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北谷馨の質問知恵袋 「真正な登記名義の回復」に関する質問

今回は、「真正な登記名義の回復」に関する質問です。

Q:誤った所有権移転登記がされている場合、「真正な登記名義の回復」による移転登記と、所有権抹消はどう使い分けるのでしょうか?

まず前提として「基本中の基本」の話ですが、以外と曖昧な方も多いので確認しておきます。

「所有権移転登記」がされると、所有権に設定されている様々な権利の登記(抵当権設定登記や地上権設定登記等)は、そのまま残った状態で所有権が移転されます。

① 甲区2 所有権移転 A
② 甲区3 所有権移転 B
③ 乙区1 1番抵当権設定 X

上記の登記がされた後に(①~③は登記をした順序)、BからCに所有権移転登記がされると、乙区1番の抵当権はそのままに、甲区4番でC名義の所有権移転登記が入ります。

「移転」というのは、前の所有者が持っているものがそのまま移転してくるわけですから、負担も一緒に移転します。抵当権設定登記がされた土地を買ったらそれは抵当権付きの土地になります。所有権移転登記をしても抵当権は消えません。
これはつまり、「所有権移転登記を申請する際に抵当権者の承諾は不要」ということになります。所有権移転登記をしても抵当権は消えないわけですから、抵当権者に不利益がないからです。
更に言葉を変えると、「抵当権者の承諾がなくても所有権移転登記は可能」ということになります。

これを前提に、上記の

① 甲区2 所有権移転 A
② 甲区3 所有権移転 B
③ 乙区1 1番抵当権設定 X

という登記記録があったとして、「実はAからBへの所有権移転は無効なので、甲区3番の所有権を抹消したい」ということになったとします。

先ほどの所有権移転登記と異なり、甲区3番の所有権移転を抹消すると、乙区1番の抵当権設定登記も(職権で)抹消されてしまいます。
AからBへの所有権移転登記を抹消するということは、「AからBへの所有権移転は無かった」ということになります。そうすると、「Bが設定した抵当権も無かった」ということになります。

例えば、タイムマシンで過去に戻って、私の両親の出会いを妨害してしまうと、私は生まれることができなくなってしまいます。「あれが無かったことになるとこれも無かったことになるよね」という話です。それでは困りますので、私の両親の出会いを妨害するのであれば私の承諾が必要になります。「両親の問題だからお前は関係ないだろ」と言われても、利害関係が大有りなのです。
それと同じように、AからBへの所有権移転登記を抹消すると、抵当権設定もできなかったという話になり、乙区1番のXの抵当権は消えてしまいます。よって、所有権移転を抹消する際に、Xの承諾書を添付しなければならないのです。「ABの問題だからXは黙ってて」とはいかないのです。

Xが承諾してくれるのであれば、所有権移転登記を抹消できますが、承諾を得られない場合は抹消ができません。そうすると抹消登記によってA名義に戻すことはできなくなります。
そこで、Xの承諾なくA名義にするための方法として「BからAへの所有権移転登記」をすることができます。所有権移転登記であればXの抵当権は付いたまま移転するので、Xの承諾なく登記をすることができます。その移転登記をする際の原因が「真正な登記名義の回復」になります。

なおXが任意に承諾してくれない場合、Xに承諾義務があるかどうかは実体上の問題になります。
AからBへの所有権移転登記が全くデタラメな登記だったのであれば、原則としてXも抵当権を取得することはできないので、Xには承諾義務があります。
一方、AからBへの所有権移転が「AB間の通謀虚偽表示」だったのであれば、善意のXには無効を主張することができないので、Xは有効に抵当権を取得することができます。この場合はXには承諾義務はありません。

まとめると、

・所有権移転登記を抹消したい。
利害関係人がいない → 抹消登記
利害関係人の承諾が得られている → 抹消登記 
利害関係人の承諾が得られない → 真正な登記名義の回復による移転登記

となります。

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