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【択一式】株式に関する登記(髙橋講師)

みなさん、こんにちは。伊藤塾司法書士試験科講師の髙橋智宏です。

今回の問題 ~株式に関する登記~

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【1】第1問の解説 ~種類株式発行会社への移行~

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 種類株式発行会社でない株式会社が新たに別の種類の株式の内容を定める定款の変更をした場合には,当該株式会社は種類株式発行会社となる(会2条13号)。この場合には,発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容に関する登記を申請しなければならない(会915条1項,911条3項7号)。

当該登記の申請書には,登記すべき事項として,新たに定めた種類の株式の内容だけを記載しても足りず,従前から登記されていた発行する全部の株式の内容を含め,すべての種類の株式の内容を記載しなければならない(ハンドブックp250)。

〔趣旨〕単一株式発行会社と種類株式発行会社は,登記記録上,下記のように区別され,「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」が一つの単位となるからである。

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【2】第2問の解説 ~譲渡制限に関する規定の設定の登記~

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株式の譲渡制限に関する規定を設定する定款変更の決議後,その効力発生日までの間に募集株式の発行がされた場合,株式の譲渡制限に関する規定の設定による変更の登記を申請することはできない【図1】(昭51.3.18民四2157号回答)。  

なお,株式の譲渡制限に関する規定を設定する決議後,募集株式の発行の募集事項の決定を行い,株式の譲渡制限に関する規定の設定の効力が生じた後に,募集株式の発行の効力が生じた場合,募集株式の引受人に株式の譲渡制限に関する規定について通知がされていない限り,募集株式の発行による変更の登記を申請することはできない【図2】(ハンドブックp243)。

〔趣旨〕株式の譲渡制限に関する規定を設定する定款変更の決議後,その効力発生前の日付を払込期日(期間の末日)とする募集株式の発行を認めると,募集株式の引受人は,譲渡制限に関する規定のない株式だと思って出資したにも関わらず,株主になってすぐに株式の譲渡が制限されてしまうことになる。このように,株式の引受人に不測の損害を与えるおそれがあるため,この場合は株式の譲渡制限に関する規定の設定による変更の登記を申請することはできない。

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【3】第3問の解説 ~募集株式の発行の登記(有利発行)~

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公開会社は,株主に株式の割当てを受ける権利を与えずに募集株式の発行をする場合には,取締役会の決議によって募集事項を定めなければならない(会201条1項前段,199条1項,2項)。しかし,有利発行の場合には,①株主総会の特別決議又は②株主総会の特別決議による委任に基づく取締役会の決議によって募集事項を定めなければならない(会200条1項前段,199条1項)。

ただし,②の委任の特別決議を経ずに取締役会の決議によって有利発行の募集株式の発行をした場合であっても,募集株式の発行による変更の登記の申請書には,募集事項の決定を取締役会に委任した株主総会の特別決議に係る議事録を添付する必要はない(昭30.6.25民甲1333号通達,ハンドブックp291)。

〔よくある質問 ~有利発行なのに株主総会議事録が不要なのか~〕
Q.  上記の問題で,有利発行であるにもかかわらず,株主総会議事録を添付しなくてもよいのでしょうか。
A.  公開会社であれば,募集株式の発行において次の決議が必要となります。「①本来なら取締役会決議」,「②有利発行なら株主総会決議」,「③有利発行でも株主総会で委任があれば取締役会決議」。しかし,有利発行かどうかを登記官が判断するのは困難であるため,③でも,原則の添付書面である取締役会議事録を添付すれば登記は受理されるのです。すなわち,原則・例外の形でまとめると,「①原則:取締役会決議」「②例外:有利発行なら株主総会決議」「③再例外:株主総会で委任をすれば取締役会決議」となりますが,原則としての取締役会決議なのか,再例外としての取締役会決議なのかを問わず,取締役会議事録だけで足りるということです。まとめると,「①なら取締役会議事録」「②なら株主総会議事録」「③なら取締役会議事録」を添付することになります。有利発行であっても,③のパターンなら取締役会議事録で足りるので,上記の問題において「株主総会議事録を添付しなければならない」と言い切るのは誤りになります。

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