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『糸と魚と川Vol.06』イベントレポート① ~ヒト×ヒト=コト~

2022年7月13日、駅前広場キターレにて、「外と中、関係人口とローカルプレーヤー・企業・団体との接点をどう作り広げていくか?その先の未来は?」をテーマにゲストをお招きして、第6回となるトークセッションがおこなわれました。

本記事は、そんなイベントの内容をまとめたものです。

~今回のゲスト~
・合同会社 浅見製作所 浅見裕 さん
・株式会社BASE968 小出さん、矢島さん、野村さん

※本イベント『糸と魚と川』の詳細はこちらから。
↓↓↓
https://note.com/ito_sakana_kawa/n/n3f771adde3f2

最初に進行役、糸魚川市山崎さんより今回のタイトルである『ヒト×ヒト=コト』についてご紹介いただきました。

『糸と魚と川 Vol.04』が開催された際、「新しい人の流れを作るにはどうしたらよいか」という課題に対し、ゲストの一人である三熊さんは「人(ヒト)が大事だ」と答えられました。
そこからヒントを得て「人を惹きつけて仲間を作っている方々から議論を交わしてもらいたい」という想いから、このようなタイトルを付けたのだそうです。

まずは1人目のゲストである浅見さんより自身の活動についてご紹介いただきました。

◎課題の解決よりも楽しさを追求する


■浅見さんプロフィール

1982年生まれ。埼玉県横座町出身。2016年に地元にUターン。
ホームページ制作を手掛け、横瀬町を中心に町内外の企業と連携。オンラインコミュニティの運営にも携わる。
無類のサウナ好きで、サウナ関連のイベントの企画や自分たちで別荘を買い、独自のサウナ作りにも挑戦。
最近、半年間で10kgの減量に成功した体験談をnoteに執筆。

■横瀬町とは?なぜアツい?

埼玉県秩父地域の南部に位置する8,200人の町です。「空気がきれいで、自然がゆたかで、人があたたかい」という田舎では、よくあるキャッチフレーズが似合う町でもあります。

ですが、横瀬町はひと味違うのだと浅見さんは語ってくれました。
横瀬には「何もないけど、なんか楽しんでいる人が多め」なのだそうです。

では、どんなことを楽しんでいるのでしょうか。

・官民連携プラットフォーム『よこらぼ』
『よこらぼ』とは、企業・団体・個人のみなさんが、実施したいプロジェクト・取り組みを実現するために横瀬町のフィールド・試算を有効利用し、横瀬町がサポートをする仕組みです。

例えば「地域課題を解決する新しい医療アプリを作り、どこかの自治体で実績を作りたい」という企業があった場合、なかなか取り合ってくれる自治体も無く、住民の理解を得づらいという状況が多々あります。

しかし、横瀬町はその実証実験を積極的に受け入れると宣言しているのです。これまでに200件弱の提案をされ、その中から100件を越えるプロジェクトを支援してきました。

企業自体を誘致するとなると、支社を作ったり本社を移転したりと大変ですが、プロジェクトや事業単位であれば気軽に挑戦できます。このように横瀬町は場所・環境・企業誘致などのハード面をサポートするよりもコミュニティ、イベント、企画事業誘致などのソフト面のサポートが充実しているのです。

では、これまで浅見さんが関わったプロジェクトの一部を紹介しましょう。

■浅見さんが関わったプロジェクト

・キャリア教育プログラム「はたらクラス」
毎月、外の方と秩父地域の方を一人ずつ呼んで、それぞれの活動をプレゼンしてもらい、働き方をシェアするという取り組みです。これまで3年間で合計38回実施しています。

・「川とサウナ」
清流とともにサウナを楽しむという、主に都内の方が遊びに来る人気プロジェクトです。

これらはいずれも事業ではないので、お金が生まれるわけではありません。では、その原動力とは何なのでしょうか。

横瀬町の人々は、課題解決という目的では動いておらず、人口減少をどうにかしたいと思っている人はほとんどいないのだそうです。「それよりも目の前で楽しいことをやりたいと思っている人が多い」と浅見さんは語ります。

たとえば横瀬町の職員であり、全国で多くの講演もおこなっている田端さんは「面白いこと、やろうぜ」と語り、横瀬町の町長も「Funだよ!Fun!!楽しまなくちゃ!」と常に熱く語ってくるのだそうです。

