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僕は君の幸運を祈る【短編小説】1400文字

会うのが週末だけになっている。
これまでは平日の仕事終わりに会うこともあったが、最近は忙しいらしい。
『ごめん!今日はちょっと無理だぁ~(>_<)』
僕らの仕事は急な対応が入ることもあるから、何かあったんだな、と察するけど、新人の彼女にそんな案件が突如舞い込むことはないはず。
予定通りに作業が進んでいないのだろう。
『了解!無理しないようにね(^_^)/』
無理しないようになんて、僕は無責任な言葉しか送れないのか。

彼女と付き合ってもうすぐ半年になる。
人事部主催の<2年目先輩社員から話を聞く会>で初めて話をした。
その後に開催された飲み会で隣の席になり、その場では携帯メールのアドレスは交換できなかったけど、彼女が僕の部署を希望しているということで何か相談があればと、別の新人君に僕のアドレスを託した。
それがうまく彼女に伝わり、その日から毎日メールが続くようになったのだ。
彼女は僕と同じ部署に配属にはならなかったけれど、それをきっかけに付き合うようになった。
結果、オーライだ。

彼女はほぼ毎日終電。
この前は降りなければいけない駅で寝過ごしてしまったらしい。
慌てて起きて降りた駅は無人駅。携帯の電池も僅かな状態。
家に電話をして、降りてしまった無人駅までタクシーを呼んでもらったらしい。
タクシーが来るまでの間、人のいない小さな駅、携帯の電池がなくなったらどうしよう、と不安だったようだ。
「会いたいねー。」
彼女の声は諦めているように聞こえた。

普段は客先に直行するけど、彼女の顔が見たくて久しぶりに会社に行った。
同じフロアの彼女はすぐに見つけることができたが、なんだか表情が曇っている。雨が降り出しそうだ。
僕は会社に行ったことを後悔し、メールチェックと事務処理だけを済ませて客先に向かった。

遅れて客先に入ると受付が明るくなっていた。
大きなもみの木にはカラフルなボール型のオーナメントが散りばめられ、一番上には金色の星が飾られている。
卓上には鉢植えが並び、いつものお姉さんがその赤い花に囲まれて一瞬だけミニスカサンタに見えた。
これかもしれない。

帰宅してすぐ花関連のサイトをチェックした。
そういえば大学生の時、何を思ったか離れて暮らす母に花を贈ったことがある。あれは母の日だったが、それ以外でも花を送る需要はあるようで、今なら送料無料だ。
背の高い彼女に引けを取らないようなインパクトのあるものがいい。
彼女が家でサザエさんを見ているであろう日時を指定した。
付き合って半年記念。彼女の笑顔がまた見たい。


結婚9周年記念日。僕は会社をそそくさと出て帰り道にあるケーキ屋に向かう。
僕が一度会社を辞めた頃からだろうか。誕生日やクリスマスのプレゼント交換はしていない。
その代わり、手紙を送り合ったり、ビストロやトラットリアでおいしいものを食べるようになった。
今は子供がまだ小さいので、ビストロに出かけるより家でケーキを買ってきて楽しんでいる。
妻が好きなモンブラン。子供たちが好きなチョコ。僕の好きなレアチーズ。
妻が子供たちを制しながらケーキの箱を開ける時のわくわくしている顔を見るのが好きだ。
それに、妻にはもう1個別にケーキを買っている。子供たちが寝た後のお楽しみ用だ。

12月が近づくと我が家のトイレに飾られる造花はクリスマス仕様になる。
あの頃、僕が贈った花を思い出す。
ー幸運を祈るー
妻は今も思うところはあるようだが、当時の会社に勤め続けている。


このエッセイの彼氏sideを物語にしてみました。
フィクションでしょうかね。ノンフィクションでしょうかね。

そういえばあの当時、会社PCのデスクトップはこのポインセチアでした。
リース切れまで維持していました。
想いはしっかり受け取っていました。
タカちゃん、ありがとー!

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