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レポート | いとちかいぎvol.1 | あなたにとって、理想の「いとち」とは?

みなさんこんにちは! いとちの前野有咲ありさです。

私たち「いとち」は、医療と地域、「い」と「ち」の担い手によるコミュニティデザインプロジェクト。いわき市鹿島町にある「かしま病院」のスタッフや医師、地元住民やまちづくりのプレーヤーと一緒に、医療と地域のよりよい関係を目指してさまざまな取り組みを行っています。

このnoteでは、現場の先生たちへのインタビュー、地域医療・総合診療についてのさまざまな情報、イベントレポートなどを発信していきます。

今回お届けするのは、2022年6月29日(水)、いわき市鹿島町にあるコミュニティスペース「かしまホーム」で行われた、第1回「いとちかいぎ」のレポート記事です。

この「いとちかいぎ」は、医療と地域の関係性を見つめ直すことを目的に、さまざまな人たちが、お互いの考えを共有する、いわば「おしゃべり会」のようなイベントです。地域医療について、地域の歴史について、地域住民が抱えるお困りごとについてなど、「医療」と「地域」に関するさまざまなテーマをもとに話し合います。

第1回目となる今回は、4人のゲストからのプレゼンテーション・話題提供のあと、「医療と地域がつながるために必要なこと」をテーマに、コミュニケーションツール「えんたくん」を使ったワークショップを行いました。

この日集まったのは、行政職員や個人事業主、区長さんなど地域の多様なステークホルダーの皆さん。さらにそこに現役の医師、研修医、医学生、病院の事務職員なども加わり、総勢20名で、職業や肩書きを超えた熱い対話が繰り広げられました。その模様を、「いとちかいぎ」に参加した前野がレポートしていきます!


それぞれの視点で捉える「い」と「ち」

いとちの拠点「かしまホーム」

会場は、かしま病院から徒歩5分の場所にある「かしまホーム」。かつては有料老人ホームとして利用されていましたが、3年前から使われなくなり空き家になっていました。いとちプロジェクトでは、ここに医学生や地域のみなさんが交流できる拠点をつくろうと、リノベーションを進めています。

中之作に住む建築家の豊田さんにアドバイスをいただき、DIYで作った立て看板

午後1時。ぞくぞくと会場に参加者が集まり、いよいよ第1回いとちかいぎがスタート! まず、4人のゲストによるプレゼンが行われました。

いとちプロジェクト代表の江坂さんのプレゼンからスタート!

トップバッターは、いとちプロジェクト代表の江坂亮さん。普段は、かしま病院の事務部兼広報企画室に所属し、広報業務の傍ら、利用者のさまざまな相談対応など、病院のサービス向上に努めています。

江坂さんからは、ご自身のいとちプロジェクトに対する想い、これからいとちで取り組んでいきたいことを話していただきました。

現在鹿島町内に住んでいる江坂さんは、かしま病院の職員であり、地元住民でもあります。病院と地域が、お互いをもっと知ろうとする機会や場があったら。そう考えていたときに「いとちプロジェクト」の構想が浮かび上がってきました。

プロジェクトが始動してからは、自分にできるちょっとしたことから取り組んでいきたいと、仲間に声をかけ、かしまホームの花壇の植え替えや、地域住民と一緒にDIYワークショップを行ってきました。

いとちがくさびとなり、「医療」と「地域」の関わりしろを増やしていくために、「今後も地域のみなさんと交流するきっかけが生まれるようなアクションを続けていきたい」と話す江坂さん。

まさに「医療」と「地域」の両方に関わる江坂さんにとって、いとちは、自分のやりたかったことを実現させ、それが自分のよりよい暮らしにつながっていくプロジェクト。まさに「マイプロジェクト」であるのだと思いました。

「文枝ママ」という愛称で親しまれている文枝先生

次のプレゼンターは、かしま病院で総合診療を担当している中山文枝先生。医師として患者さんの日々の診察を行うだけでなく、研修医や医学生を受け入れ、人と地域をまるごと診る「総合診療」について実践的に学ぶ場を作り続けています。

文枝先生からは、新型コロナウイルスで浮き彫りになった病院と地域の課題、これから目指していきたい「地域医療」について話していただきました。

これまでも「地域によりそう医療」を大切にしてきたかしま病院ですが、コロナ禍では、これまで行ってきた医療サービスの根本を揺るがす事態に直面しました。人と人との距離が離れ、地域や患者さんに寄り添うことが難しくなってしまったのです。

