見出し画像

連載小説『ベンチからの景色』7話

キョウコはにいつものベンチてランチを取っていた。
最近忙しくてなかなか来れなかったのだが、
今日は昨晩のタクヤとのことがあってどうしても来てみたくなり、
ちょっとぐらいいいだろうと仕事を放り出してきたのだった。

昨日少しでも気持ちを吐き出したことで、
キョウコの心は随分と軽くなっていた。
自分の都合のためといいながら
キョウコのために飲みに連れ出してくれたこと、
話すきっかけを作るために自分のことを話してくれたこと、
そして会社に誘ってくれたこと。
タクヤには感謝してもしきれない思いでいっぱいだった。
「好きになっちゃいけないのに、ますます好きになっちゃうな」
キョウコは自分で言って自分で照れた。

改めて見るここからの風景はいつもと変わらなかった。
(やっぱり昼間のほうが好きだな)
そう思いながら昨日のタクヤからの話を考えていた。
自分の居場所を確保するために
他人の足を引っ張り合う職場に辟易しているキョウコにとって、
タクヤの誘いを断る理由はなかった。
唯一理由があるとすれば二人の後輩のことだった。
ここまで自分についてきてくれてた後輩を裏切ることになる、
それだけはどうしても避けたかった。
今自分に貼られているレッテルのせいで
彼らも穿った目で見られているかもしれない。
そう思うと、また自らそれを払拭させるだけの成果を上げるか、
彼らに結果を出させるしかない。
そう考えていた。

久しぶりに競合プレゼンの話がきた。
これを取れれば大きな成果となる。
そこでキョウコは
「二人にも企画を出させようと思うんですが」
と上司に提案した。
ナミはまだ2年目だが、アツヤは4年目になる。
「ミタさんのほうでしっかりした企画を数案用意できるなら、
 プラスαとして出すのは構わない」
「ありがとうございます!」
これで数年前の私と同じように彼らにチャンスを与えることができる。
キョウコは嬉しくなって二人に報告した。
「いい、これはチャンスよ。
 チャレンジしなきゃ掴めるものも掴めないから、
二人にもぜひ参加してほしいの」
ナミはちょっお乗り気ではないけれど、
アツヤは少し興奮していた。

合同オリエンが行われた。担当はユウキだった。
実によくまとめられていて説明も流暢で分かりやすかった。
その後の質疑応答も難なくこなした。
キョウコは口説いている彼ばかりを見ていたので、
初めて仕事らしい仕事ぶりを見て
小馬鹿にしていたことを少し申し訳ないと思った。

キョウコ達は社に戻ると早速打ち合わせを始めた。
今回のプレゼンのポイントや先方の意向を確認してブレストを行った。
そして最後に
「プラスαの案とはいえ会社として
 恥ずかしくないものをと考えているから、そのつもりでいてね」
と釘をさすことは忘れなかった。
「マヤマさんはどうする? あまり乗り気じゃないみたいだけど」
「考えてみますけど、ダメだと思ったらミタカ先輩のサポートに回ります」
この仕事が取れれば良い方向に行く。
キョウコはそう思いこの2週間に賭けようと決心した。

アツヤの案も採用したがプレゼンはキョウコが全て行った。
キョウコの企画は殊の外上々だった。
そしてアツヤの企画をプレゼンすると会場が少しざわついた。
確かに彼の企画は一風変わったものだった。
ただだからこそインパクトがあり、
競合他社との差別化が図れると敢えて採用したのだった。
このざわつきはキョウコにとっては想定内だった。

「すごく面白い」
そう言ってくれたのはユウキだった。
その意見に触発されたのか他から
「ちょっとリスクが高いんじゃないか」
といった声が上がり、賛同する声があちこちから上がった。
その声を打ち消すようにユウキが立ち上がり
「ちょっと待ってください!
うちが❝大幅な売上アップにつなげたい❞ってオリエンしてるんですよ」
と、少し苛立ちながら話し始めた。
リスクを恐れるあまり常に無難な企画を採用するから
こちらが大胆な企画を望んだとしても、
どこの代理店も低リスクの同じような企画しか提案してこない。
その点ではこの企画はまさに
今回のオリエンに素直に答えた企画だといえるとフォローした。
「少しはリスクを冒さなきゃV字回復なんてできっこありませんよ!
 だからダメなんだよ、この会社は」
ざわつきは止んだ。
キョウコは一連のユウキの振る舞いを見て少しは見直した。

すべてのプレゼンが終了するとキョウコはユウキの元へ行った。
「今日はありがとうございました。
 あとうちの最後の企画をフォローしてくださってありがとうございます」
「勘違いされては困ります。
 あれは素直にそう思っただけでフォローしたつもりはありません」
ユウキはキッパリと言った。
「そうなんですかー。
 フォローしていただいたならお礼に食事でもと考えたのですが…」
キョウコはそう言って意味深に笑うと
「ほんとに?じゃあ、そういうことにして、ぜひ食事でも」
とユウキは迫った。
そんな二人のやり取りを遠目で見ていたナミが、
二人の元へやってきた。
その顔は明らかに怒っていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?