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サイコパスの明確な定義とは


友人との会話でも‟サイコパス”というった言葉はたびたび耳にする。

また、Twitterなどを見ていても度々サイコパス診断なるものが流行する。

こういった現状を見るに、実は皆はサイコパスと思われたい、憧れている、という節があるのではないかと思う。

そんな世間を魅了するサイコパス。果たしてその定義を答えられる人はどれほどいるのだろうか?

「ヤバいやつ」「殺人犯」「人の気持ちがわからない」などのフワッとした回答を述べることのできる人は多いだろう。というか、大体の人がこうしたイメージを抱いているはずだ。

暇人は、そんなフワッとしたサイコパスのイメージを明確なものとしてここで一度定義する。



心拍数と反社会的行動の因果関係

サイコパスの見分け方としてひとつ、心拍数と反社会的行動の因果関係が言われている。

まずは動物の例をみてみよう。

攻撃的で支配的なウサギは、おとなしく従属的なウサギに比べて安静時の心拍数が低い。また、支配力が上がるにつれて心拍数が下がる。ボノボ、マカク、ツパイ、マウスなど、動物界広範でこれと同じ関係がみられる。

では人間だとどうだろうか?

神経犯罪学者エイドリアン・レインは、反社会的な学生の安静時心拍数が低いことに興味を抱いた。

そしてレインは、「1000から逆向きに7つ置きで数える」という課題を与える方法で反社会的な学生のストレス時の心拍数も調べてみた。すると、ストレス時の心拍数の変動も低いことを示した。

また、心拍数にも性差はある。心拍数の性差は早くも3歳の時点で見られ、男子の心拍数は女子より1分間に6.1回少ない。

こうした幼少期の心拍数は、成人後の反社会的行動にも影響を与えるとされ、イギリス、ニュージーランドで研究が行われた。その研究では、子供の頃の心拍数の低さが後の非行、暴力、犯罪の予測因子になることが示された。

そこでレインは、15歳の時に反社会的な態度をとっていて、29歳までに犯罪者になったものと、成人後に反社会的にも犯罪者にもならなかったものとを比較することにした。

その結果、後者の犯罪者にならなかったグループは、安静時心拍数がかなり高いことが判明した。心拍数の高い子供は、非行に走ったとしても大人になれば更生するということだ。



だが、なぜ心拍数の低さと反社会的行動が相関するのだろうか。

それには3つの理由が考えられるとされる。


1 恐怖心の無さ
心拍数が低いということは、恐怖心が少ないということである。実験という特殊な環境で心拍数を計測されているというストレスのかかる環境に置かれているにも限らず心拍数の変動が少ないこともそれを示している。また、実例として爆発物解体の専門家の心拍数も低いとされている。

2 心拍数の低い子供は高い子供より共感力が低い
心拍数の低い子供は高い子供に比べて共感力が低いとされており、また、共感力に低い子供は攻撃的になりやすい

3 刺激の追及覚醒度の低さが不快な生理的状況をもたらし、それを最適なレベルに上げるために刺激を求めて反社会的行動に走る。
人にはそれぞれ快適かつ最適な覚醒度(心拍数)があり、低いものはそれを非行で高めて補おうとする

心拍数の低い子供は刺激を求めて反社会的行動に走ることが多い。覚醒度の低さが生理的に不快で、それが原因で覚せい剤のような麻薬に手を染めることもあるかもしれない。だが一概に心拍数の低さが悪いとは言えない。それは、そもそも社会的な成功やベンチャー企業の立ち上げなどは、恐れを知らない人間にしかできないからだ。


発汗と良心

発汗と良心の学習について、モーリシャスの実験がある。それは皮膚コンダクタンス(きわめて微弱な電流を流した時の発汗量)を調べるといったものだ。

実験によると、一般の子供は不愉快な音を予告する低音を聞くと、発汗量が増加する。ところが将来犯罪者になる被験者は、この反応がまったく見られなかった。これは幼少期における恐怖条件付け機能の障害が、後の犯罪を導く因子となり得ることを示している。発汗しない子供は、親がどれだけ厳しくしつけても良心を学習することができないのだ。



賢いサイコパス

ここでレインはある実験を思いついた。賢いサイコパス(警察に捕まっていない犯罪者)の皮膚コンダクタンス反応を測ろうとしたのだ。

だが、警察に捕まっていない犯罪者などどう見つけるか。そこでレインは、捕まっていない犯罪者は職を転々とすることから、職業紹介所に目を付けた。

すると一般集団における男性の反社会性パーソナリティ障害の基準率は3%なのだが、職業紹介所で募集した被験者では基準率24.1%という驚異的な値が得られた。

こうして賢いサイコパスと賢くないサイコパス、犯罪とは無縁の人のデータを集め、比較することに成功した。ストレスに対する皮膚コンダクタンス反応では、賢くないサイコパスは予想の通り、発汗のない低い値しか示さなかった。

だが賢いサイコパスは犯罪とは無縁なグループと同様に、ストレスによって発汗率が上昇した。すなわち彼らは普通の人と同じ自律神経系の素早い反応を持っていた。

次にレインは計画、注意、認知の柔軟性など実行機能を測定してみた。これは経営者として成功するために必須の能力で、賢くないサイコパスは犯罪とは無縁なグループに比べてこの能力が著しく劣っていた。だが、賢いサイコパスは賢くないサイコパスはもちろん、犯罪とは無縁な一般の人をも上回る実行能力を持っていたのだ。

サイコパス1



心拍数の低さ

では、なぜそういった能力を持ち合わせながらも賢いサイコパスは犯罪の道を選んだのだろうか?

原因として考えられることは2つあり、ひとつは賢いサイコパスは養子に出されたり孤児院などの施設で育てられたケースが多かったことが挙げられる。これにより、実の両親からの親密な社会関係を形成する機会を逃したのだろう。

そしてもうひとつは心拍数の低さだ。

賢いサイコパスの安静時心拍数は賢くないサイコパスと同様に明らかに低かった。が、大きな違いはストレスを与えられると犯罪とは無縁なグループと同じ値まで一気に心拍数が上がることだ。

この刺激を快感として、賢いサイコパスは心拍数を急上昇させるような体験を何度も求めるだろう。

サイコパス2


サイコパスの定義

つまりこれらのことからのサイコパスの実質的な定義とは、「心拍数の低い者」である。これは、不快な心拍数の低さを非行や犯罪行為などにより高めて補おうといった反応からくるものだと考えられる。

そしてサイコパスの中にも2種類の者があり、警察に捕まらない賢いサイコパス、つまり身近な表現に変えると、‟悪いことをしているのになぜか先生や周りにばれないヤツ”だ。この賢いサイコパスは、一般人と同様の発汗量であると共に、刺激に対して心拍数が急上昇する者だと言える。

これが快感となり、何度もその行為を繰り返してしまう。そして繰り返すためには知恵が必要であり、その刺激を楽しむために知恵をつけるのであろう。



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参考文献

「言ってはいけない 残酷すぎる真実」新潮新書(2016) 著 橘玲


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