さて、このように楽しいことに取り組む横瀬町ですが、かつて浅見さんは壁にぶつかりました。

■課題解決アプローチの失敗例

浅見さんは東京からUターンをして、すぐに有志で秩父の課題解決の会議を始めましたが上手くいきませんでした。会議をしても、課題だけ吐き出して、誰も何も動かずに、会議をやることだけが続き、結局何一つ形にできなかったのだそうです。

なぜなら会議で出た課題は、参加者にとって、どれも自分事ではなかったからです。「自分とレイヤーと合わない課題と向き合っても、熱は生まれない」と浅見さんは語ります。

たとえば人口減少は多くの自治体の課題として語られることが多いですが、ほとんどの人にとって関係の無い話です。それは人口が減ったからといって自分の生活に直結しないからです。家族が病気になったり、ケガをしたりすると実害が出てくるため、その時に初めて自分事の課題となります。

このような経験から、浅見さんは「楽しむしかない」と思うようになりました。そこで民間初のコミュニティマネージャースペース『area898』を作り、仲間の熱を吐き出せる場所を作りました。農協の空きスペースを借りて、総予算60万円という低資金でスタート。お金がないことで、自分たちでDIYをするなど工夫が生まれたのだそうです。

「制限があるところにイノベーションが生まれる。『面白い』の原動力は愛と熱を生み、そして愛と熱は人を動かし、人を惹きつける」大人が本気で楽しみ、愛と熱を生み出していることが横瀬町のエネルギーの源泉だと感じると語りました。

では具体的にどんなことをしているのでしょうか。

■サウナで広がる輪

サウナで汗を掻いて水風呂に入ると多幸感が得られ、いわゆる『整う』という状態になります。そのサウナと別の企画を同時におこなう「川とサウナと○○」と毎回違った内容のコラボ企画を開催し、会を重ねるごとに参加者が増え、現在は360人くらいのコミュニティに成長しました。
今では仲間でお金を出し合い、サウナ付きの別荘まで作ったのだそうです。

このように「地方の課題を解決したい。地域のためではなく、誰かを幸せにしながら好きなように楽しく生きることが結果として地域創生に繋がると思っている」と締めくくりました。

渋谷:横瀬プレゼン部というプロジェクトで関わり始めたんですが、参加者はみんな楽しそうで、町長も来たのにはビックリしました。皆さん、距離が近いですよね。どうしてなんでしょうか。

浅見:私と町長など、メンバーはみんなチャットでやりとりをしていますね。そのスピード感が熱を生むのだと思っています。

渋谷:横瀬町の皆さんは、全員そんな感じなんでしょうか?

浅見:流石に全員ではないですが多いですね。横瀬町のムーブメントに関心を持つ若者も増えていると実感します。

渋谷:やはり課題解決でなく、楽しむことが大切なんですね。『糸と魚と川』でも楽しくチャレンジしている人を呼びたいと思いますし、そのような人の回りには人が集まるんだと思います。浅見さんの活動資金も持ち出しですもんね。

浅見:今でも持ち出していますし、回収できていませんが、お金じゃない成果が横瀬町では生み出せていると思っています。普通、町と一緒にプロジェクトを立ち上げるのは、なかなか出来ることではないですよね。ですが、自分たちの町で自分たちでプロジェクトを立ち上げた経験は、とてもやりがいがありましたね。

渋谷:糸魚川でも、今日のイベントの配信を観ている人でも、自分たちで持ち出したお金で活動されている方もたくさんいるかと思います。大変かと思いますが、『楽しい』を追求すれば浅見さんのようになれるということですね。

続いてBASE968のメンバー3人より、それぞれの自己紹介と活動についてご紹介いただきました。

◎BASE968

■小出薫さんプロフィール

東京出身。高校~大学時代に自分で自分事を決める『自主自律』を刷り込まる。農学、公共政策学を学び、また演劇サークルに所属中、フライヤー作りをするためIllustratorやPhotoshopを教わる。その後、弁護士になり、池袋で1年感働いた後、司法過疎対策としてIターンで糸魚川へ移住。

