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いとちインタビュー vol.7 | 石川拓磨先生 | 医師としての「自分らしさ」を模索する

「これからの地域医療は、病を治すことだけでなく、その地域に住む方々の健康問題や地域課題を捉える人間力が必要となります」

 こう語るのは、かしま病院の診療部部長を務める中山文枝先生です。人間力を鍛えるためには、病院以外の場所で学んだり自分と向き合ったりする時間も大切だと考えていらっしゃいます。

そのため、かしま病院では、地域医療実習の1コマで「人間力」を鍛えるプログラムを導入し、地域での暮らしに目を向けるまちあるきや、さまざまな立場の人と言葉を交わす対話のワークショップを行っています。

病院のまわりを歩き、「暮らし」に目を向ける
多様な人と語り合う対話の時間「いとちかいぎ」

福島県いわき市出身の総合診療科後期研修医・石川拓磨先生も、総合診療医を目指してかしま病院で1年半研修を行った一人。石川先生は現在別の病院で研修を行っていますが、今年の11月から毎週月曜日にかしま病院の応援診療に駆けつけてくださっています。

 かしま病院に戻られた今、応援診療を決断した理由を次のように語ります。「さまざまな症状の患者さんを診たいと思って選んだ研修先のかしま病院で、医師として自分がどんな瞬間にやりがいを感じるのかを再確認していたのかもしれません。」

 かしま病院の研修で見つけた、医師としてのやりがいはどのようなものだったのか。研修での学びや今後のビジョンを伺いました。

石川拓磨先生

【プロフィール】石川 拓磨(いしかわ・たくま)
1996年生まれ、福島県いわき市出身。福島県立医科大学卒業後、初期研修を公立藤田総合病院で行ったのち、福島県立医科大学地域・家庭医療学講座に入局。現在は総合診療専門医、新・家庭医療専門医の後期研修2年目。2022年4月から2023年9月まで社団医療法人養生会かしま病院総合診療科で勤務。2023年10月より大原綜合病院総合診療科に勤める。 


訪問診療で学んだ「チーム医療」の真髄

前野:2022年4月から2023年9月までの約1年半、石川先生は総合診療医としてかしま病院で研修されていましたよね。新たな研修先の福島市の大原綜合病院では、どのような研修をしているのですか?

石川:大原綜合病院では、総合診療医として救命救急の研修をしています。具体的な業務としては、入院している患者さんの担当から退院後のお宅への訪問診療を行なっています。

かしま病院で研修をしていた時は、入院している患者さんの診察や退院後のお宅への訪問診療など、切れ目ない医療の提供を経験させてもらいました。大原綜合病院では主に救命救急を担当しています。

前野:総合診療医の研修期間では、急性期医療も担当されるんですね。改めてになりますが、かしま病院で過ごした約1年半はいかがでしたか?

石川:研修先にかしま病院を選んだのは、急性期にこだわらず、どんな人でもどんな疾患でも幅広く診たいと思ったからでした。外来や入院、訪問診療、さらには地域に出て訪問診療をテーマにした講演を行うなど、さまざまな経験を積んだ1年半でしたね。 

研修で驚いたのは、かしま病院の訪問診療体制です。かしま病院は、自前で訪問看護ステーションを運営しているので、医師・訪問看護師・ケアマネジャーの連携がスムーズでした。しっかりとしたチームビルディングが土台にあるので、多職種のみなさんと情報共有する意識を常にもっていました。

研修当時を振り返っていただいた

前野:なるほど。石川先生は、総合診療医の先輩だけでなく、かしま病院で長年働いている多職種のみなさんからも、訪問診療とは何かを現場で学んでいたんですね。

石川:訪問診療で特に勉強になったのは、ご本人のケアを決定するプロセスです。この1年半、家族関係に悩みを抱えている方、身寄りのない方などに多く関わらせてもらったなと思います。 

ご本人のこれまでの歩み、家族間でのやりとりが積み重なって、ご本人の人生が形成されています。訪問診療で来た僕らが、急に横やりをいれることはできません。その中でもいろんなアプローチで話をして、思いを尊重しながら次のケアを決定していくプロセスは勉強になりました。

前野:ケアを決定するプロセスですか。

石川:医師だけでケアを決めることは決してなくて、多職種や家族のみなさんで協力するプロセスがあって、はじめてケアを決めていけるんですよ。訪問診療では、身寄りのない方を診ることもあって、その時はご本人と濃厚なコミュニケーションをとりながら支援を決めていきます。かしま病院は、さまざまな症例がそろっているなと感じました。


人や地域と長く付き合っていける医師を目指して

前野:いわき市内の協会や「いとちかいぎ」で講演を行うなど、どんどん地域に出ていく石川先生の姿が印象的でした。地域にはたらきかけるというアクションも、かしま病院での研修でやってみたいと思っていたんですか?

