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通説化した「株主総会による代表取締役の予選」

直前期は,出題予想論点を軸に大胆に学習対象を絞りこみ,精度の高い知識を確保するのが理想となります。

この場合の出題予想は,登記の専門雑誌や新聞などの公表されている情報から社会,経済,実務の動向を把握し,過去問から分析・把握した出題の手口がどのように変化するのかを想像して行うことになります。

出題の予想に使う登記の専門雑誌として日本司法書士会連合会(以下「連合会」)が発行している「月報司法書士」(以下「月報」)を挙げることができます。月報は,広報部門の月報委員会が編集している司法書士に向けて「業界誌」であり,司法書士が問題意識をもつべき事項を取り上げる特集の他,講座,法制審議会の部会だより,研修情報など盛りだくさんの内容となっています。

受験生にとって月報は,連合会のHPからバックナンバーの主要記事を無料で読むことができる(日本司法書士会連合会 | 月報司法書士)点に利用価値があります。目次を見るだけでも今後実務で何が問題となろうとしているのかの空気を感じることできますし,モチベーションの維持にも役立ちます。

月報の中でも注目すべき記事は,「付箋」です。これは,不動産登記については連合会の不動産登記法改正等対策部が,商業登記については商業登記・企業法務対策部が,実務で問題となりそうな内容で,かつ司法書士に広く周知させなければならない登記を取り上げ,これに解説を加えたものです。そのため,記事内容は実務の通説を示すものとして信頼性が高く,実務の基本を問う司法書士試験の素材となってもおかしくない記事が解説付きで読めるメリットがあるからです。

2022(令和4)年8月号には,「取締役会設置会社における代表取締役交替の手続」が取り上げられています。これは,いわゆる代表取締役の予選についての記事です。

代表取締役の選定は,決議時点で取締役の地位を有する者から選定しなければ会社法362条3項の立法趣旨に反し無効となります(鳥丸忠彦・商事法務1296P42)。この論点は,記述の瑕疵論点として既に4度も出題されている頻出論点です。平成8年,平14年,平成28年は,取締役の選任決議が期限付でされているため,未だ取締役でない者の選定として無効となる出題,平成20年は,取締役の就任承諾を留保している間の選定として無効となる出題となっています。

取締役会設置会社でも,定款で代表取締役を株主総会で選定できる旨の定めができ(最判平29.2.21),これを前提として9月30日(24時)に辞任する取締役兼代表取締役Xの後任として,例えば9月20日の株主総会で10月1日付けでYを取締役に予選し,予選が効力を生ずることを条件として後任代表取締役としてYを予選した場合,選定機関が取締役会の場合と異なり,適法に予選できるかが問題となります。

予選機関が取締役会ではなく,株主総会であれば取締役の中から代表取締役を選定するという会社法362条3項のその他法令・定款や株式会社の本質に反するものとはいえないという有力説(塚本英巨・商事法務2211P119)があり,それにより代表取締役Yの予選を適法なものと解することができるとしています。ちなみに,塚本弁護士は,2010年11月から2013年12月まで平成26年会社法改正の企画・立案担当として務省民事局勤務経験がある実務家です。

この記事は,連合会が上記の有力説を,月報という広報手段をとおして周知させようというのですから,事実上,有力説を「通説」として公認したと言えるものとなっています。

記述過去問における代表取締役の予選の瑕疵論点の出題頻度を踏まえれば,通説として公認された上記の代表取締役予選の手法の出題可能性は高いと言うべきであり,予選ができない場合を含めて,代表取締役の選定まわりの学習に力を入れるべきことになります。

伊藤塾司法書士試験科 講師 蛭町浩

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