さらに、人と人の距離が離れたことで、地域に暮らす高齢者が孤独を感じるようになり、うつが増加したといいます。大きな課題に直面した文枝先生は、以前にも増して医師が診察室を超えて地域の中に入っていくことが大切と考えるようになりました。そのモデルとなるのが「アンパンマン型地域医療」です。一言で言えば、等身大で地域住民に関わり、平和な時も地域を見守るアンパンマンのような医師になること。

医療の現場では、患者さんの背景に寄り添った診察を、地域の現場では、よりよい生活を送るアドバイスをしてくれる。そんな親しみやすい医師がいると、診察室では話せないちょっとしたお困りごとも気軽に話せるようになると私も思います。

行政の立場からみた医療と地域について、猪狩さんにお話しいただきました

3人目のプレゼンターは、いわき市地域医療課の猪狩僚さん。地域包括ケアの情報発信・企画を行う取り組み「igoku」を立ち上げるなど、行政の立場から医療・福祉に新たな風をもたらすアクションを起こしています。

猪狩さんからは、「igoku」がはじまった経緯や、活動を行う上で大切にしている考えについて話していただきました。

医療や介護が必要になっても、最期まで自分が望む場所で暮らせるよう、地域・医療・介護が連携して暮らしをサポートしていく。これが、地域包括ケアの考え方です。ですが、猪狩さんによれば、実際には、高齢者の7割が自宅で最期を迎えたいと考えているのに、その希望を叶えられた方は1割にも満たないのだそうです。

だからこそ猪狩さんは、日常と距離がある「老いや死」をテーマに、地域で活躍する福祉や医療の現場の人の声や高齢者の生き様を伝え、老いや死について考えるきっかけを届けたいと考え、igokuを企画しました。

猪狩さんが一貫して大切にしてきたのは「旗を立てる」ことだといいます。まず、社会全体にとって大事なことや方向性を示す。すると、その方向性に共感する人が集まり、チームができて、小さなアクションが生まれる。一人の天才ができることは限られるけれど、さまざまな分野で活動する人たちが集まることで、アイディアやアクションがどんどん広がるはずだと猪狩さんは語ります。

行政と民間が連携してプロジェクトに取り組む「官民連携」が、昨今まちづくりでも重要視されています。互いの強みを生かすことに加え、想いやビジョンに共感できているかどうかも、協働していく上で大切な観点であると猪狩さんのお話から学びました。

鹿島地区で地域のつながりをつくる公民館館長稲田さん

最後のプレゼンターは、鹿島公民館の館長を務める稲田雅子さん。九州出身の稲田さんは、旦那さんの転勤を機にいわきに移住しました。鹿島公民館は行政からの委託を受け民間で運営されていて、稲田さんはここの「民間人館長」でいらっしゃいます。

稲田さんからは、かしま病院との関わりと、公民館長として取り組んでいきたいことについて話していただきました。

稲田さんは、館長になる前の、あるエピソードを語りました。地域の子育てサークルに所属していた時に、一緒に活動を行っていたのが、かしま病院に務める看護師さんだったそうです。地域の中の同じ組織で活動したからこそ、病院では見えない看護師さんのプライベートが見えて、ぐっと距離が縮まったといいます。

また、稲田さんは過去に、お母さんが病気を患い、治療の選択を本人にまかせきりにしたところ、病気が一気に進行して、すぐにお母さんを亡くされるという辛い経験をされています。「自分があの時に、よりよい情報や選択肢を提示してあげられていたらという後悔が残っている」と稲田さんはおっしゃいました。

生活や暮らしに役立つ情報を学び、その情報が本当に信頼できるかどうかを自分自身で判断する場をつくりたい。あの時の後悔が、公民館館長としての原動力につながっているそうです。

医療や健康について学び、病院で働く看護師さんともフラットにおしゃべりできる公民館は、各地域で「い」と「ち」をつないでいく拠点の大事なひとつです。今後、地域の施設や公共施設との連携が進むと、いとちの輪がさらに広がっていくのではないかと思いました。

みなさん、4人のプレゼンを熱心に聞いていました。

対話を重ね、違いを知る

プレゼンが終わった後は、4人からの話題提供を踏まえて、「理想の『いとち』をつくるためにできること」をテーマに、ワークショップがはじまりました。

いとちメンバーの小松理虔が司会を担当

ワークショップがはじまる前に、各グループに段ボールで出来た直径1mの円形ボードが配られました。このボードの名前は「えんたくん」。対話の参加者のひざの上に置くと円卓になり、メンバーの発言や大事だと思った言葉をメモできる構造になっています。

