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特別講義編「少額訴訟債権執行」

みなさん,こんにちは。伊藤塾講師の髙橋智宏です。

今回は特別講義編として,「民事執行法:少額訴訟債権執行」を取り扱います。

【1】 意 義

少額訴訟債権執行とは,簡易・迅速な手続をとる少額訴訟手続に見合った,簡易・迅速な債権執行の制度として設けられた制度であり,少額訴訟の判決等の債務名義に基づく金銭債権に対する強制執行を,簡易裁判所で行うことができるようにしたものである。

〔補足〕少額訴訟債権執行による執行対象は,金銭債権に限られる(167条の2第1項)。

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【2】 申立て

少額訴訟債権執行の申立ては,少額訴訟に係る債務名義が成立した簡易裁判所の裁判所書記官に対して行う(167条の2第3項)。

〔趣旨〕少額訴訟が行われた簡易裁判所において債権執行をできるようにすることで,迅速な権利実現を図る趣旨である。

【3】 執行機関

執行機関は,通常の執行機関のほか,申立てにより少額訴訟に係る債務名義が成立した簡易裁判所の裁判所書記官及びその書記官の所属する簡易裁判所である(167条の2第1項,167条の3)。当該裁判所書記官は,通常の債権執行手続における差押命令に相当する差押処分を行い,配当要求及び弁済金の交付の手続を担当する(167条の2第2項,167条の9,167条の11第3項)。

〔補足〕少額訴訟債権執行の不許を求める第三者異議の訴えの管轄裁判所は,困難な判断を要する事例が想定されることから,執行裁判所たる簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所とされている(167条の7)。

【4】 換価手続の方法

差押債権者の金銭債権は,通常の債権執行の手続と同様の方法で,差押債権者自らが被差押債権を取り立てることができる(167条の14・155条)。

これに対して,通常の債権執行の手続で認められている換価のための転付命令・譲渡命令・売却命令・管理命令・その他相当な方法による換価を命ずる命令(転付命令等)は認められない(167条の10第1項参照)。これらは,発令の要件について困難な判断を要することがあることから,簡易・迅速な手続により権利実現を図るための制度である少額訴訟債権執行の趣旨に沿わなくなるからである。

そこで,転付命令等を求めようとするときは,執行裁判所に対して,地方裁判所の債権執行手続への移行を求める旨の申立てをしなければならない(167条の10)。

【5】 第三債務者の供託があった場合の配当手続

差押処分がされ,その差押えに係る金銭債権について配当要求があり,第三債務者が供託をした場合において,債権者が2人以上であって,供託金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができないため配当を実施すべきときは,執行裁判所は,“職権により”,その所在地を管轄する地方裁判所における債権執行の手続に事件を移行しなければならない(167条の11第1項)。

〔趣旨〕少額訴訟債権執行において配当手続のような複雑な手続を行うことは相当ではないからである。
〔補足〕一方,第三債務者が供託した場合に,債権者が1人であるとき,又は債権者が2人以上であって供託金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができるときは,裁判所書記官は,供託金の交付計算書を作成して,債権者に弁済金を交付し,剰余金を債務者に交付する(167条の11第3項)。

【6】 裁量による移行

執行裁判所は,差し押さえるべき金銭債権の内容その他の事情を考慮して相当と認めるときは,その所在地を管轄する地方裁判所における債権執行の手続に事件を移行させることができる(167条の12第1項)。

〔趣旨〕これは,申立ての内容によっては,必ずしも簡易・迅速に手続を行うことができるとは限らず,困難な判断や複雑な手続を必要とする事件である可能性もあるから,裁判所の裁量により事件を地方裁判所に移行させることを認めるものである。
〔補足〕この決定に対しては,不服を申し立てることができない(167条の12第2項)。

 今回の内容は以上です。最後に次の確認問題に取り組んでみてください!この記事がみなさんの学習のお役に立てば幸いです。

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