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私の好きな変な音楽


けっこう音楽が好きなのです。

私はジャパニーズハードコアの英才教育を受けつつブルースの偉大さを説かれクリームを練習しながらパンプオブチキンに心酔し、スパルタローカルズと親交を深めビートルズの洗礼を受けフィッシュマンズに私淑し、ベルベットアンダーグラウンドだけを信じベクトロイドに開眼しピーズとつるみながらリトルビーバーでむせび泣きモートガーソンで落ち着きを取り戻した後坂本慎太郎の新譜を予約しにいったついでに大瀧詠一の新譜を初回限定版で購入しモートンフェルドマンを聴きながら帰宅する、といった全くもって落ち着きのない音楽遍歴を辿っておりますが、要するに私は音楽が非常に好きなのでございます。

簡易に申し上げればパンクとドゥーワップとミニマルミュージック、ブルースとロックステディとミュージックコンクレート、インディーロックと甘茶ソウルとフリージャズをとりわけ愛好しております。しかしながらロックであるとかパンクであるとかジャズであるとかの区分はさして必要としておらず、耳に合う音はすべからく良いものなのだという明朗会計スタイルでやらせてもらっております。そのため先程挙げなかったたとえばメタルにもアンビエントにもクラシックも民族音楽界にも素晴らしい選手が控えており、其々が虎視眈々とレギュラーの座を狙っているという非常にエネルギッシュなプレイリスト団となっております。私もまたメンバーのスカウトに熱心に取り組み、常にアップデートを欠かさず、ゆくゆくは世界大会で優勝したいと思っています。そんな志の元活動していますゆえ、まことにノーミュージックノーライフのフィーリングでございます候。

とはいえ、こうして音楽遍歴を辿ってみると、私はどうやらアヴァンギャルドとでも分類される、変な音楽を好むようです。

それはなぜかと考えるに、先ほど申し上げた私の熱心な音楽行脚に原因があると思われます。私はまことに節操なく新たな音楽を求めてしまうのですが、そうして雑多に音楽収集をしていきますと、ジャンルというものについて相応の知識を得ていくのです。ごく簡易に述べますとブルースたる3コード進行であったり、スカたる性急なビートであったり、あるいはメタルたる超絶技巧であったり、そのジャンルが持つ形式や傾向に慣れてくるとでも申しましょうか。すると起こってくるのが倦怠感でございまして、自らそのジャンルにすり寄ったにも関わらず飽きたと喚く誠に我儘な幼女のような稚拙さを恥じるばかりですが、詩や、声や、演奏や、あるいはスタンスや、何某かの突出した個性を求めてしまい、その個性は次第に特殊へと変容し、気がつけば同年代の働き盛りのアミーゴたちにとっては芥同然の変な音楽ばかりを蒐集してにやにやしているので気持ちが悪いと思いました。

このような自己分析を始めたのは友達が一人もいなくて暇だったからでございますが、思えば私は自分の音楽趣味について満足に話せたことがありませんでした。無論、趣味の合う人はごまんといました。しかしかながらハードロックカフェのTシャツを着たおじさんとモーターヘッドの話でハイネケンを飲むことはできても、ウイスキーを注文してオーネットコールマンの話を始めた途端に瓶で頭をでかち割られてしまうことが屡々でありました。大体において音楽の話題は1ジャンル一辺倒になり、もう病院に送られたくない私はえへらえへらとお追従笑いをするばかりで、それはそれでムカつくとメロコアの連中に袋叩きに合った私を救ってくれたのは菜食主義のハードコアの方々でした。それから私は生粋のストレートエッジとして勉学に励み、音楽の話題が持ち出されても、ロックンロール!とだけ言う手法にて惨事を回避できるようになりましたが、お家に帰ると不思議と涙がでてくるのでした。それはロックンロール!なんて言うような性格ではないのに明るくロックンロール!と言ってしまった羞恥が最たるものですが、本当は音楽の話をして盛り上がったり蘊蓄を垂れて得意な顔をしたりさらに新たな音楽を知ったりしたかったのに臆病風に吹かれてロックンロール!と空回りしてしまう自分が情けなかったからです。

よし私は音楽の鬼になろう。ターンテーブルを回す鬼。右手は赤で左は青。いや左はアカか。と私は笑顔いっぱいの向日葵ジョークにハッピーな笑みを浮かべましたが、3秒後に真顔になりました。我利我利に音楽談義を行おうと一大決心したはいいものの、そもそも私はそれを叶えることができる相手が一人もいないのでした。いくらなんでも赤の他人に赤痢がさぁなどと言ってしまえばそれこそ頭を瓶でかち割られれるでしょうし、よしんば友達を作ることかできたとて、経験則的に考えれば大多数の人が有無も言わさず私の頭を瓶でかち割るはずですし、それに耐え喋り続けたとしても相手は興奮して話なんて聞いていないでしょうし、次第に不気味に思われるでしょうし、人によっては本当の鬼だと勘違いされるかもしれません。そこを乗り越えればついに真の友情が芽生えてもきそうですが、流血しているわけですからその頃には十中八九死んでしまうでしょう。たかだか音楽談義に生死をかける意味はあるのでしょうか。私は甚だ疑問に思います。まずはこの問題を解決すべきだと判断した私はアイフォーンのメモ帳アプリを開き、音楽と生命というテーマで厳格であり幽玄であり秀麗である論文を拵えいつもの癖でコピーしてnoteに貼り付けてア、ノートと太宰治みたいに言って論文を反故いたしました。

