願いしました 緋色豆のコーヒーをみんなでいただきながら 改めて レジ周りのことや毛糸玉のこと お客さまに渡す小さなカードのこと 風が強すぎる日のこと そんなことを確認して では よろしくお願いします 店主はしっぽをゆらゆらさせて 丁寧に頭を下げま

          店主、留守番をお願いする

          店主、旅に出る

          ようやっと 半袖の上に羽織りもの ぐらいの格好で 陽だまりを歩けるお天気になりました とは言え 晴れた日の翌朝は ぶるる、としっぽまでかじかんでしまうほど 岬の毛糸屋さんにも こっくりとした色の毛糸玉たちが 行儀よく並んでいます 猫そっくりの毛糸屋の店主は 何色のベレーを編もうかと思案中 空のかけらの青を混ぜましょうか 漆黒の闇色を散らしてみましょうか それとも 滴り落ちそうな夕焼けの朱にしましょうか 何しろ糸を染めるところから始めるので そ

          店主、旅に出る

          はじめに

          どこかの宇宙でのこと すっくと2本足で立ち上がる命を選んだ 猫そっくりの生き物がおりました 生き物はトーザ・カロットという岬で 小さな毛糸屋さんを営んでいます 糸を染めて音霊に浸して ひとたまひとたま ていねいに作り上げる毛糸は それは素敵な歌を奏でるのでした ある日 自分のためだけの毛糸玉で 自分だけのベレー帽を編みたくなって 猫そっくりの店主は旅に出かけることにします