補助者Iから見る受験知識と実務 ~原本還付編~
こんにちは。伊藤塾出身の合格者で、現在都内の司法書士法人で補助者をしているIと申します。新しい環境に順応するのに時間がかかる自分の性格と、基礎から少しずつ実務を学びたいという思いから、合格後すぐに登録はせずに補助者経験を積ませてくれる事務所を探しました。
本コラムでは、おっかなびっくり実務の世界に足を踏み入れた私の、実務初心者としての驚きや発見を共有させていただきたいと思います。
勤務初日に役立った受験知識
勤務初日のことは緊張であまり覚えていませんが、雑務も含めて大量に色々なことを教えていただく中で『あ、これ知ってる。』と思えてちょっと嬉しかったのが、今回のテーマである「原本還付」の知識です。受験では択一プロパーの知識ですし、個人的に細かくてややこしくてあまり好みの分野ではありませんでしたが、実務では即効で役立つ知識だと実感しました。
多くの事務所がそうだと思いますが、私が勤務する事務所も申請はオンライン、添付書類は別送のいわゆる「半ライン申請」の形式で登記の申請を行なっています。それで、申請用ソフトで申請書を送信した後、添付書類一式を揃えて法務局に郵送しています。勤務初日にこの添付書類をそろえ必要な書類に原本還付請求のための処理を行う仕方を教えてもらいました。
どの書類が原本還付請求できてどの書類が原本還付請求できないのか…というのは、実務では呼吸するのと同じくらい自然に行なわれている判断で、資格の有無にかかわらず補助者業務にも必須のスキルです。原本還付すべき書類につき原本還付の請求処理が漏れてしまうと、顧客から預かった契約書や戸籍などの大切な書類が戻ってこなくて顧客に返却できない…というけっこうまずいことになる場合があるので、注意深く行なう必要があります。
原本還付請求の処理方法
実際の方法としては、申請1件分の添付書類一式をホチキスで綴じ、原本還付請求をする書類についてはそのコピーをとり、コピーに「原本と相違ありません」と記載(弊所ではスタンプで対応)し、コピーが複数枚ある場合には割り印をします。還付してほしい原本は、別のファイルにまとめた上で提出することになります。
相続登記の場合には、相続関係説明図を作成して提出することで戸籍一式のコピーの提出に代替できるという通達(令和5年第26問アで出題されました!)も、実務で大変重宝されている通達なのだとあらためて実感しました。大量の戸籍のコピーをとってすべてに原本還付請求のための割り印を押すことはとても面倒だからです。
実務の基本、だからこそ油断できない
当たり前のように正確な判断と処理が求められる原本還付ですが、あまり要領の良くない私は、実務経験数か月で既にかなりのバリエーションのミスをやらかしています。恥ずかしい話ですが幾つかご紹介します。
●コピーの入れ忘れ
法務局によって対応が違うところもあり、あちらでコピーをとってくれるという大変ご親切な対応をしてくださったケースもありましたが、たいていはコピーの追送を求められます。コピーの追送といっても、原本は既に法務局に送ってしまっているわけですからあらためて自分でコピーをとることはできません。原本のコピーやスキャン画像をあらかじめ保管しておけば対応できますが、そうでない場合には法務局まで行って一度書類を預からせてもらう対応が必要となる場合もあるようです。
●コピーに「原本と相違ありません」のスタンプを押し忘れ、又は割り印の押し忘れ
こちらも、きちんと原本還付請求の処理をしたコピーの追送を求められます。
●コピーだけ付けて原本を入れ忘れ
これは原本を追送すればOKでした。
●原本に割り印を押した
急いで作業していたら勢いあまって押してしまいました。幸い、押してしまったのは委任状で法務局に出し切りの書類であり、顧客に返却する書類ではなかったので、大きな問題にはならずに済みました。
こんな感じで冷や汗をかきながら、注意すべきポイントを学んでいます。
「ミスを減らす」ことの大切さは受験対策でも繰り返し強調されます。受験生時代、特にこの直前期に磨きをかけるこうした危機管理能力は、実務で正確に業務を遂行するためにも必ず役に立つものだと感じます。「当たり前のことを、当たり前に正確に。」簡単なようで難しいこのスキルを、私も磨いていきたいと思います。