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相続登記,名変登記の義務化と職権主義

令和3年2月11日,現在開催中の通常国会で改正法を成立させ,2023年の施行を目指す,法制審議会の民法・不動産登記法改正案が法務大臣に答申された。

改正の切っ掛けは,2011年の東日本大震災後の復興事業で高台移転の用地買収が困難を極めたことにあり,登記簿上から所有者が分からず,分かったとしても連絡がとれない「所有者不明土地」について,⑴その発生を予防し,⑵既に発生している土地を円滑・適正に利用するための改正を図るものである。

法務省によれば,所有者不明土地が発生する原因の66%は相続登記の,34%が住所変更登記の懈怠とされるため(日本経済新聞),不動産の所有権登記名義人が死亡し,相続・遺贈で所有権を取得した者は,取得を知った日から3年以内に所有権移転の登記を申請しなければ10万円以下の過料に,所有権登記名義人の氏名(名称)又は住所に変更があったときはその日から2年以内に変更登記を申請しなければ5万以下の過料に処することとし,公法上の申請義務が課せられることになる(この義務の源泉は,改正された土地基本法の「所有者等の責務」としての登記等権利関係の明確化)

我が国の不動産登記制度は,1886(明治19)年の登記法から,1899(明治32)年に民法改正に連動して制定された旧不動産登記法,2005(平成17)年に全面改正形式で制定された現行不動産登記法へと変遷してきているが,権利の登記について申請義務を導入するのは制度上,初めてである。

商業登記の申請義務や一度も発動されたことがない表示登記の申請義務の実態を考えれば,申請義務の実効性には期待が持てないことになるはずであるが,申請の義務化に連動し,登記官が住民基本台帳ネットワークシステム又は商業・法人登記のシステムから所有権登記名義人の相続の発生や氏名(名称)、住所について変更情報を取得し職権で変更登記ができる旨の改正も予定されている(自然人は申出ある場合のみ)。これは,権利に関する登記について,ある種の「職権主義」の導入であり,これも制度上,初めての試みとなる。

その他,相続人に対する遺贈登記の単独申請化,令和2年の記述でも問われた共同相続登記後に相続放棄,遺産分割,特定財産承継遺言,相続人への遺贈が判明した場合の更正登記の単独申請化など登記手続の簡略化,登記義務者の所在が知れない場合の法70条1項及び2項の特則として,地上権,永小作権,質権,賃借権,採石権,買戻権の期間が満了している場合の単独申請など,受験生にも興味が湧く内容も含まれている。

ここのところ,民法債権法,相続法,会社法と大規模な改正が相次いでおり,受験生にとっては食傷気味な話題であろうが,発想を変えれば,法改正こそが新人にとって大きなチャンスとなっているのであり,皆さんの夢を開く扉となることを忘れないで頂きたいものである。

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