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昨日わたしは何も言えなかった
昨日の夕方、保育園にいる娘を迎えに自転車を走らせていたとき。
「返して!」
いつもの角を曲がると、目の前からそんな言葉が飛んできた。道路の真ん中に、ランドセルを背負った男の子が3人。おそらく5、6年生くらい。反射的にブレーキをかけた。
「返せ!」
そう言う男の子の目の前には、紺色の帽子を握る別の男の子が立っていた。
帽子を取り返そうとしているのだとすぐにわかった。後方にいる私からは彼の表情が見えなかったけれど、必死な声だった。
帽子を取り上げたらしいその男の子は、うっせ!(たぶん、そう言っていたと思う)と言いながら、帽子を取らせようとしない。
ふたりの横に立っていた3人目は、その様子を傍観していた。表情はよく見えなかった。
胸がざわざわと波打った。
私は、ほとんど睨みに近い目で、帽子を持っている男の子をじっと見つめた。
その子も私を見ていた。
こんなちんちくりんのスッピン野郎が睨んだところで、というかんじだけど、先程までの強気な態度が無くなったのは見て取れた。
「『返して』って、言ってるよ」
そんな言葉をかけるべきだったと後から思ったのだけど、そのときの私は何も言わずにまた前を向き、ペダルを漕ぎ始めた。
正直このときは何も考えていない、というか頭が回らなかった。体が勝手にそうしていた。
すこし道を進むとまた、あの子の
「返せよ!」
が聞こえた。また止まって振り返ると、帽子を取り上げた子がこちらに気付いて私の様子を伺っているようだった。帽子はまだその子が持っていた。
どうしよう。大丈夫かな、引き返した方がいいかな。
ひとりでボソボソ言いながら、結局、私は引き返さなかった。娘を迎えに行って、帰ってくるときにまだ続いていたら今度こそ言おう。そんなことを考えながら保育園への道を急いだ。
けれども昨日に限って娘は、公園に寄って遊びたいと言った。娘が遊んでいる間、落ち着かなかった。あの子は大丈夫だったろうか。
20分程遊んで再びあの道を通ったときには、彼らはもういなかった。
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すごく、後悔している。
何も言えなかったこと。
「『返して』って、言ってるよ」
それだけでもいいのに、言葉が、なにも出てこなかった。詰まるところ、他人事に捉えてしまったのだと思う。娘だったら真っ先に助けていたと思うから。情けない。
「これは、いじめ?」
あきらかに軽いおふざけではない彼らの雰囲気に、そんな考えが頭を過ぎったにもかかわらず、何も言えなかった。
ふた回りは離れているであろうあの男の子に、嫌悪感すら抱いた。だけどそれ以上に、何も言えなかった自分に嫌気が差した。
帽子を取られた男の子が、自分が困っているのに素通りした私を見て、「大人」に幻滅してしまったんじゃないかと不安になった。
「それは考えすぎじゃない?」
夫はそう言っていたけれど。
たしかに、たったひとりの行動で彼の中にある大人全般に対するイメージが決定づけられることはないだろうけど、たったひとりの行動でも、気にかけてもらった経験ができたら、安心に繋がっていたのではないかと思って。
そしてその安心感によって、今後いざというときに大人に対して少しでも「助けて」と言いやすくなるんじゃないかって。
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2019年度に文部科学省が発表したデータによると、全国の小中高校などでいじめを認知した学校は全体の82.6%と過去最多で、児童の自殺者数は317人だったとのことだ(参考)。
このうち、何人が周囲の大人に「助けて」と言えなかっただろうか。
残酷なことを言うけれど、いじめや嫌がらせが無くなることはないと思う。
だけど、子どもたちが少しでもSOSを出しやすい環境を作りたい。
昨日わたしは何も言えなかった。
あの子には、本当に申し訳ないことをした。
あの男の子のような子を見かけたら、すぐに声をかけられる私でありたい。
子どもたちに少しでも希望を持ってもらえるような「大人」でありたい。
という反省note。
タイトル画像は、「パパにおみやげ」と言って娘が公園で拾った葉っぱ。
最後までお読みいただきありがとうございました🙇♀️
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