あなたの「答え」と誰かの「答え」

今日は、前回お話した「よめ」ないとき、「きけ」ないときにもつながる内容でもあるのですが、なぜ国語の力が必要かについて書きます。

タイトルにある、あなたの「答え」と誰かの「答え」、「さて、正解はどちらでしょう?」と聞かれたら、何と答えるでしょうか。

本当は、どちらも正解です。でも、どちらかが正解になる場合もあります。そのためには、どちらも知り、分かっていることが大事です。そして、あなたの「答え」と誰かの「答え」は違う、ということを理解することがさらに大切になります。

わかりやすい例で言うと、国語をはじめとする一般的な試験問題で問われるのは誰かの「答え」です。その試験を作った人の「答え」が問題としてテスト用紙に書かれています。その誰かの「答え」により近い「答え」をそこに書かないと正解になりません。反対に、あなたの「答え」が正解とされるのは作文系の課題です。読書感想文や小論文などはあなたの「答え」が問われます。もちろん、あなたの「答え」を述べるの前に誰かの「答え」(何について書くように言われているのか)を意識しておく必要はありますが。

教育学者の齋藤孝先生が「実用的な言語」と「文学的な言語」ということを語られているのを読んだことがあります。「実用的な言語」とは、一つの意味だけをもつ言語。複数の解釈はそこにはないとされています。「文学的な言語」とは、さまざまな解釈を良しとし、いろんな意味で受け取れる言語です。例として、前者は新聞や論説文、後者は俳句や小説などが挙げられていました。もちろん新聞や論説文の扱うテーマについては様々な解釈が可能ですが、新聞や論説文では筆者という誰かが見聞きし、頭で考えた「答え」が明確に情報や主張として記されます。そういう意味で1つの解釈としての「実用的な言語」(それ以上の解釈をそこではできない)としているのでしょう。また俳句や小説はもちろん作者の思いや「答え」はそこにあるはずですが、読み手に「答え」が委ねられてもいます。読み手であるあなたが、自分の頭や心の中にさまざまな想像の世界を広げながら読めるのが、「文学的言語」ということになります。

もう一度試験問題の話に戻りますが、素材として「実用的な言語」、「文学的な言語」のどちらを扱うにしても、出題者という誰かが「答え」をもって問いを作るので、正解は一つになります。また作文系の課題であれば、「読んで感想を書きなさい」と書かれていた場合は、まずそこにある素材を「よみ」解いた上であなたの「答え」を書く必要があります。「実用的な言語」であれば筆者の解釈をきちんと「よみ」解く必要がありますし、「文学的な言語」であっても作者や登場人物の「答え」を「よみ」解いた上であなたの「答え」が展開されるのが大きな意味での正解となります。(その上であなたの「答え」について、出題者の誰かが自身の「答え」をふまえて判断することになるでしょう)

ここで大切なのは、あなたの「答え」と誰かの「答え」はそもそも違っているのが当たり前ということです。だからこそ、それを「よんで」ほしい、「きいて」ほしいと思う気持ちが生まれ、文章として書いたり、対話を通して伝える必要性が出てくるわけです。誰かの「答え」を「よむ」ときや「きく」とき、あなたの「答え」が常に頭の中にあると、きちんと「よめ」なかったり、「きけ」なかったりすることがあります。「よんだ」つもり、「きいた」つもりで、実は「よめて」いなかった、「きけて」いなかったということは誰しも経験があるように思います。それが起こると誰かの「答え」を誤って理解してしまったり、コミュニケーションがうまくいかなかったりすることもあります。それは子どもも大人も、いつどんなときでも起こり得ることです。だからこそ、国語の力、まずは「よむ」力、「きく」力を鍛えて、誰かの「答え」を知り、あなたの「答え」と何が、どこがどう異なっているのか、その違いをきちんと理解できることが大切であると私は考えています。

誰かの「答え」を知ると、あなた自身の「答え」と違うところはもちろん、ここは同じ、というところを知ることもできます。それは共感につながったり、お互いの違いを認めるための土台になったりもします。全く違う「答え」を最初から認めたり受け入れるのは誰にも難しいことですが、それでもそこに自分とは違う「答え」をもつ誰かがいるということを理解することはその始まりであり、とても大切です。そして違いを知って改めて考えることで、自分自身の「答え」をより深めていくこともできます。国語の力は、しあわせをつくる知性だと私が考えるのは、こうして誰かの「答え」も自分の「答え」もどちらも正解として「よみ」解(ほぐ)し、「きき」解(ほぐ)し、互いに理解し合える可能性を持っていると思うからです。

こんな今だからこそ、国語の力はいっそう大事なもの、必要とされるものになっていくはずです。

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