見出し画像

レポート | いとちかいぎvol.2 | 病気だけでなく「人をみる」医療って?

みなさんこんにちは! いとちの前野有咲まえのありさです。

医療と地域、「い」と「ち」の担い手によるコミュニティデザインプロジェクト「いとち」では、いわき市鹿島地区にある「かしま病院」のスタッフや医師、地元住民やまちづくりのプレーヤーと一緒に、医療と地域のよりよい関係を目指し、さまざまな取り組みを行なっています。

いとちのnoteでは、現場の先生たちへのインタビュー、地域医療・総合診療についてのさまざまな情報、イベントレポートなどを発信していきます。

今回お届けするのは、2022年9月28日(水)、かしま病院のコミュニティホールで行われた、第二回「いとちかいぎ」のレポート記事です。

この「いとちかいぎ」は、医療と地域の関係性を見つめ直すことを目的に、さまざまな人たちが、お互いの考えを共有する、いわば「おしゃべり会」のようなイベントです。地域医療について、地域の歴史について、地域住民が抱えるお困りごとについて、「医療」と「地域」に関するさまざまなテーマをもとに話し合います。

◆第一回目のレポートの様子は、こちらからご覧ください!

第二回目となる今回は、「いわき地域医療セミナー」の体験プログラムのひとつとして、かしま病院のスタッフのみなさんや福島県立医科大学の学生に向けて行われました。この「いわき地域医療セミナー」は、いわき市保険福祉部地域医療課と福島県立医科大学が連携して行われている取り組みで、医学生にいわきの地域医療を学んでもらおうと、平成21年度より実施されています。

この日のいとちかいぎには、かしま病院で働く医師、薬剤師、看護師、社会福祉士、事務職員のみなさん、さらには医学生や薬学生、初期研修医、地域住民など総勢35名が集まりました。今回のテーマである「人をみる」ということについて、あるいは、自分が思う理想の地域医療について、ざっくばらんに言葉が交わされ、充実したかいぎとなりました。当日の様子を撮影していた前野がレポートしていきます!



「人をみる」について学ぶ

かしま病院内にあるコミュニティホール

今回の会場になったのは、かしま病院内にあるコミュニティホール。コミュニティホールは、かしま訪問介護ステーションに隣接しており、時折、働く看護師やスタッフの様子を垣間見ることができます。一足先に会場に到着した医学生たちも、「医療」の現場の空気感を感じながら、かいぎがはじまるのを待っていました。

会場前には、おなじみの立て看板が

かしま病院の医師や看護師なども続々と会場に集まり、いとちかいぎがスタートしました! まず、地域や医療の現場で活動する4人のゲストによるプレゼンが行われました。

緩和ケア認定看護師として働く岡田さんのプレゼンから

1人目のプレゼンターは、かしま病院で緩和ケア認定看護師として働いている岡田聡子さんです。岡田さんは、緩和ケア認定看護師。患者やその家族の体や心にまつまわるさまざまなつらさを和らげ、病気と向き合いながら自分らしい人生を送ることができるようにサポートする役割を担っています。岡田さんからは、普段患者さんを看る上で、大切にしている視点についてお話しいただきました。

緩和ケアで大切にされているのは、「トータルペインの視点」だと岡田さんはいいます。トータルペイン(全人的苦痛)は、心体的要因・精神的要因・社会的要因・スピリチュアルな要因などの多面的な要因から患者の痛みを捉えようとする概念を指します。人それぞれライフスタイルや価値観は異なるため、どこにどんな痛みを抱えているかも人によって変わってきます。そのため、まずは患者や家族の話に耳を傾け相手の考えや思いを理解し、そこからどのようなサポートが必要かを探っていくそうです。

岡田さんがこれまでに経験した、ある症例を話してくれました。

「私が看ていた方で、いつも服装に気を遣っているおしゃれ好きな方がいました。その方が亡くなった後、亡骸に触れられないというお孫さんに、手にネイルをしてみてはどうかという提案をしたんです。家族の中でネイルができるのはお孫さんだけだったため、ネイルを通じて触れていただくことができました。その後、『家族の中で、自分だけができることを最後に祖母にしてあげられました』と感謝の言葉を伝えてもらいました。」

このエピソードからも、岡田さんが患者・家族と対話を繰り返し、希望や悩みを打ち明けられる関係性を築こうとしていたことわかります。「正解」がない緩和ケアの現場において、患者と家族の不安に寄り添いながら、最期まで伴走する看護師の役割を改めて知ることができました。