■糸魚川の住民へ

糸魚川に移住したばかりの頃は、地元に少ない名字ということで「この名字ということは糸魚川の人じゃないね」と言われたり、ゴミの分別を間違えたら自宅にゴミが届くなどの体験をし、戸惑うことも多かったそうです。

しかし、区長のご厚意で糸魚川の伝統的な祭りである『糸魚川けんか祭』に親戚枠として参加したり、青年会議所やライオンズクラブのメンバーとしても活動したりしていくことで、少しずつ糸魚川の方々と繋がりが生まれていきました。

「糸魚川はコミュニティが近いことで初めは怖いと思うこともありましたが、今思えば、それに救われたのだと実感します」と小出さんは語ります。

そんな小出さんは、現在に至るまでに糸魚川で様々な活動をしてきました。

■小出さんの糸魚川での活動遍歴

・2017年11月~2022年3月
「何かをやりたい」メンバーと一緒に『まちづくりらぼ』を結成
復興まちづくりカフェ、市民会議の開催

・2019年1月 
BASE968を結成。地域交流、人材育成、ものづくり、防災という地域を幸せにできる4つの要素を軸に活動を開始。

・2019年2月
リノベーションスクールの開校

・2020年4月~2022年3月 
駅前広場キターレにて企画担当と防災担当に就任。

・2020年4月
テレワークオフィスthreadの経営を開始

・2021年5月 
糸魚川駅北ラボ&イトコレの開催

このように多くの活動をしてきた小出さんですが、「糸魚川には余白がたくさんあり、それを放っておくのはもったいない」という想いが原動力となっていると締めくくりました。

■矢島好美さんプロフィール

地元出身、高校卒業後、美の最先端への憧れから東京都内の理容美容専門学校へ進学。卒業後は美容関連会社大手のLIPPSへ入社し、8年間の働いた後、大手芸能プロダクションSTARDUST PROMOTIONに転職。アイドルのサポートやグッズの製作・販売を手掛ける。
その後、糸魚川へUターンし、まちづくりらぼを結成。現在も駅前広場キターレで活動中。

■糸魚川へ戻るまで

同期には専門学校や大学を卒業したら、すぐ地元に帰る人が多い中、矢島さんは16年間東京で過ごしました。美容関連会社大手LIPPSの入社時に、最終面接で社長から「新潟出身なんですね。以前、新潟出身者と仕事をしたことがありますが、新潟の人は仕事ができるというイメージがあるので採用します」という体験をし、新潟という土地のポテンシャルを感じたそうです。

その後、激務から睡魔と体重管理に悩まされる中、ヘルニアになったことで転職を決意します。次に矢島さんが働き始めたのが、大手芸能プロダクションのSTARDUST_PROMOTIONです。ここではアイドルの活動支援やグッズの製作・販売に取り組みます。

■相手を呆れさせられたら勝ち

これは矢島さんがファングッズを製作する中で気付いたことです。アイドルグッズといえばペンライトが一般的ですが、それだけではなく、5色に光る手袋、サムライが着るような甲冑、果ては10kgを越える印籠の形をしたショルダーバッグまで作成しました。

ライブ会場に、そんな重たい物を持ってくるのは大変です。当然、ファンからは苦情が殺到しました。ですが、矢島さんが熱を持って作り続けたことでファンの方からも最終的には呆れられながらも多くの方が購入してくれたのだそうです。

「ファンはアイドルの応援のためなら、いくらでもお金と時間をかける」
その姿を間近で見たときに、「これだけの熱量や時間を、糸魚川の人達が地元で出してくれた時に、初めて糸魚川の地域が活きたり、もっと住みたいと思えるような町になる」と気付いたのだそうです。これが矢島さんが糸魚川へ戻るきっかけになりました。

■地元で余白探し

糸魚川へ戻ってすぐに糸魚川大火が起きました。再び東京へ戻ることも考えましたが、「地元の復興のために多くの人が立ち上がるはずだ」と思い、地元に残ることを決意します。そして、まずは元々お祭りが好きだったこともあり、自分のスキルを活かせるのではないかと、地元で1番大きい『糸魚川おまんた祭り』の事務局に入りました。

ですが、地元の夏の風物詩のはずのお祭りの事務局は、矢島さんが入るまで1人で運営していることに衝撃を受けたのだそうです。これがきっかけとなり、復興まちづくり情報センターに飛び込みました。そこで出会ったのが本日一緒に登壇している小出さんと野村さんです。

