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理解と暗記の配分~直前期編~

「どこまで理屈を踏まえ理解にこだわって学習するか,あるいは結論を押さえるのみの暗記で詰め込むか」というのは,学習効率に大きく影響する事柄であり,特に時間のない直前期において,この配分をどうするか,というのは意識して取り組む必要があります。

そこで今回は,直前期学習の悩みどころである「理解と暗記の配分」についてお話ししていきます。

※  当コラムにおいて,「理解」とは,理屈(制度趣旨)を踏まえた学習を意味し,「暗記」とは,結論を押さえるだけの学習を指すものとします。

【1】 総 論

学習経験者(受験経験者)にとって,(例年の)1年間の学習期間は,7月以降の年内の「実力養成期」,年明けの1月~3月の「実戦力養成期」,4月~6月の「直前期」に分かれます。この時期に応じて理解と暗記の配分の目安を示すと,以下の通りです。

① 7月~年内「実力養成期」 ➡「理解:7,暗記:3」
② 1月~3月「実戦力養成期」➡「理解:5,暗記:5」
③ 4月~6月「直前期」 ➡「理解:3,暗記:7」

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【2】 直前期における配分

上記の通り,直前期における理解と暗記の配分の目安は、「理解:3,暗記:7」です。直前期は本試験に近い時期であるため,理解を伴わない単純暗記による短期記憶であっても,本試験において解答することができます。そのため,暗記の配分が高めとなっているのです(他の時期では,その時期に短期記憶の知識を吸収したところで,本試験まで記憶が持続しないため,むしろ理解をした上での長期記憶とすることに重点を置きます)。

もっとも,「暗記:10」まで傾けた極端な配分としてしまうと、単純記憶で頭に詰め込める知識量に限界があるため、かえって非効率となりやすいでしょう。そのため、「理解:3」程度を目安として、制度趣旨を踏まえた学習も引き続き行う必要があります。

具体的には、制度趣旨がこれまでの学習で理解できている、あるいは新たに吸収する知識でも、制度趣旨がすんなり分かる場合には、制度趣旨を踏まえた上で結論を押さえる「理解」としての学習を行い、これに当たらない知識(立ち止まらないと理屈が分からない知識)は即座に結論のみを押さえる「暗記」としての学習を行うようにするとよいでしょう。仮に制度趣旨が分からなかったとしても、割り切って結論だけ暗記で押さえるのがポイントです。

【3】 民法は思考を止めない

民法の点数がなかなか伸びない方に共通してみられる傾向が、「知識の詰込みに頼りがち(暗記偏重)」というものです。すなわち、民法では知識問題であっても、過去問とは違った角度から知識を問う、法的思考力を試すようなひねった問題が出題されやすいため、直前期だからといって知識の詰込みに頼って暗記偏重になっていると、このような問題に対応しづらくなるのです。

このような法的思考力を問う問題に対応するためには、直前期とはいえ制度趣旨を意識した学習を継続し、法的思考力を衰えないようにする必要があります。すなわち、「民法は思考を止めない」ことが非常に大切です。

それでは、制度趣旨を意識した学習が、本試験の現場においてどのように役立つのか、過去の本試験問題を例にとって見ていきましょう。

【平成27年第13問ア】
動産質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保し、設定行為においてこれと異なる別段の定めをすることはできない。≪×≫

そもそも、質権の被担保債権の範囲を定めた民法346条は、当事者の意思を推測して、どの程度まで被担保債権の範囲を担保するのかを定めた規定であるため、任意規定であり、これと異なる別段の定めがされても別に問題ないことが分かります(そのため、下記の条文でも「別段の定めがあるときは、この限りでない」とされています)。

【参考条文 民法346条】 質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。

〔参考過去問 平成24年第12問ウ〕
動産質権は、設定行為に別段の定めがあるときを除き、質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償をも担保する。≪○≫

この問題では、「質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償をも担保する」といった民法346条「本文」の方に重点を置いて問われていますが、上記の平成27年第13問アの問題においては、民法346条「但書」の方に重点を置いて問われており、それぞれ問われ方の角度が異なる問題と捉えることができます。

上記の問題は「単に条文の文言を正確に押さえておけば解ける問題」とも捉えることができます。実際、知識として押さえて置いた方が確実ですし、理想的なのでしょうが、全ての知識についてかなり細かいところまで「知識」として押さえるのは現実的に困難ですし、きりがありません。したがって、制度趣旨に立ち返って現場思考で対応する方針の方が得策だと私は考えます。

ですから、これからの直前期においても、特に、民法の学習においては、制度趣旨(すなわち「なぜ?」)を意識した上での知識の確認を行うことをお勧めします。もちろん、これに時間を取られて直前期の学習のペースが遅くなるのは良くないので、あくまで意識をする程度で大丈夫です。


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