ヨガがメンタルトレーニングに有効であるという理由を脳科学から考えてみる
▶感情はどこで作られる?
現在の医学におけるこの見解に、異議を唱える人は少ないのではないでしょうか。
しかし近年、感情が生まれる仕組みには体が関わっている、ということが明らかにされつつあります。
感情が科学研究の対象となったのは、脳の可視化技術が発達したここ20年余りのことで、まだまだ明らかにされていないことも多い一方で、ヨガやマインドフルネスというメンタルトレーニングが広がりを見せ、多くの人の関心が集まるところでもある分野です。
感情は脳で作られる、しかし感情の生成プロセスには体が関わっている
・・・らしい。
これは一体どのようなことでしょうか。
脳科学の観点から解説し、ヨガがどのようにメンタルトレーニングに効用を及ぼすのかを論じてみたいと思います。
▶感情の生成に関わる「島皮質」とは?
前提として、脳は他の臓器と違って、各々の場所でそれぞれ担当分野を持っています。
例えば、視覚野(しかくや)、聴覚野(ちょうかくや)、運動野(うんどうや)、嗅覚野(きゅうかくや)、味覚野(みかくや)などです。
脳は層になっており、上記の機能は脳の外側の層である大脳皮質というところに存在しています。
そして感情の生成プロセスに関わるとされている脳の部分は、それよりももっと内側の層にある「島皮質」という部分です。
(先日見たNHKでもこの島皮質に関して特集されていたのですが、この島皮質の島回という部分にある腫瘍を取り除く術後の患者さんには、表情が無かったり、感情が平坦になるという傾向が見られたそうです。
そこから、この島皮質は感情の生成とかかわりがあるのでは、と考えたことが研究の始まりだそうです。面白い…!)
島皮質はもともと、体の感覚を認知する領域です。例えば体の痛みや心臓の鼓動など、内受容感覚と呼ばれる体内の感覚をモニタリングしています。
島皮質の画像が良いものを探せなかったので、図で場所を理解したい方はこちらのターザンのページでご確認ください↓
この頭皮質という部分がどのように感情の生成に関わっているのか、例を挙げながら見ていきましょう。
▶感情には体の感覚が必要?
私たちの目の前に猛獣が現れたとしましょう。
最初は、脳の扁桃体というところでこの危険を察知します。
扁桃体は不安や恐怖などに反応する部分です。本能的な脳の領域で動物や魚にもあります。命を守るためについている緊急警報の装置のような役割です。
本能的な脳なので、ここでは感情は生まれません。ただ危険を察知して体に伝えるだけです。
その後、体の各機能が一気に戦闘モードになります。
心拍や血圧が上がり、消化器官は働きを抑制し、言葉の通り戦闘態勢になるのです。自律神経も交感神経が優位になります。
そして、その体の戦闘モード(心臓がドキドキしている、血圧が上がっている、など)の感覚が再び脳へと伝えられます。
この体の感覚をうけとる部分が…お分かりの通り、島皮質です。島皮質は内受容感覚をキャッチする場所なので、戦闘モードの体の感覚を受け取ります。
そして、前頭前野(思考したり判断したりする、理性的な脳の領域です)と結びつき、状況や過去の経験を総合して「怖い」という感情が作られます。
まとめると、以下です。
これは猛獣などの命に係わるような特殊な環境でなくても、例えばストレスに関しても同じプロセスを踏みます。
▶ヨガは脳への情報提供をコントロールする
さて、このプロセスを踏まえてヨガを見ていきましょう。
ヨガは、エナジーピークというきつめのポーズを行う場面があります。(もちろん種類や流派によってはそれをしないこともあります。)
なかなかに辛いこれらのポーズ、自分ができるぎりぎりのラインまで行います(ヨガの用語ではエッジといいます)。それは、負荷のかけ方もそうですし、キープ時間もそうです。なので辛いし、若干イラっとするのです。
ヨガはマットの上では安全が保障されていますから、上記の猛獣のような危険が訪れるわけではありません。なので扁桃体からの指令は介しませんが、ただ指導者の誘導のもとに、けがをしないぎりぎりのラインまで追い込む状況を作ります。
つまり、心拍や血圧、体温があがる状況をあえて作っている、ということです。
そして大事なのはここから。
ヨガはその場面であっても体は戦闘モードにならないようにいることが求められます。具体的に言うと、「呼吸が上がらない」ように努めるよう求められます。
当然きついポーズでキープするので、負荷がかかっています。
負荷がかかるということは心拍が早くなるということであり、その分酸素が必要なので呼吸は早くなります。同じく負荷によって血圧が上がりやすく、その分呼吸が浅く早くなります。
しかし、呼吸をリラックスした状態に保ち続けることで、心拍や血圧も戦闘モードにさせないように努めます。
これは、上記の感情の生成プロセスでの、体→脳への連携を断ち切っていることになりますね。
もし感情が体の反応から脳を介して作られるとすると、体の反応を自分で抑制(調整)することで、感情をコントロールできる、というわけです。
ここは、体を追い込むというプロセスを踏まないマインドフルネスとは異なります。
▶自分の体内で起こっている連鎖に自分で気づく
そもそも、ヨガやマインドフルネスは平常心を保ったり感情のコントロールをする目的でよく挙げられますが、それらは手法であり、根底にある解決方法はたった一つです。
それは「意識する」ということ。
なぜなら、感情のコントロールのためには、表に出てくる前にそれらを修正する必要があるからです。
表に出た言葉や行為であれば、目に見えますし、周りからも指摘してもらうことも可能です。
しかし、私たちが目指しているのは、表面化される前にそれらに軌道修正すること。
だとすると、解決方法は、自分の体内で起こっている連鎖に自分で気づく、もしくは無意識であったものを意識できるようにする、だけなんです。
ヨガは呼吸に対する意識を保ちながらコントロールし続けることで、体内での感情の生成プロセスにおける連鎖を意図的に断ち切るトレーニングをしているということになります。
さて、2023年の最初の記事をまとめます。
皆様お気づきでしょうか。
途中のこの部分↓
今年も修業に励みます。
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