そして、3人でまちづくりらぼを結成し、矢島さんは現在もキターレに残って活動を続けています。

■野村祐太さんプロフィール

・公益社団法人中越防災安全推進機構 
・NPO法人にいがた災害ボランティアネットワーク
・市民団体まちづくりらぼ (副代表)
・株式会社野村防災 (代表取締役)
・株式会社BASE968(元代表取締役)

野村さんが地元にUターンをして間もなく糸魚川大火が起き、復興の力となるため糸魚川市を訪れました。しかし、糸魚川には友達が1人もおらず、誰とどうやって復興をしたらいいか分からなかったのだそうです。そのため、まずは仲間を探すべく、まちづくりらぼを立ち上げました。

この団体は何かを解決したくて集まったメンバーではなく、各々がやろうとしている活動を1人では大変だから、みんなで補い合う仲間を作るイメージで作ったのだそうです。まちづくりらぼは「堅苦しくないし、抜けたい人は抜けてもいい。できる人がやればいい」というユルい団体として始まりました。

これが野村さんにとって、糸魚川で最初の思い出深い体験だそうです。当時の駅前広場キターレでは指定管理者の募集をしていました。指定管理者になるには法人格を持っていることが条件だったため、本日登壇している小出さんと矢島さんと共に株式会社BASE968を立ち上げ、初代指定管理者を担うこととなりました。

そして、「駅前広場キターレの立ち上げに関わった責任を感じて、まずは初代の指定管理者の2年間を全うしよう」という思いで続け、任期の終了とともにBASE968は解散を迎えました。

現在は長岡市へUターンし、防災減災の普及活動や、官民連携まちづくりの活動に従事。糸魚川大火からの復興で得られたノウハウを元に、他の町に防災を切り口としたまち作りを進めていく活動をおこなっています。

ここで3名の所属するBASE968の活動について、改めて小出さんよりご紹介いただきました。

■BASE968の活動

大火の後、地域の人から聞いたのは「まちがさびしい」という声でした。調べてみると、1950年代は人口が78000人くらいでしたが、ある時から急に人口減少が始まったわけではなく、戦後は単調に右肩下がりで減っていることが分かりました。

それ以前の糸魚川の町は、昔は石灰石の採掘や路線の敷設など肉体労働をする人が多く、通りは人がごった返して、すれ違う人の肩がぶつかるくらいだったのだそうです。ですが、時代の移り変わりと共に都市圏へ人材を送り出し続ける役割を担うようになり、町の作りが変わってきたのです。

「『まちがさびしい』という気持ちは分かるが、60年以上前から変わっていない減少を止めることは難しいので、まずは自分が楽しむことが大事である」と小出さんは語ります。1人でなくても、もしみんなで楽しみたいなら「タイミングを合わせて、特定の曜日の特定の時間に集まると決める」という発想で、これまでも駅前広場キターレで1年間に100を越える企画を開催してきました。

これだけの企画を開催できたのでは、今回のテーマである『人を巻き込む』ことが大事なのです。

小出:矢島さんは、何かをやりたそうな顔をしている人を巻き込むのが上手いと感じるんですが、どうやって声を掛けたんですか?

矢島:顔だけでは判断は出来ませんが、キターレのような施設で働くことによって様々な人に出会うので、その人達の会話の中から漏れ聞こえてくる話題に切り込んでいきましたね。
アイドルの魅力を引き出すように「どんなふうになりたい?」とズズズズズって聞き込むんです。

小出:なるほど。「やりたい」と「ここに居続ける」というテーマは時にぶつかることがあるんです。ですが、それはネットワークを利用したり複数拠点生活をすることで解決できます。会社勤めをしながら町のことに関わるのはなかなか難しいし、「家族を優先するのか地域を優先するのか」という問題もあります。このあたりを次のトークセッションで浅見さんに伺いたいと思っています。

引き続きトークセッション編はこちらから。
↓↓↓
https://note.com/ito_sakana_kawa/n/ne8420dfb592a

今回のイベントのアーカイブ動画はこちらから。
↓↓↓
https://www.youtube.com/watch?v=V6y3YwdOdAw&t=3974s