石川:地域志向のアプローチができるとは思っていませんでした。いわきの医療機関は医師不足という課題を抱えていて、日々の診療で業務はいっぱいいっぱいだと思っていましたから。

外に出ていくチャンスもあるんだよと上司から教えてもらって、それが挑戦のきっかけになりました。地域に出かけていくのをよしとしている病院の社風があったから、自由にやらせてもらえたんだと思います。感謝しています。

「訪問診療」についてプレゼンした、いとちかいぎ

前野:医師の数が潤沢だと、できることが増えるとも言い換えられますね・・・実際に地域に出てみて、気づいたことはありましたか?

石川:患者さんって、何かしら健康のお困りごとがあるから病院にくるわけじゃないですか。地域のイベントには健康な人も集まっていて、病院の外の世界には健康に興味を持っている人が大勢いるんだと身をもって体感しました。そのときはたしか、訪問診療をテーマに話したと思うんですけど、健康な人にもそういう情報は需要があると知りました。

市内の教会で行われたイベント。100名近くの方が参加した
石川先生の語りに熱心に耳を傾ける会場のみなさん

前野:私も医療をすぐに必要としている年代ではないので、自分から医療の情報をとりにいく機会があまりなかったのですが、どの年代でも、両親や祖父母を通じて医療と関わる場面はたしかにありますね。講演では、「訪問診療」について話されたんですね。

石川:総合診療医を目指した理由にもつながってくるのですが、自分は患者さんと長く付き合っていける医師になりたいと思っているんです。患者さんの最期を診る、そして看取るのが訪問診療ですしね。講演を通じて、自分の思いも伝えたいと思っていたのかもしれません。

これには、医師を目指すきっかけとなった幼少期の体験が根幹にあると思います。私の両親は公務員で医療の家系ではなかったのですが、実家の隣に薬局があったんです。今思うと、その薬局は地域に根ざしている薬局でしたね。薬剤師さんたちは薬局にいるだけじゃなくて、外に出て私と遊んでくれたりしていましたから。

前野:遊んでくれる薬剤師さん!? どんな遊びをしたのですか?

石川:今でも覚えているのは、実家の敷地内で走り回っている様子を薬剤師さんたちに撮影してもらうというものです。撮ってもらった写真はほとんどぶれていて、「ぶれてるじゃん!もういっかい!」と言って何度も撮り直しをお願いしていました。

その時から、医療職への憧れみたいなものが自分の中にありましたね。自分が人と話したり関わったりするのが好きだということもあり、医師の道を目指そうかなと思いました。

前野:遊んでくれた体験が大きかったんですね。

石川:そうですね。だから今でも、特定の臓器への興味よりかは、人と人とのつながりを大事にしたいなと思っています。患者さんと長く付き合っていける診療科がいいなと思い、最終的には総合診療科を選びました。


研修期間で、医師としてのやりがいを見つける

前野:11月中旬から12月末までの期限付きで、毎週月曜日に福島市から応援診療に駆けつけてくださっていると伺っています。研修先の大原綜合病院内でもさまざまな調整があったと思うのですが、石川先生が今回の応援診療を決めた背景を教えてください。 

石川:求められるところにいくという感じでしょうか。かしま病院をはじめ、いわき市は医師不足が深刻で、なんとかしなきゃいけないという状況なんですよね。

人手が多いに越したことはないですが、限られた人材でやっていかないといけないですからね。大変だけど、そこに燃える何かがあるんでしょうね。

前野:福島やいわきで医師になるモチベーションでしょうか。

石川:自分の場合、自分が出会った患者さんにうまくケアが提供できて、最後にありがとうと言われる瞬間がモチベーションにつながっているなと感じます。やりがいを見つけることが、医師を続ける上で大切だと思いますね。私は、自分がやりがいを感じる部分がかしま病院とマッチしているので、楽しくやれたのかな。

地域志向のアプローチもまた石川先生のやりがいにつながってくる

前野:なるほど。後期研修医ってプロフェッショナルを極めるだけでなく、実践を通じて医師としてのやりがいを自覚する力も同時に問われているのかなと思いました。

石川:同じ仕事をしていても、自分の適正の部分って人によって違うじゃないですか。そういう意味では、さまざまな症状の患者さんを診たいと思って選んだ研修先のかしま病院で、医師として自分がどんな瞬間にやりがいを感じるのかを再確認していたのかもしれません。

前野:最後に、今後の目標があれば教えていただきたいです。 

石川:自分が将来、病院で働くのかクリニックで働くのか、そのあたりも含めて選択の余地がある段階なので、医師としてのビジョンを形成していく大事な研修期間と捉えています。

地域に関わりながら汗水垂らして働くのが自分の性にあっているので、どんな環境でも人との関わりを主軸に置いて頑張りたいと思います。12月末まで、再びかしま病院でお世話になります。よろしくお願いします! 

 

医師を志す理由は人それぞれですが、今回のインタビューで、大学を卒業して実際に勤務を行うなかで、自分にとってのやりがいを見つけることが大切だと感じました。

今後の人生を主体的に考える姿勢は、石川先生をはじめとする研修医のみなさんだけでなく、医療を受ける側の私たちにも同時に問われていることだと思います。 

他者や社会と関わりながら、自分自身のモチベーションを発見したり問い直したりする機会を、いとちプロジェクトでも作っていけたらと思います。石川先生、ありがとうございました!

文章/いとちプロジェクト・前野


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