きっと、繋がる。をキャッチコピーとしているかもしれない、読まれたり読まれなかったり閲覧交通の激しきnoteほど、甘えん坊な独り言を書きつけるに相応しい場所はないでしょう。しかしながら結局のところ私のセンチメンタリズムを満たすためにはお乳をだけではなくアミーゴとの邂逅を必須とするはずなので、瓶打せぬ清き紳士淑女の注意を惹かねばなりません。ですからここで気張って嗚呼思ひ出のUKロックなどという論文を書いている場合では到底なく、また私はロックンロール!とだけ言うキャラ芸人の類と成り下がってしまったわけですからそう簡単にフレンド候補に選出されるわけがなく、たいていの場合はこれまでと同じように瓶打でしょう。であるからして、私は出来うる限り暴力行為以上に興味深く刺激的なトピックをここに提示する必要があるとこのように考えました。それに相応しいトピックはと頭を捻るに、私の愛好するアミーゴアモーレに忌み嫌われたるところの変な音楽が適しているのではないのかと思われたのはこれほとんど皮肉でございます。しかしながら鬼の心はまだ消えておりません。情報過多のこの時代ではありますが故に容量が広がり刺激的な情報に飢えているのが現代人の常、スマートフォン片手にフリックウィキペディアを決め込み単位を取得するユビキタス社会の真っ只中に私は、思いもよらぬ音像を提案しご機嫌をお伺いし、未来のベストフレンドとのフレンチキッスをこの唇に呼び寄せたいのです。


The Shaggs /Philosophy of the World

ガレージロック好きにはおなじみの変な音楽です。またはニルヴァーナのファンの方ならばどこかで覚えがあるかもしれませんね。娘に楽器を持たせて一攫千金を狙ったはいいが誰も音楽の基本がないゆえに滅茶苦茶になってしまったようです。であるからこそ無垢でいて、これまさか本物じゃないのかと錯覚してしまいます。いつ聞いても絶妙なヘタさ。ヘタウマじゃなくてヘタなんです。


角谷美千/腐っていくテレパシーズ

中島らもの友達です。というだけでいかにも変そうですが、分裂症に悩まされながら生きた人で、その苦悩がまま表現されているような音楽だと思います。宅録ロックではあるのですが、執拗なディレイで原型がわからなくなるほどに崩れていく音像は、なかなかもって切迫したものがありつつもコミカルな部分もあり、聴きごたえは抜群。再販を強く希望する一枚です。



US Golf 95/Swing Tournament

ヴェイパーウェイブを漁っていた時に偶然辿り着いた音楽となります。架空のコンピューターゲームのBGMということでモチーフについては不自然なことはないのですが、あまりにも見事にBGMとして振る舞っていて、そこが何だか笑えるし、ゲームしかすることがなかったいつかの休日が目の前に現れて虚しくもなる、不思議な魅力のつまった変な音楽です。


Trevor Wishart / Imago

ミュージックコンクレート方面からアクセスした音楽です。ぱっとヒットする情報が少なく詳細はわかりませんが、電子音楽界の鬼才とのことです。と知ってなるほどなと頷くしかない異質な音像です。パンク的な感触が強くありますから逆に聴きやすいかもしれませんね。この混沌に快感を覚えてしまったが最後、アヴァンギャルド行脚が始まること請け合いです。


Jon Appleton & Don Cherry/Human Music

実験ジャズ、で合っているのでしょうか。どこまで決めていたのかは知りませんが、ドンチェリーも不思議な人ですし、なのにどこか手探りな感じも見受けられてその呼吸がまた面白い。タッグという意味で去年ほどに発売されたファラオサンダースとフローティングポイントの新譜を思い浮かべますがそちらに対してこちらはより原始的。何かの映画で流れていた気がするのですが勘違いかもしれません。

というわけで5枚ほど紹介いたしましたが、いかがでしたでしょうか。一口に変と言っても様々な観点からの変がありますから、どれをご紹介しようか迷いましたが、明らかに日常的に流れている音楽とは違った印象のものを並べられたのではないでしょうか。音楽に詳しい方ではまるで新鮮味のないラインナップかもしれませんが、それならそれで私の学習に協力いただきたいなという気持ちもございます。と、突然まともな論調になってしまって非常に恥ずかしい限りですが、上記のようなものを聞いて一人でにんまりしている自分の客観視よりよっぽど可愛げがあるので、大いなる脱皮として胸に刻みましょう。ふいに、思い立ち、音楽のことを書き、饒舌になり、と色々あったけれど私は元気です。またふいに、思い立ち、音楽のことを書き、饒舌になり、と色々あったけれど私は元気になるかもしれませんが、その時はまた付き合ってくださりますと大変嬉しく存じ上げ奉り候とのことです。

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