参加者に語りかけながらプレゼンをする聡子先生

2人目のプレゼンターは、かしま病院で総合診療科の医師として働いている渡邊聡子先生。いとちプロジェクトのメンバーでもある聡子先生は、医師として病院に訪れる地域の方々と向き合いながら、医療と地域がどのような関係性を築いていけたらよいかを日々現場で模索されています。聡子先生からは、「人を診るということ」をテーマに、地域における総合診療医の役割についてお話いただきました。

総合診療医は、地域住民の健康のために、まずはなんでも診察して、必要時には特定の部位や領域に特化して診察する「専門医」につなげる医師のことを指します。病気だけでなく、生活習慣や個人が持つ特性、関わるコミュニティ、地域にも範囲を広げて、患者と患者が住んでいる地域をまるごと診ていきます。

二児の母親でもある聡子先生は、総合医としてのじぶんと、母親としてのじぶん、ふたつの役割が重なっていることに気づいたそうです。例えば、こどもが風邪をひいた時、風邪の症状だけでなくこどもの気持ちや背景を探っていくように、総合医も臓器だけではなく人を診ていきます。生活や体調など家族をまるごとみるように、地域をまるごと診ていく。こう考えると、総合医が地域をどうみているか想像しやすくなります。

「総合診療」は、日頃から医療に携わる人や、医療を学ぶ学生にとっては聞き慣れた言葉かもしれませんが、患者として訪れる地域住民にとってはまだまだ馴染みのない言葉だと思います。そういった時に、聡子先生のように自分の言葉で話してくれる先生がいると安心につながっていきますし、プレゼンから総合診療の先生たちの、普段の診察のやりとりが垣間みえたような気がしました。


いとちプロジェクトの代表を務める江坂さんが、等身大の言葉で語ります

3人目のプレゼンターは、いとちプロジェクトの代表を務める江坂亮さん。江坂さんは、かしま病院の広報企画室のメンバーでありながら、鹿島町の住民でもあります。スタッフとして、住民として鹿島に関わる江坂さんからは、等身大の立場で「行きたい病院、生きたい地域」を語っていただきました。

江坂さんはかしま病院で働き始めてから、医師や看護師のみなさんと関わりを通じて医療従事者の「ひととなり」がわかるようになったといいます。また、かしま病院に対して寄せられた「話を聞いてくれてよかった」「看護師さんの対応が良かった」という患者の声からも、目の前の人を知ろうとする姿勢が大切だと実感されたそうです。

実は地域の人が求めているのは医師や看護師の腕の良さだけでなく、「人間力」なのではないかという江坂さんの言葉に、プレゼンを聞いていた医学生やかしま病院のスタッフのみなさんもうなずいている様子が見受けられました。今後、医学生やスタッフが地域の声に耳を傾けられる場として、かしまホームを活用していく重要性を改めて感じました。


小松さんのプレゼンを通じて、「医療と地域」の関わりを考えます

4人目のプレゼンターは、江坂さんと同じく、いとちプロジェクトのメンバーの小松理虔さん。小松さんは、地元であるいわきを中心に、地域住民や企業、地域のプレイヤー、学生など、多様なステークホルダーの人が関わり合いながら地域課題の解決を目指すプロジェクトの立ち上げを行っています。小松さんからは、これまでの実践をふまえて、「地域と生きる、他者と生きる」についてお話いただきました。

小松さんは、いわき市の地域包括ケア推進課の地域メディア「igoku」で、当事者や支援者、専門職、地域の人の想いを記事を通じて伝えたり、介護を実際に体験できるイベントやツアーを開催したりと、「知る・体験する」場づくりを実践されてきました。

これまでの実践を振り返る中で、小松さんは次のように語ります。
「風景、文化、生活様式、交友関係など地域のさまざまなものが自分をかたちづくっているのだと気づきました。人と地域は切り離すことができないんです。だからこそ、その地域で自分らしく、誰かと共に暮らし続けられることが大事だと思います」

目の前の人を診る・看ることを通じて、浮かび上がってくる「地域」に関心をもつこともまた、患者さんや地域の人を理解するきっかけになるのかもしれません。「自分にとっての地域は何か」を考えさせられるプレゼンでした。

