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文化 (culture)|001キーコンセプト

文化とは、人間の相違点と類似点が認識され、特徴づけられるさまざまな方法を説明し、特徴付ける用語です。文化的伝統、文化相対主義、文化帝国主義、大衆文化、ポピュラー文化などの多くの重要な思想と切り離すことはできません。さらに、文化は、人類学者および他の学問領域の分業を示す認識可能なジャンルとして使用されます。文化人類学自体は、文化の意味、その変化、およびその問題の概念化に基づいて方法論が構築されており、それらはすべて学際的です。文化の概念化、および文明、国民国家、美学、経済、日常生活に組み込まれた意味の問題は、米国などの西洋諸国だけでなく多くの国でも、学問分野としての人類学の全体系に結びついています。このように文化の概念は人類学や社会学の基本的なキーコンセプトとして、学問分野の内外の変化に適応するように継続的に形作られてきました。

まとめ

多義的な文化 (culture)の概念

英語圏の「文化」の概念は、下記のようにもっとも複雑な意味を持つことばの一つになっています。

この語自体が、ヨーロッパの言語のいくつかにまたがって、複雑な歴史的発達をとげたためでもあるが、おもな理由は、この語が現在いくつかの違った学問分野で、またいくつかの相容れない異なった思想体系において、重要な概念をさすようになっているためである

レイモンド・ウィリアムズ(Raymond Henry Williams, 1921-1988)

私の学部時代のポストモダニストによる文化批判、その後のカルチュラル・スタディーズによる見直しと、文化の定義が大きくゆらぎ、ひとことでは説明できないことばの一つになっています。

レイモンド・ウィリアムズ:

カルチュラル・スタディーズの創始者のひとりでケンブリッジ大学の演劇学教授だった批評家のウィリアムズは、話題を呼んだ『文化と社会(Culture and Society)』(1958)のなかで、英語の語彙のキーコンセプトとなっている語の多くは、18世紀後半から19世紀前半にかけて常用されるようになったものであり、一般的な言葉に新しい意味が付与されたと指摘している。
※ 産業industry、民主主義democracy、階級class、芸術art、文化cultureを挙げる。

文化culture の変化をみると、社会・経済・政治の変化に人々がどのように対応してきたかがわかる。もともとは「自然成長物の手入れをすること」から人間性に与えられる「訓練と涵養」を意味した。(1)人格の完成=教養、(2)一つの社会全体における知的発展の一般的状態、(3)学芸の総体、(4)物質的・知的・精神的な生活様式全体である。

(4)の生活様式全体という捉え方は、19世紀後半にこの語が獲得した新たな意味である。フランスの社会学者デュルケムが『宗教生活の原初形態』(1912)で提出した社会学的概念でもあり、T・S・エリオットも『文化の定義のための覚書』(1948)でこの文化の定義を採用している。

3つの観点からの定義

文化をアプリオリに定義するのではなく、これまでの文化の定義のされ方を 問題にする。それは3つの観点からおこなわれ、それらに対応する 「文化の分析」があると主張している。
(1)文化は「理想」である、(2)文化は「記録」である、(3)文化は「社会生活のあり方」である。

(1)文化は普遍的価値をもつ「理想」:「文化/教養」
文化は普遍的な価値によって導かれた人間の完成・理想化された究極目標である。それを研究対象(文学、芸術の表象)の中に見いだし、それについて記述すること。

(2)文化は経験・思想の「記録」:「文化財」
文化は人間の知性と創造力の結果の所産であり、その細部に至って人間の思考や体験が記録されている。方法としては実証主義にもとづく批判的分析となる。人間の創作活動による記録の範囲はおびただしいものがあり、多くの研究者は、いくつかの特定のトピックを拾い出し、それ以外の事象との連関の中で実証的な証拠を見いだし、説明しようとする。その中で重要になるのは、実証と妥当的な解釈である。

(3)文化は「社会生活のあり方」の総体:「共同体の生活様式」
現在の生活する人々の観察を中心に、その観察のスタ イルを応用して、過去に存在した人の生活も類推されうる、それらの特定の生活のあり方を記したものが文化である。文化は人間が創作したものだけでなく、日常/非日常におけるさまざまな制度や行動の中に現れる。

「生活の質についての感覚」

ウィリアムズは、(1)の文化と共通言語による文学や絵画など文化財としての(2)の文化を通じて、はじめて我々は「生活様式」としての(3)の文化を、さまざまな要因からなる「多層的構造」として、また「生活の質についての感覚」としてとらえることができるという。

われわれが文化全体を、なんらかの意味で実質的に知ることができるとすれば、それは、自分の生きているとき、生きているところだけだと思われる。…過去のどんな時代の研究においても、最も把握しにくいものは、特定のときとところでの生活の質について感得されるこの感覚、個々の活動が結びついて一つの考え方、生き方となっていたその結びつき方についての感覚である。

ウイリアムズ『長い革命』(1951:1983) p.63

1980年代以前の定義:

「文化あるいは文明とは・・社会の成員として の人間(man)によって獲得された知識、信条、芸術、法、道徳、慣習や、他のいろいろな能力や気質(habits)を含む複雑な総体である」

E・タイラー『未開文化』1871

はじめに、神はみんなに器を与えた。粘土でできた器だ。この器で彼らは自分 たちのいのちを飲んだ。‥‥彼らはみんなそれで水をすくったが、彼らの器はそれ ぞれ別々だ。我々の器は今では壊れてしまった。もう終わってしまったのだ。 (Benedict 1959:21-22)。

R・ベネディクト An anthropologist at work, 1959

文化は、象徴に表現される意味のパターンで、歴史的に伝承されるものであり、人間が生活に関 する知識と態度を伝承し、永続させ、発展させるために用いる象徴的な形式に表現され伝承される概念の体系。

C・ギアーツ『文化の解釈学1』1987

「文化」を知るためのブックガイド

Barfield, Thomas, ed. 1997. The Dictionary of Anthropology. Oxford: Blackwell.

A useful and practical guide to concepts, theories, and methodologies in social and cultural anthropology.

Birx, H. James, ed. 2006. Encyclopedia of Anthropology. 5 vols. Thousand Oaks, CA: SAGE.

A unique collection of over one thousand entries that focuses on topics in physical/ biological anthropology, archaeology, cultural/social anthropology, linguistics, and applied anthropology. Also included are relevant articles on geology, paleontology, biology, evolution, sociology, psychology, philosophy, and theology.

Kluckhohn, Clyde, and A. E. Kroeber. 1952. Culture: A critical review of concepts and definitions. Cambridge, MA: The Museum.

This book listed 162 definitions of culture. The authors favored a definition limited to cognitive (symbolic, meaningful) culture.

Layton, Robert. 1997. Introduction to theory in anthropology. Cambridge, UK: Cambridge Univ. Press.

Useful introduction text.

Levinson, David, ed. 1991–1996. Encyclopedia of world cultures. 10 vols. Boston: G. K. Hall.

Comprehensive descriptions of cultures in each region of the world.

Levinson, David, and Melvin Ember, eds. 1996. Encyclopedia of cultural anthropology. 4 vols. New York: Henry Holt.

A compendium of knowledge relevant to cultural anthropology with some coverage of linguistics, biological anthropology, and archaeology.

Williams, Raymond. 1983. Keywords: A vocabulary of culture and society. Rev. ed. New York: Oxford Univ. Press.

Offers a comprehensive review of the many uses of “culture” in the English-speaking world. Originally published in 1976.

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