えんたくんを通じて、各グループに円ができました

参加者はまず、はじめのグループ分けで「医療(い)側」と「地域(ち)側」の2つのグループに分かれます。さらに、1グループ4~5人ずつになるようにチーム分けをし、合計4つのテーブルに分かれます。

4つのテーブルができるとワークショップがスタート。それぞれ自己紹介をし、プレゼンの感想をシェアし合い、お互いの関係を深めます。さらに自分にとって「医療」とはなにか、自分にとって「地元」とはなにか、というテーマで言葉を交わしていきます。

ある「ち」グループは、出身や年代によって「地元」の捉え方が変わるという話で盛り上がっていました。「私は出身が関東で、そのまま関東にある大学に進んだから、『地元に帰省する』友達が羨ましかったな」「地元の友達とは疎遠になってしまっているので、住んでいて楽しい場所とは言い難いな」といった感じで話が進んでいきます。

一人の話題提供から、対話が盛り上がります

私たちは、たとえば「地元」と一口に言っても、それぞれ異なるイメージを持っています。同じ言語を使っていても、ひとつの言葉を解釈する時に微妙な違いが生まれているはずです。その違いを知ることで、自分の考えがより深まり、新たな捉え方が生まれるきっかけになると感じました。

グループ内で意見を共有し終えたら発表です。印象的だったのは、「い」側にとっては、医療は身近なものだったのですが、「ち」側にとっては「いざという時に利用するもの」であったこと。同じ「医療」という言葉なのに、持たれるイメージや意味合いが大きく異なるのです。

これは、地域にとって、病院や医療との距離がまだまだ遠いということなのではないでしょうか。いとちで見直していきたい「関係性」が、この対話に如実に現れているように感じました。

共創によって広がる「いとち」

再びグループ分けが行われ、今度は「い」が2名、「ち」が2名でグループをつくり、いとちが混ざった状態で対話が行われました。えんたくんを見ながら、お互いのグループで話されていたことを共有します。

「い」と「ち」それぞれのグループで出された意見を共有します

ワークショップの後半のテーマはふたつです。「あなたにとって理想の医療とは?」「理想のいとちをつくっていくために、明日からできることは?」。このふたつのテーマについて話し合いました。

理想のいとちをつくるため、自分にできることは何だろう?

後半になってくると、お互いの信頼も深まり、面白いアイディアが次々に出されているようでした。他の人の意見を聞いて、自分もこんなことができそうと新たなアイディアが生まれたり、似たアイディアを持つ人同士でコラボが生まれたりと、「い」と「ち」の垣根を超えて、共創が生まれている様子が見受けられました。

・まちを歩きながら、地域の人のニーズを聞き取る調査まちあるき
・研修医と地域の若者による「突撃!隣の晩ご飯」
・現役医師と共に酒を飲みながら「酒と健康」について語る会
・鹿島地区で行うカルタ大会や大運動会

などなど、たくさんのアイディアが各グループから出されました。出されたアイディアはどれも、私たちのプロジェクトでやっていきたいものばかりでした。今後、今回紹介出来なかったアイディアや、アイディアを実装していく様子も発信していきますので、お楽しみに!

最後はえんたくんを持ってみんなで記念撮影を行い、第1回いとちかいぎが終了しました。いとちかいぎが終わった後も、残った参加者同士で会話が弾み、会場はしばらくいとちかいぎで生まれた対話の熱に包まれていました。

みなさん、本当にいい笑顔です!

「いとち」をつくる最初の一歩

今回私が目の当たりにしたのは、最初は離れていた「い」と「ち」の距離が、対話を重ねる中で縮まっていき、最後には「い」と「ち」がごちゃまぜになっていくという変化のありようでした。

だれかの言葉を聞き、今度は自分の言葉を返し、そしてまた別の人の声を聞くということを繰り返すと、他者の言葉がそれぞれに影響しあって、少しずつ自分の考えも変わっていくんです。議論ではなく「対話」を通じて肩書きや立場を超えてごちゃまぜになった状態、これこそが「いとち」なのかもしれません。

その「いとち」をつくる最初の一歩は、言葉を交わすことです。「い」と「ち」が互いに歩み寄っていくために、これからもいとちかいぎで対話が生まれる場を作っていきたいと思います! プレゼンターのみなさん、ご参加いただいたみなさん、本当にありがとうございました!

今回は、コロナ禍を考慮し、限られた方々で開催したいとちかいぎでしたが、次回以降は開かれた形の対話を行っていく予定ですので、興味のある方はいとちのFacebookで情報をチェックしてみてください!

■いとちプロジェクトFacebook
https://www.facebook.com/itochi.kashima

文章/いとちプロジェクト・前野

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