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店主、ブローチを編む

猫そっくりの毛糸屋の店主は

久しぶりに鉄道の駅まで

やってきました


あと30分もすれば

小さなホームに

ゴロンゴロンしたみかんと同じ色の

列車が着く時刻


毛糸屋の店主は

ホームのベンチに腰を下ろし

旅行鞄から

“みかんの香りが懐かしくなった”

という名の毛糸玉をとりだすと

さささささ!

魔法のような速さで

小さなブローチを編みました

そして マフラーにそっと飾ったのです


きっと今頃

トーザ・カロットの岬にも

甘ずっぱいの香りのする風が

届いているかもしれません