プレゼンターの話から学びを得る医学生や薬学生たち


じぶんのことばで伝える

4人によるプレゼンが終わると、「理想の地域医療」をテーマにしたワークショップがはじまりました。前回のいとちかいぎと同様、発言をメモするためのボード「えんたくん」に一人一人の発言を書き込みながら、グループごとに対話が行われました。

いとちかいぎで大事にしているルール

ワークショップでは、全部で5つのテーマをみんなで考えていきました。

①私にとって医療とは
②私にとって地元とは
③人をみる、とは
④こんな医療機関があったらいいのに!
⑤明日からできること

冒頭の「私にとって医療とは」「私にとって地元とは」の二つのテーマは、学生と病院スタッフが別れてグループを作り、ひとりずつ質問に対する自分の考えを述べていきました。後半の「人をみるとはどういうことか」「こんな医療機関があったらいいのに!」「明日から自分にできること」の三つのテーマは、学生と病院スタッフがごちゃまぜになった状態でグループが作られ、普段なかなか聞く機会がないお互いの意見を興味深く聴いていました。

メンバーの言葉を、えんたくんに書き込んでいきます

前半の二つの質問では、「私にとって医療とは毎日楽しく働けて、飽きない職業です」という職業観としての医療を思い浮かべる看護師や、「大学に入学してからこの地域に住みはじめましたが、地元とはまた違った住みやすさがあり、愛着がわきました」という薬学生の意見などが、全体で共有されました。これまでの体験に基づいた意見が多く、質問を自分ごととして捉えている様子が見受けられました。

どのグループも、活発な対話が行われていました

学生と病院スタッフが同じグループになった後半では、学生が話しやすい雰囲気をスタッフの方が率先して作っていたこともあり、どのグループも活発に意見が交わされていました。中でも印象的だったのは、「人をみるとはどういうことか」という質問です。はじめは自分の意見を伝えるのに躊躇していた人も、4人のプレゼンを踏まえて、これから自分がどのように目の前の患者に向き合っていくかを真剣に考える様子が伝わってきました。

一人ひとりの意見を、みんなで共有していきます


さまざまな人の声をきく

前回よりも、「医療」に関わりがある人が多く参加していた今回のいとちかいぎでしたが、地域医療や総合診療で大切な「人をみる」ことについて、より深く考えられた時間になったのではないかと感じました。また、会の終わりにとったアンケートでは、こんな声が寄せられていました。

【医学生】
・普段考えることが少ないことについてしっかりと向き合い、話し合えたのが良かった。他者の意見を聞くことで、偏った考えにならず、広い視野を持つことに繋がると思うので、非常に良い体験となった。
・普段医学生間だけでは聞くことの出来ない、様々な意見、特に現地で働かれている先生方の率直な意見を聞くことができた。

【薬学生】
・自分の考え方をまとめて文字にすることで、考え方を理解することができた。他人(医師、看護師、医学生)の考え方を聞くことができとても有意義だった。

【社会福祉士】
・普段医療従事者同士での話しかしないため、医学生との話ができてとても新鮮だった。

【看護師】
・学生からの意見を聞き、看護職を始めてから忘れてしまっていた思いや考えを改めて思い出させてもらうことができた。同じ医療従事者と話し合うことができて、これからより良い看護を提供したいと思った。

【医師】
・「人を診る」ということには複数の意味があり、その人のバックグラウンドを深く知る必要があると思った

いとちかいぎでは、グループごと車座になって座り、ひとつの「問い」をみんなで考えていきます。このような場で対話をすすめるからこそ、学生と社会人、上司と部下といった普段の上下関係が崩れ、お互いの意見を認識しやすくなるのだと改めて実感しました。

生まれ、育った環境、好きなもの、抱えている悩みなど、異なるバックグラウンドを持つ一人ひとりに向き合う医療の世界。いとちかいぎが、その人の声に耳を傾け、「人をみる」姿勢を育むきっかけになっているのかもしれません。プレゼンターのみなさん、ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました!

医学生たちを見送る、かしま病院のスタッフといとちのメンバー

先日、いとちプロジェクトの拠点「かしまホーム」がプレオープンしました! ひとやすみできる休憩所として、打ち合わせ会場として、さまざまな方に足を運んでいただいております! しばらくは、毎週火曜日・金曜日の二日間、13時~16時での時間でオープンしておりますので、みなさまぜひお気軽にお立ち寄りください!

◆いとちプロジェクトFacebook


文章/いとちプロジェクト・前野






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?